一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第17話 駄菓子屋貞子

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「二個で132円になります~」

 彼女は極々普通の接客をしてくれたのだけれど、僕は勝手に湧き起こった恐怖心から「ビクッ!」と身を退いてしまった。

「あら!やっぱり驚いちゃいましたぁ~?♪お客さんわたしね。映画の『貞子』に似てるって村でも評判なのよぉ」

 彼女は両手で前髪を除けると、目玉をわざとギョロリとさせておどけた。

 容姿とのギャップが激し過ぎるぞこの貞子!

「そ、そうですか、それは良かったですね...」

 何一つして良いことは無いのだけれど、早くこの場を立ち去ってしまいたいという気持ちが勝り、サイフから140円取り出し高速でレジ横に差し出す。

「どうもーーーっ!!釣りは要りませんのでーーーーーっ!!!」

「ちょっと!?」

 たった8円のチップとした僕は、未桜の手を握り駄菓子屋から逃げるようにして出て行った。

「ハァハァハァ....」

 陽の当たる道に出て息を切らすも安堵する。

 説明が足りなかったけれど、あの駄菓子屋はコンビニなどと違い照明が暗く無音のためなかなかの雰囲気があり、そこへ来ての「貞子」は僕の恐怖心を煽るには十分過ぎたのだった。

「な~にビビっちゃてるの一輪。相手は普通の人間だよぉ、探偵のくせに相変わらず怖がりだねぇ」

 未桜がここぞとばかりに意地悪な顔をして意地悪を言う。

「うっさいなぁ。苦手なものは苦手なんだよ。そのうち克服してやるさ」

 断っておくが僕は世間一般でいうところの「ビビり」なわけではない。単に非科学的で非現実な、取り分け幽霊のようにオカルトな類がちょっと苦手なだけなのだ。

 それに駄菓子屋の貞子は人を驚かせることを楽しんでいるように思えた。

 売上を伸ばすためにリピーターを増やさなければならない立場にありながら、なんたる挑戦的な接客であろうか!

 ん、いや待て、さっきまで恐怖心でいっぱいだった心のどこかがおかしい...

 ...あれ!?ひょっとして、まさか、僕は貞子に好奇心が沸き始めているのか!?

 微かにではあるものの、駄菓子屋の貞子をまた拝んでみたい気持ちが心の芽生えたような...

 これは......恋!!??


 まぁ、そんなわけはミジンコの毛ほども無いのだけれど、冷静に分析してみれば、お化け屋敷に入りたいという欲求と同じで単なる「怖いもの見たさ」であるいえようか。

 なるほど、駄菓子屋貞子の狙いはこれだったんだな!と僕は勝手に気ままに結論づけた。

 駄菓子屋貞子のことを考えつつ、ガリガリ君を無意識に食べていてふと気付く。

 僕は既にアイスな部分は食べ終わり、なんと残った棒をスルメでも食べるようにひたすら噛んでいたのである...

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