一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第16話 ホラー映画

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 僕が出口の戸に手をかけ店内から出ようとすると。

「ありがとうございました!またのご来店を~!」

 意気が良く心地良い店主の声が背に掛けられたのだった。
 
 空腹が激ウマのラーメンで満たされた僕達は、ラーメン屋を出ていよいよ目的の廃墟を目指して歩き始めた。

 僕の探偵事務所が所在する町はそれなりに都会といえる環境にあり、建物の数も人口もほどほどに多いと云って良いだろう。

 普通に暮らしていれば町の空気の質など気にならないし何の支障も感じない。

 しかし、この井伊影村の長閑でノスタルジックな風景を眺めながら、廃墟までの道をテクテク歩いていると、呼吸するたびに空気が澄んでいることを嫌でも実感させられてしまう。

 春という季節と青空広がる上々な天気から、なお一層のこと「空気が美味しい」と感じたものである。

 さほど広くはない村の中心部を抜けようとしたところで、未桜が何かを見つけ歩く足を止めて立ち止まった。

「一輪!アレってもしかして駄菓子屋じゃないかなぁ?」

 彼女の目線の先を追うとまた木造の古い建物が在り、「駄菓子屋」の看板こそ無かったものの、出入り口の戸が開けっぴろげで店内に並べらた駄菓子が垣間見える。

「どうやらそうらしいなぁ。帰りにでも...」

 と横を見るとそこに未桜の姿は無く、既に駄菓子屋へ向かい走っていた。
 
 やれやれ、本能のままに動いてやがる。

 仕方が無いというか僕も興味をそそられ駄菓子屋に入ることと相成った。

 店内はさほど広くなく六畳くらいのスペースで、木製の棚に敷き詰められた駄菓子の中には僕の知る駄菓子も幾つかあるにはあったけれど、恐らくはほとんど40代から50代の方が懐かしさで胸をときめかせるような物ばかりであった。

「一輪!アイスがあるよ!アイス食べようよぉ♪」

 未桜が壁際に置かれた業務用のアイス冷蔵庫の前に立ち、駄菓子を眺めていた僕を手招きして呼び寄せる。

「アイスか...うむ、悪くないな」

 春のポカポカ陽気の中を陽気に歩き、ちょうど冷たい物を口にしたいと思っていた僕は未桜の意見に同調した。

 未桜がかの有名な「ガリガリ君」を手に取ったのを見て。

「僕もそれでいい。ついでに取ってくれ」
 
 選ぶのを面倒くさがった僕は、安定して間違いの無い「ガリガリくん」を選択したのである。

 支払いをしようと店の奥まで行くと、明らかに年代物だと見受けられるレジの後ろに、二十代くらいの女性が丸椅子に座り待機していた。

 僕は彼女を目にした瞬間息を呑んだ。と同時に心臓の鼓動が一気にテンポを上げる。

 椅子に座った女性の姿は、真っ黒で真っ直ぐなロングヘアで前髪も極端に長く、痩せ細った身体にうつむき加減なその姿勢が......アレなのだ、日本が世界に誇るホラー映画のキャラを強烈に思い出させた。

 たぶん彼女が普段から着用しているであろう白い割烹着を除けば、井戸から出て来るシーンのインパクトが強すぎて、忘れたくても忘れられないあの「貞子」そのものに見えたからである。
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