一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

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第20話 道

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 気の良い老夫婦が乗る耕運機を、僕達は視界から消えるまで見送った。

 耕運機のけたたましいエンジン音が無くなり、静けさを取り戻した僕達の周囲に、森の奥から「ホー、ホケキョ♪」と鶯(うぐいす)の美しい鳴き声が響き渡る...

「鶯の鳴き声って綺麗だねぇ...春だなぁ...」

「...悦に浸って心地良さげにするのは一向に構わないし吝かでもない。だが未桜よ。それ以前に僕に対して何かやらなければならないことがあるんじゃないか?」

「えっ!?なになに!?風車の件なら確か謝ったよねぇ?他に何かやることあったかなぁ?...」

「なるほど...君はあれっぽっちで僕への謝罪は済んだと言うんだな...」

 僕は今日一番のシリアス顔でそう言った。
 と云っても、探偵事務所から此処までシリアス顔をきめ込む場面などただの一度も無かったけれど。
 
 本気度が伝わったのか、未桜は僕の顔を見るなり真剣な表情をして頭を下げる。

「この度はご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした。以後気をつけます」

 よし、それで良い...

 仮にも、否、事実上僕は彼女にとって事業主なのだから、本来言われずともこれくらいの気概があって然るべきなのだ。

 未桜が社会人として働いたのは僕の探偵事務所を置いて他に無い。

 ゆえに僕は説教などが苦手ではあるものの、時として失態を犯したあとの礼儀や処置などの方法を教えてやらなければならないのである。

 いわゆる教育的指導というやつだ。

「やれやれ、君が井伊影村に来て頭を下げるのはもう三度になるな。少しは自分にブレーキをかける練習もしてくれよ」

「うん、わかった...」

 僕は彼女の下げた頭をそっと優しく撫で撫でしてやった。

「よし!じゃあ、気持ちを切り換えて豆苗神社に向かうとしますか!」

「うん♪」

 一瞬で元気を取り戻した助手の鈴村未桜。
 本当に反省しているのかどうか疑問に思うところはあるけれど、これが彼女の最も愛すべき長所なのだから致し方あるまい。

 それより今度こそ真打、いよいよもって廃墟探索の始まりだ。

 さっきまで風車のあった場所から入り、舗装されておらず土の剥き出しになった道を進み行く。

 道は予想通り全く手入れがされていない状態で、両端に生えた雑草が膝を越える高さまで伸び生い茂っていた。

 道幅も1mそこそことかなり狭く、車はもちろんのこと、人がたった二人並んで歩くことさえ難しいと云えるだろう。

 人として当たり前だが僕が先頭に立ち、森の奥へと続く道の安全性を確かめながら歩き続ける。

 前方にたくさんの木々が見え、もう少しで森に入ろうかという地点に差し掛かったところで思い掛けない自然現象が起こる。

「ビュウッ!!」

「きゃっ!?」

 春一番に近い突風が横から吹き荒れ、未桜がいつのまにか被っていたアイボリー色の帽子を風が連れ去ってしまった...
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