一輪の廃墟好き 第一部

流川おるたな

文字の大きさ
48 / 168

第48話 御神体

しおりを挟む
 備品などが破壊されたり消失してしまったがらんどうな拝殿は、廃墟独特のある意味寂しげな情景を醸し出していた。

 散々、破壊者や盗人のことを云っておいてなんだが、人が廃墟へ侵入して悪戯に害を成したであろう形跡も、この空間にノスタルジックな雰囲気を感じさせる一つの要因となっているのである。

 普通に考えて許し難い行為であることは紛れもない事実だったりするのだが...

 僕と未桜は出来るだけ振動を起こさないよう慎重に拝殿を調べ、ひとしきり撮影を終えると拝殿と神殿を繋ぐ幣殿へと向かう。

 幣殿の床は拝殿の床と比べなぜだか傷みが激しく、至る所に床板の凹んだ歪みが生じていた。

 幣殿と言っても建物全体の規模が小さいため特に目を引く物も無く、足下に気をつけながらほとんど素通りして戸が開いたままの神殿へそっと入る。

 神社でいうところの神殿と呼ばれる場所には御神体が祀られるのが通例である。

 神体(しんたい)とは神道で神が宿るとされる物体であり、神社を訪れる参拝客の礼拝の対象となる神社の肝とも云えるものだ。

 福岡県に存する宗像大社(むなかたたいしゃ)では玄界灘(げんかいなだ)に浮かぶ沖ノ島が神域(神体)とされ、

奈良県に在る大神神社(おおみわじんじゃ)では三輪山が神体とされており、

他にも三重県の皇大神宮(こうたいじんぐう)では三種の神器の一つである八咫鏡(やたのかがみ)となっていて、

各々の神社によって御神体の姿形は全く異なるのだからおもしろい。

 この燈明神社にも御神体は存在していた筈なのだけれど、残念なことにそれがどういった形や大きさをしているのかまでは調べきれていなかった。

 もし仮にあとで淀橋さんと再び会う機会があったとしても、燈明神社には5歳までしか居なかったわけだから恐らく知らないだろう。

 だが、この神殿の中央の壁に取り付けられた神棚のような物には、何かが置かれていた形跡を示す異色な部分が残っていて、空いたスペースにすっぽりと収まる御神体があったのかも知れない。

 取り敢えず僕は御神体の見当たらない神棚に向けて手を合わせ、心の中で、この場に居合わせることへの謝意を述べた。

 因みに助手の未桜も続けて手を合わせたが、何を想って手を合わせたのかまでは僕の知るところでも無かったし、正直訊くのが怖かったので別段彼女の想いには触れることはなかった。

 外が曇っている所為で窓から入る光は少なく、神殿の空間は何処となく不気味であったけれど、僕たちは何か新たな発見がないものかと、懐中電灯を取り出して隈なく探索したものである...
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

処理中です...