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第77話 人魂
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初めて目にする不思議で不気味な光景前にして、呆然と思考の停止した僕の身体は一時のあいだ硬直していた。
船体と海の波が衝突して弾けた波飛沫が顔に当たり、その冷たさにハッと我にかえった僕は、船の舵をとる祖父の元へ駆け寄り、水上に浮き青白い光を放つ火の玉の存在を示唆する。
祖父が舵を掴んだまま火の玉のある方へ目線を送ると、「ありゃぁ...」とうめくような声を出して速度レバーに手を掛け、速くはなかった船の速度をさらに緩めた。
そして舵から両手を離し、火の玉の方へ全身を向け手を合わす。
祖父は目を瞑って「ナンマンダァ、ナンマンダァ、ナンマンダァ...」と何度も何度も念仏を唱えたのだった。
わけが分からなかった僕も、真剣に念仏を唱える祖父の姿に同調し見よう見真似で念仏を唱える。
祖父の念仏が止まると、まだ念仏を唱えていた僕に「もうよかよ」と声がかかり、呟くように説明してくれた。
祖父が言うにはあの火の玉は、否、話を聞いたあとでは「人魂」といった方がしっくり来るかも知れないが...それはともかくとして、昨年の寒い11月の日、タコ壷漁に船を出して帰らぬ人となってしまった祖父の友人に違いないとのことだった。
事故当時、翌朝になっても帰って来ないのを心配した家族の方が警察に連絡し、海上保安庁の隊員と、集落の人々が懸命に捜索したのだが、残念ながら亡骸が発見されることは無かったらしい...
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