天狗と骨董屋

吉良鳥一

文字の大きさ
上 下
31 / 169
緋色の罪

第十五話

しおりを挟む
 ネコに背後を取られ地面に押さえつけられた椿。
 まるで先程木の根に捕らえられた時のお返しと言わんばかりだ。

 巨体に押さえ付けられ全く身動きの取れない椿は、ネコに気付かれないよう後ろから木の根で襲おうとするが、その前にネコが椿の上から離れ、攻撃は不発に終わったその瞬間__

「 わざわす闇よ、無に帰せ」

「……っ!?」

 利音が呪文と共に両手をパンッと合掌すると椿を囲むように黒い膜が現れ、あっという間に球状に包まれた。
 そしてキュッと潰れるように小さくなると、弾けるように跡形もなく消滅した。
 何も無くなったその場所を複雑な顔で見ているのは真尋だ。

「本当に殺す必要があったんでしょうか?」

 利音が応戦するのをただ見ていただけで、何もしなかった真尋がとやかく言えた立場では無い事は理解していた。
 けれど本当にこれで良かったのかと言われれば胸にトゲが刺さったような突っ掛かりが残る。

「情なんてかけるな。
妖に人の道理は通じない。
気を許したら命取りになる。
今回の事で学んだ筈だよ」

「……っ!!
それは……そう、ですけど……」

 迷いのある真尋に利音は鋭い声でそう断じた。

 確かに椿の妖には騙されもしたし、彼の言うことも理解は出来るが、妖が皆そうとは限らないのではとも真尋は思ってしまう。
 それは自分が妖の血を引いているからかも知れないが………

 いずれにしても、今回椿をもっと説得することも出来た筈だし、利音が椿を祓うのを止めようとすれば止められた筈なのにそうしなかったのは後悔が残る。
 
 説得するのが無駄だと思った?
 利音と関係を壊したく無かったから止めなかった?

 結局都合の良いことばかりで面倒を負うのが怖かっただけだ。

 情けない__

 今回の件はなんとも後味の悪い結末となったが、真尋にはいい勉強になった出来事でもあった。
しおりを挟む

処理中です...