天狗と骨董屋

吉良鳥一

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片割れは傍らに在り(上)

第八話

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 一方その頃、秋人と竜樹は事件があった現場へと来ていた。
 そこにはまだ被害者の血痕が残されている。
 二人はしゃがんで手を合わせ祈りを捧げた。

 立ち上がって周りを見渡しても既に悪鬼の気配は何処にもない。
 封じていたと言う地蔵も警察によって回収され、後に天明道へ渡ったそうだが、特に有益になる情報は何も得ることは出来なかった。

「しかし、何の手掛かりも無いですね」

「そうだね」

 竜樹の言う通り、現場に来てみたものの妖気も残っていない上に、何処へ行ったのかも見当もつかない。
 
「困ったな……」

 早く見つけ出さないとまた被害者が出てしまう可能性が高い。
 だが手掛かりが無い以上地道に探すしかない。

「仕方ないか……」

 秋人は面倒な依頼にため息をついた。

  そんな二人を他所に夜中に悪鬼の少女は現場から遠く離れた人気ひとけの無い廃屋にいた。
 真っ暗で、蜘蛛の巣や建物の欠けたコンクリートの破片が散らばる中に少女は佇んでいた。

 ピチョンと天井から水が滴り落ちる音がする中で少女は兎のぬいぐるみを両手で抱えていた。

「大丈夫よ。
絶対に迎えに行くから……」

 そうぬいぐるみに話しかけている。
 そしてそれをぎゅっと抱き締める。

 するとその時、カツンカツンと足音が聞こえてくる。
 それも複数の足音と男女の声も聞こえる。
 そしてそれが少女に近付いて来たかと思うと、突如光が少女を襲う。
 それと同時に悲鳴が響き渡った。

 見ると懐中電灯を持った若い男女二人が少女を見て興奮していた。

「やだ、ほんとにいるじゃん!
ヤバいよ……」

「え…マジで幽霊?
ねぇ君」

「ちょっと何してんのよ!?
止めてよ!!」

「大丈夫だって」

 少女に話し掛けてきた男性は恐る恐る近付いて来て、後ろから女性が必死に引き留めようとする。

「今はまだ回復しないと」

 少女はそう呟くと、目を赤く光らせた。
 そして次の瞬間、懐中電灯が床に転がり、鮮血が照らし出される。
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