天狗と骨董屋

吉良鳥一

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片割れは傍らに在り(下)

第九話

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 血濡れた手、苦悶の顔。
 負の念を具現化したようなそれが真尋に迫る。

    あ、飲み込まれる……
    そう思ったその時だった。
 
「真尋‼」

 シャリンと言う音と共に錫杖が上から降ってきて、それを貫いた。
 するとそれは悲鳴を上げしゅるしゅると地面の中へと還って行った。
 そして真尋の前に空から大きな翼を羽ばたかせ降りてきたのは秋人だ。
 
「秋人さん」

 真尋に名を呼ばれた秋人は地面に突き刺さった錫杖を引っこ抜くと、後ろに倒れ込んでいた真尋に手を差し伸べる。
 その手を取り、起き上がった真尋はありがとうとお礼を伝える。

「全くお前は……
色々聞きたいことはあるけれど、まずはあの悪鬼だ」

 ここで漸く合流出来た秋人。
 悪鬼の他に見慣れない人物がいることに気が付き、そちらを見る。
 同じように利音も秋人が何者なのかと気になっている。

 真尋と同じく天狗の能力を持ち、克つ人の気配もする。
 ただ今はその他に気になっている事がある。
 彼が手に持っているもの、それは紛れもない兎のぬいぐるみ。
 しかも悪鬼の持つ物と瓜二つだ。
 その事に真尋も気が付いたようだ。

「ねぇ秋人さん。
そのぬいぐるみどうしたの?」

「ん?ああこれ……
ここに来る途中でちょっと……」

 説明すると長くなるので悪鬼を倒した後に説明すると言うが、悪鬼自身もそのぬいぐるみに気持ちが高ぶっていた。

「それは……
なんでお前が持ってる!?
返せ!!」

「……っ!?」

 悪鬼は秋人に向かって飛び掛かってくる。
 咄嗟に錫杖で受け止め、天狗火の炎を錫杖に纏わせ悪鬼を追い払う。

「縛」

「……っ!?」

 秋人に弾かれた悪鬼の隙を逃さないと、利音が束縛術で悪鬼をしっかりと縛り付けた。

「禍い成す闇よ、無に帰せ」

 そしてすぐさま次の術を繰り出す。
 悪鬼が黒い幕に覆われるその瞬間に秋人が持っていたぬいぐるみが秋人の手から離れ、悪鬼の元へと飛び込んだ。

「!?」

 ぬいぐるみは光を放つと利音の術が弾き返された。
 ぬいぐるみは悪鬼を助けたようだった。
 これはまた厄介な敵が現れてしまったと一同更に緊張が走る。
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