天狗と骨董屋

吉良鳥一

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真尋の過去

第三話

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 顔を上げるとそこには真尋よりも数倍ある巨体に一つ目の化け物が大口を開けて涎を垂らしていた。

「あ……」

 あまりの恐ろしさに声も出ない。
 喰われる、そう思って目を瞑ったその時、化け物が唸り声を上げた。

 恐る恐る目を開けたと同時に化け物が消滅していくのが見えた。
 何が起こったのか分からないが、地面には錫杖だけが残されていた。

「大丈夫?」

 するとそこに澄んだ男性の声が真尋に語りかけてきた。
 地面に突き刺さった錫杖を手に取りながら真尋の前に現れた怪しげな男。
 沈み行く太陽の逆光で顔がよく分からない。
 
「誰……」

 警戒する真尋に男はしゃがみこみ彼の目線より下から話し始めた所で、男の優しげな眼差しが漸く姿を見せた。

「初めましてだね。
私は君のひいお祖父ちゃんだよ」

 そう答えた彼だが、見た目は20代くらいの青年でとてもひいお祖父ちゃんとは思えなかった。
 
 すると彼は立ち上がると背中から漆黒の翼を生やして見せた。
 それは真尋が突然手に入れた能力と同じものだった。

「おいで、私が君の知らない事全て教えてあげる」

 そっと伸ばす掌に真尋は戸惑いながらも、自身の手を重ねた。
 自分と同じ能力を持ち、自分を理解してくれる相手だと思い、すがるように彼の手をぎゅっと握った。
 
 春日秋人と名乗った曽祖父。
 そこからは展開が早かった。
 秋人は真尋の家に行き、真尋を自分の所に住まわせたいと直談判しに行ったのだ。

 勿論初めて会う人物に家族は唖然とし、困惑する。
 だが秋人の天狗としての能力、真っ黒な翼を広げると真尋も同じように翼を広げる。
 その場にいた家族は言葉を失う。
 その後どうなったか、真尋は突然の事であまり記憶が無いが、秋人の家で暮らすことになった。
 勿論、学校も転校になる。
 最後に家を出るとき唯一母が真尋を抱きしめながら啜り泣く声ははっきりと覚えていた。
 
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