セカンドライフを異世界で

くるくる

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9話 討伐依頼

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 朝、いつものように朝食、掃除、洗濯を済ませて畑へ行く。昨日植えたポマロの様子を見るためだ。

 「…」
  またか…、思わず無言でポマロを見る。そう、ポマロはもう出来ていた。とにかく収穫してしまおうと作業をしていると、シザーが裏へ回ってくる。庭で日課の筋トレをしていたのだ。
  逞しい上半身が汗で濡れている。思わず見惚れていると声をかけられる。

 「ナツメ?どうした?ポーっとして」
  ハッと我に返って答える。
 「昨日植えたポマロがもう実ってて…農作スキルも持ってるけどまだ1だし」
 「またか…で、農作スキルか、なあ、畑の土は解析できないか?」
 「あ、なるほどね。やってみる」

 <解析>   魔法の土  
        成長促進、品質向上効果
        素材(腐葉土・万寿草・???)

  シザーの予想通りだった。結果を伝える。

 「魔法の土か…やっぱセリばあさんの魔法だろうな。2年経っても消えてないって事は循環してるのか?…まあ、害は無いし、様子見ながらこのまま使おうぜ。スキルが上がったら効果が分かるかもしれねえし」
 「そうだね。色んな野菜を試してみようかな」

  昨日作った回復薬は昼過ぎに持っていく事にして、シザーに皮の鞣し方を教わる。

 「そうだ、それでいい。お前は器用だな」
  私は文字通り手取り足取り、ついでに腰も取られながら教わっていた。
 「そうかな?…ねえ、ここはもう少しやった方が良い?」
 「いや、もういい。やりすぎると出来た時の見栄えが悪くなる」
 「そっか、じゃあ今日はここまで?」
 「ああ、そうだ」

  その日に出来る分を終わらせて昼食を摂り、広場へ向かう。ロイさんを連れて行くというシザーと一旦別れ、1人でギルド入って2階に上がる。奥の机にいたモーブさんがすぐに気が付いてこちらへ来てくれた。

 「こんにちは、モーブさん。回復薬持ってきました」
 「こんにちはナツメさん、早かったですね。初回は数も多いので後2、3日かかると思っていました」
  笑顔で話すモーブさん。滅多に笑わないってシザーが言ってたけど、やっぱりそんな事ないと思うな。
 「時間があったので。どこに置けばいいですか?」
 「こちらへお願いします」
  カウンター内のキャビネットの前のテーブルを指す。キャビネットにはショップの在庫が保管されている様でカギも付いている。品物を出して、モーブさんが数の確認をしているのを後ろで見ていると1人の女の子がカウンター内に入ってきた。

 「戻りました~!あれ!もしかして噂のナツメちゃん!?」
  その子は私を見るなり指差しながら大声ではしゃぐ。いきなりのハイテンションについて行けず戸惑っていると、モーブさんが確認を終えて振り返る。
 「ポピー、人を指差すのは止めなさい。…すみませんナツメさん。彼女はポピー、ショップの店員です」
  嗜めてから紹介してくれる。彼女は頭に手をやり、テヘっと舌を出す。行動が子供っぽいが、年齢は16、7歳だろう。赤毛のショートヘアで目も赤っぽい。笑顔が可愛い子だ。身長は160㎝位、向かい合うとお互いある場所に注目してしまう。胸だ。対象的な大きさに一瞬無言になる。先に自己紹介したのは彼女だ。

 「はじめまして!あたしはポピー、16歳だよ!よろしくね、ナツメちゃん!」
 「初めまして、ナツメです。よろしくお願いします。ポピーさん」
  挨拶すると右手の人差し指を立ててチッチッチッと首を振る。
 「硬いよ~!歳も1つしか違わないし、呼び捨てでいいよ!私もナツメって呼んでいい?」
  ニコッと笑いながら言う。フレンドリーな人だな~。
 「分かった。よろしくね?ポピー」
 「うん!じゃあ今度一緒にお茶しようね!」
 「うん」
  女の子とお茶って久しぶり。楽しみかも。

  話が終わるのを待っててくれたモーブさんに報酬を受け取ると、シザーとロイさんが来た。

 「終わったか?」
 「うん」
 「じゃあ下に行こう。受けようと思ってる依頼があるんだ」
 「はい。…モーブさん、ありがとうございました。ポピー、またね」
  2人に声をかける。モーブさんは返事してくれたが、ポピーの様子がおかしい。顔を赤くして俯いている。
 「…?ポピー、どうかした?」
  覗き込むと慌てて返事をした。
 「な、何でもない!ま、またね!近いうちにお茶しようね!」
 「?うん」










 このリグレスの周りには小さな村がいくつかある。村には正式なギルドが無く、出張所が設けられているだけなので当然冒険者も少ない。その出張所が無い場合さえある。そのため、村でこなせないような依頼がある時はリグレスに依頼が来る。その筆頭が討伐依頼で、今回受けた依頼もそういう村の一つ、ノース村からの討伐依頼だ。

 「オークが目撃されたらしい。正確な数は分からないけど、あいつらは単独では行動しないからね、普通は3~5体くらいかな」
  依頼書を手にロイさんが言う。
 「オークは放っておくと増えるからな。さっさとやっちまうにかぎる。ついでにナツメのレベル上げにもなる」
 「レベル上げ…が、頑張る」
  グッと胸の前で拳を握って言うとシザーが頭を撫でる。
 「そんなに気張らなくても大丈夫だ。俺が付いてる」
  笑顔で言われて、少し照れながらも安心してしまう。少しでも追いついて役に立ちたいな。と考えているとロイさんがわざとらしく咳払いをする。

 「…それを言うなら俺たち、にしてよ。それとこんなとこでいちゃつかないでよシザー」
  いちゃ…いえ、そんなつもりは…否定しようとするが墓穴を掘りそうなので止める。
 「うるせえ、こんなのいちゃつく内に入るかよ。で、いつ発つ?」
 「…はあ。早い方が良いよね」
 「なら明日だな。ナツメはいいか?」
 「大丈夫」
 「決まりだね。まあ距離的にどうやっても一泊は野営だけど、早い方が良いよね」
 「7の刻だな」
 「だね。じゃあ僕はもう行くよ。馬は準備しておくから」
 「ああ、頼む」
 「じゃあ明日ね、シザー、ナツメちゃん」
 「はい、よろしくお願いします」

  ロイさんと別れた後、シザーに言われて買い物をする。ノース村では殆ど買い物が出来ないから、食料などを買いだめしておくのだそうだ。ボックスに入れておけば傷まないし、たくさん買っておこう。ついでに花屋さんに寄ってローサの木の事を話して花を買い、セリさんの墓地に寄ってから帰る事にした。シザーも一緒に住むことになったのでその報告を兼ねて。

  帰ってから、明日まで自然乾燥しようと思っていたウェアウルフの皮をシザーの風魔法で乾かして、仕上げる事にした。一通り作業が終わると電子音。加工スキルを獲得した。

  夕食後、野営時の食事に備えてご飯とパンを準備する。それが終わったら後はお風呂に入って寝るだけ。

  2人でベッドに入り、シザーの腕に包まれておやすみのキスをして寝るはずが…
舌を絡めとられ、口内を蹂躙され、大きな手がお尻や太腿の内側を撫で始める。

 「ん…んんっ、ん~!」
  シザーの胸を叩くと少しだけ唇が離れる。
 「ん…は、どうした?」
 「は、あ、…どうした?じゃなくて、今日はもうダメ。お風呂でも、その…したし」
 「何で」
 「んん、だって、明日からオークの討伐に行くんだよ?」
 「だから?」
 「…体調、整えておかないと…あ」
 「明日は移動だけだろ。それに、ロイも一緒だとさすがに何日か我慢しなきゃならねえ。だから、な?」
  私の体を撫で続けながら甘い声で言い、首筋を舐められる。
 「あ、あ、んん、シザー、待って」
 「待てねえ」
  手が胸を這う。
 「一回、だけだよ?」
  それを聞いたシザーの瞳が変わる。ニヤッと笑うと私に覆いかぶさった。











 翌朝、朝食や身支度など準備を済ませてロイさんの家に。セクロさんやレネットさんに挨拶をし、寂しいとぐずるマルコを宥めて、落ち着いてから馬を連れて門へ向かう。

 「あ…」
  門番をしていたのはクロスさんだった。彼とはあれ以来顔を合わせていなかった。挨拶しなきゃ、と思って口を開くとクロスさんが先に言った。

 「おはよう、3人でどこへ?」
 「…おす」
  一応挨拶はするが、不機嫌を隠そうともしないシザー。
 「おはようございます」
 「おはよう、依頼でノース村へ行くんだ」
  あの時の事を知ってか知らずか、ロイさんが答える。
 「そ、そうか。気をつけてな」
  ぎこちないが笑顔でそう言ったクロスさんに返事しようとすると、シザーが私の肩を抱き寄せ、
 「行くぞ」
  と一言、さっさと歩きだす。後ろでロイさんがため息を吐いて、じゃあね、と声をかけてから追いついてきた。そこからは馬に乗ってノース村へと出発した。

  そういえば初めて会った時もシザーの馬に乗せてもらったっけ。あの時はお尻が痛くて大変だったけど、今日は痛くない。乗り方を思い出したのもあるけど、シザーが後ろから支えてくれるのが大きい。腕の中にすっぽり包まれてすごく安心できた。

  休憩や昼食を挟みながら進み、太陽が辺りをオレンジ色に染め始めた頃、今夜の野営地に着いた。ノース村へ行く時はいつもこの辺で休むらしい。

  テントは2人に任せて夕食の準備をする。といっても主食は出来ているので、シチューを煮るだけだ。ホワイトソースはミルク、小麦粉、バター、コンソメで作って、切った野菜と肉を炒めてから煮込む。
  煮込んでいる間にテーブルが出てきて驚いた。木製の組み立て式で、コンパクトに出来ていてイスまで付いてる。

  鍋を火から下ろしてテーブルに運び、シチューを盛って2人に出してから自分も座る。
 「「うまい」」
  珍しくハモった後は無言で食べる。すごい勢い…
「あの、たくさん作ったから…」
  おかわりしてね、と言い終わる前にシザーが皿を出す。
 「おかわり」
 「僕も!」
  ロイさんも続く。

  多めに作ったが鍋はキレイに空になった。

 「あ~、美味しかった!野営で温かいご飯なんて贅沢だね~。ねえシザー、簡易キッチン買わない?」
 「ああ、そうだな。あってもいい」
 「簡易キッチン?」
  想像は付くが一応聞いてみる。
 「野営用のキッチンだ。普通のより小さめだが、良いのになるとオーブンも付いてる」
 「僕らは料理なんて出来ないからさ、今までは携帯食か現地調達した肉を焼いて食べるくらいだったんだ。野営が続くと飽きてさ~」
  でも!とロイさんは興奮気味に続ける。
 「これからは、ナツメちゃんと一緒だもんね!あると便利だと思うんだ。どう?」

  確かに、携帯食ばかりじゃ力が付かないよね。栄養のバランスも悪そう。ただ高そうだよね、いいのかな。

 「値段なら心配すんな。たいしたことねえ。それに、野営でもお前の飯が食えるんだ。あった方が良い」
  シザーが見透かしたように言う。
 「…うん、じゃあ頑張って美味しいの作るね!」
 「やった!なら、用意は僕に任せておいて!」
  ロイさんが張り切って言った。

  片付けが済むとロイさんはテントに行った。夜はシザーと交代で見張りをするためだ。
  シザーは火の前に毛皮を敷いて座り、片膝を立てて腕を乗せている。隣に座ると私の腰を抱き寄せた。

 「まだ寝ないのか?」
 「眠れそうになくて」
  小声で話す。
 「眠れない?どうした?」
  優しく聞いてくれる。
 「…笑わないでね?」
 「ああ」
 「一緒に野営なんて初めてでしょ?…何だか嬉しくて目が冴えちゃって」

  シザーは一瞬目を見開いて驚くとククッと笑った。

 「…笑わないでねって言ったのに」
  膨れてそっぽを向く。子供っぽいと思われたかな。
 「可笑しかった訳じゃねえよ、可愛い事言うからだ。…ほら、こっち向け」
 「…」
 「ナツメ」
  優しく呼ばれて振り向くと唇が触れる。舌でノックされて少し口を開くと、すぐに口内を隅々まで舐められて気持ち良さに小さく震える。
 「ん、ふぁ、んんっ、シザー…」
 「は、ん、ナツメ…」

  息を奪われるような長いキスが終わって、シザーの肩に頭を乗せる。少しの間黙って目の前の火を見ていた。沈黙が心地良い。

 「そろそろ休まねえと明日が辛いぞ。俺も交代したら寝る、ちゃんと先に寝てろよ?」
 「…うん。おやすみ」
 「おやすみ」
  ちゅっと触れるだけのキスをしてテントへ入った。











 朝、いつもの時刻に目が覚めるとシザーの腕の中だった。ガッチリホールドされているが、起こさずに腕を抜けるコツを掴みつつあったので初日より大分短時間で身支度をして外へ出た。

 「おはよう、早いね」
 「おはようございます。私はいつもこの時間ですよ。見張りお疲れ様でした、お茶淹れますね」
 「うん、ありがとう」
  言ってふぁ~っと大きなあくびをするロイさん。早く私も見張りできるようにならなくちゃ。

  簡単な朝食を作りながらお茶を淹れて出す。

 「ありがと~。…あ~、美味しい」
  ベーコンエッグを作っているとロイさんが近くに来る。
 「いい匂い…もしかしてこれがあの時作ってたベーコン?」
  あの時とはマルコが泊まった日の事だろう。仕上げは見ていたがロイさんだけ食べていない。
 「そうですよ。すぐ出来ます。ロイさんはパンですか?ライスもありますよ」
 「悩むな~。…う~ん、昨夜パン食べたからライスにしようかな」

  ロイさんにご飯を出しているとシザーが起きてきた。後ろから私を抱きしめる。

 「きゃっ、ちょ、シザー…」
 「ちょっと!僕の前で堂々といちゃつくの止めてよ!」
  ロイさんがシザーを睨む。
 「うるせえ。これは日課だ。やらねえと始まらねえ」
  日課…確かに毎朝してるけど…じゃなくて!
 「シザー、恥ずかしいから人前では…」
  小さい声で言う。そう、かなり恥ずかしい。顔が熱い。
 「大丈夫だ。そのうち慣れる」
  しれっとしてそんな事を言う。
 「…はあ~。しょうがないな~」
  ロイさんはあっさり諦めてしまった。え~…もう少し抵抗してほしかった…

 朝から恥ずかしい思いをした後、朝食を食べて手早く片付け、野営地を発った。
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