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19.紹介
中へ入るとギルド独特の空気感に圧倒される。外観から予想してはいたがそれ以上のものが私を出迎えた。
広々としたホール、ずらっと窓口が並ぶカウンター、依頼ボードも5枚以上はある。上への階段と奥への通路は左右にあり、右にはハイミルの倍はありそうな酒場、左にも壁際にイスが設置されている。他の街なら空いている筈のこの時間も多くの冒険者が集っていた。
レオンさんが簡単に中の説明をしてくれる。解体倉庫などは裏から出た別棟、右側3分の1は1階から3階まで酒場と宿、地下には訓練場、2階は武器、防具、回復薬などのショップ、3階が本部、屋上もある。
地下まであるんだ、と呆気に取られていると呼ばれる。
「キラ、来い。酒場のマスターに紹介してやる」
「え?あ、はい」
待っていてくれた彼と並んで酒場へ向かうと、昼間っから呑んでいた冒険者達が私とレオンさんを見て驚いている。
「クレーブス」
「おっ、帰ったかレオ…ン…?」
クレーブスと呼ばれたガタイの良い男性は、目をテンにして口までポカーンと開けていた。それに全く構わず続けるレオンさん。
「ああ、今帰ったばかりだ。クレーブス、こいつはキラだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
レオンさんが言ってくれたので私も挨拶した。が、クレーブスさんは固まっている。
「おい、クレー?」
「……は?え?あ?ああ。よろしくな…」
もう一度呼びかけられて返事するがまだぽけっとしている。
「…手続き」
「…あ?そ、そうか、泊まりか。え~と…」
「説明は俺がした」
「そうか…で、どっちにする?」
「素泊まりでお願いします」
ヴェスタのギルドの宿はプランが2種類ある。ひとつは他と同じ普通のプランで冒険者は一泊500ギル、新人400ギル。もう一つが素泊まりで、その名の通り寝るだけのプラン。冒険者300ギル、新人200ギル。共同のダイニングとキッチンがあって自由に使えるので自分で作って食べられる。レオンさんがヴェスタに来る道中で教えてくれたのだ。
私の場合は一度食材を買えば複製出来るし、自分でした方が何かとお得だ。
取り敢えず30日と頼んでガードを渡すと、クレーブスさんは宿帳に記入しながら目を見開く。
「登録後数日でDランク…?レオン、凄い彼女を見つけたな…」
他に聞こえないようボソッと言う。
…へ?今なんて?
「そうじゃねえ」
「あ?彼女じゃないってのか?おれはレオンに女紹介されるなんて初めてだがなぁ?」
「うるせえよ、余計な事言うな」
初めて…それがホントなら嬉しいかも…って何考えてんの!
ひそひそ交わされる言葉を耳にしながら百面相する私。
「へいへい、生温かく見守っててやるよ。ほらキラちゃん、これがカギ」
「…あの、このまま出掛けるのでカギは…」
「そうか、なら帰った時声かけてくれな」
「はい」
彼は私とレオンさんを交互に見てニッコニッコしている。
「…クレー、気持ち悪い顔すんな」
「気持ち悪い言うな。それに、おれは酒場のマスターだぞ?いい加減マスターって呼べよ」
「マスターらしくなったらな」
「充分らしいだろ!…おう、今行く!」
軽口を叩き合う2人。仲良いなぁ、と思っていると客からお呼びがかかった。
「じゃあな」
「ああ」
■
「こっちだ」
外へ出てレオンさんの示した方へ並んで歩く。向かっているのは彼の親友が経営している酒場兼自宅で、レオンさんも一緒に住んでいるところ。ご馳走になったコーヒーは彼が淹れて持たせてくれるのだそう。場所を教えてやるから付いて来い、と言われて来てしまった。もちろんその親友さんにもご挨拶します。
ギルドから直進してメインストリートに出る前に左折すると、道が少し狭くなった。だが馬車は充分通れる広さで、店もあるが普通の家が多い。レオンさんが立ち止まったのは他よりも大きな家の前。家の大きさに比べて店はこぢんまりとしていて、扉には“close”の札が掛かっていた。
「ここだ」
促されて中へ入るとそこは確かに酒場。レンガの壁に木の床、左側にカウンター席、右側には丸テーブルとイスが3セットあり、全て落ち着いたトーンの木製で統一されている。天井から吊り下げられているのは、暖かなロウソクの灯りのランプ。まるでジャズでも流れてきそうな大人の雰囲気。
わ…素敵。好きだなぁ、こういう感じ。
「座れ」
「はい、ありがとうございます」
レオンさんがカウンターのイスを引いてくれる。そこへ腰掛けた時、奥のドアが開いて男性が入ってきた。
「レオン?遅かったね…あれ…珍しい…レオンがお客を連れて帰るなんて」
「…山で雨に降られてな。こいつはキラだ」
「キラです、よろしくお願いします」
立ち上がって頭を下げると目をパチクリさせる男性。
男性の身長はレオンさんより若干低いが、身体は冒険者の彼と同じくらい筋肉があるように見える。スモーキィベージュの髪は長めのミディアムで無造作に撫で付けている感じ。優しげな瞳も同じ色で彼も間違いなくイケメン。大人の色気満載。
この2人が街を歩いたらアイドル並みに騒がれそうな気がします。
「…オレはエヴァント、エヴァで良いよ。よろしく、キラちゃん。レオンとは馬車で一緒だったの?」
「はい、そうです。色々お世話になって、コーヒーもご馳走になりました。あの、とても美味しかったです。ありがとうございました」
見た目に違わず柔らかな笑顔で自己紹介するエヴァさんに、先ずはお礼。するとまた驚いて私の隣に座ったレオンさんを見る。
「どういたしまして。味わってもらえて嬉しいよ。それにしても…レオンがコーヒーをねぇ…?」
「…茶と飯の礼にな」
「へえぇ~?」
「チッ、うるせえな」
「オレは何も言ってないよ、ね?キラちゃん」
「え?は、はい…?」
急に振られて曖昧な返しをしてしまう。
「エヴァ…お前後で覚えてろよ?」
「あはは、分かったよ。コーヒー飲むだろ?」
エヴァさんはおかしそうに笑ってコーヒーを淹れ始める。よく分からない会話は終わったようだ。
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