異世界ライフは前途洋々

くるくる

文字の大きさ
23 / 213

19.紹介


 中へ入るとギルド独特の空気感に圧倒される。外観から予想してはいたがそれ以上のものが私を出迎えた。

  広々としたホール、ずらっと窓口が並ぶカウンター、依頼ボードも5枚以上はある。上への階段と奥への通路は左右にあり、右にはハイミルの倍はありそうな酒場、左にも壁際にイスが設置されている。他の街なら空いている筈のこの時間も多くの冒険者が集っていた。

  レオンさんが簡単に中の説明をしてくれる。解体倉庫などは裏から出た別棟、右側3分の1は1階から3階まで酒場と宿、地下には訓練場、2階は武器、防具、回復薬などのショップ、3階が本部、屋上もある。

  地下まであるんだ、と呆気に取られていると呼ばれる。

 「キラ、来い。酒場のマスターに紹介してやる」
 「え?あ、はい」

  待っていてくれた彼と並んで酒場へ向かうと、昼間っから呑んでいた冒険者達が私とレオンさんを見て驚いている。

 「クレーブス」
 「おっ、帰ったかレオ…ン…?」

  クレーブスと呼ばれたガタイの良い男性は、目をテンにして口までポカーンと開けていた。それに全く構わず続けるレオンさん。

 「ああ、今帰ったばかりだ。クレーブス、こいつはキラだ。よろしく頼む」
 「よろしくお願いします」

  レオンさんが言ってくれたので私も挨拶した。が、クレーブスさんは固まっている。

 「おい、クレー?」
 「……は?え?あ?ああ。よろしくな…」

  もう一度呼びかけられて返事するがまだぽけっとしている。

 「…手続き」
 「…あ?そ、そうか、泊まりか。え~と…」
 「説明は俺がした」
 「そうか…で、どっちにする?」
 「素泊まりでお願いします」

  ヴェスタのギルドの宿はプランが2種類ある。ひとつは他と同じ普通のプランで冒険者は一泊500ギル、新人400ギル。もう一つが素泊まりで、その名の通り寝るだけのプラン。冒険者300ギル、新人200ギル。共同のダイニングとキッチンがあって自由に使えるので自分で作って食べられる。レオンさんがヴェスタに来る道中で教えてくれたのだ。

  私の場合は一度食材を買えば複製出来るし、自分でした方が何かとお得だ。

  取り敢えず30日と頼んでガードを渡すと、クレーブスさんは宿帳に記入しながら目を見開く。

 「登録後数日でDランク…?レオン、凄い彼女を見つけたな…」

  他に聞こえないようボソッと言う。

  …へ?今なんて?

 「そうじゃねえ」
 「あ?彼女じゃないってのか?おれはレオンに女紹介されるなんて初めてだがなぁ?」
 「うるせえよ、余計な事言うな」

  初めて…それがホントなら嬉しいかも…って何考えてんの!

  ひそひそ交わされる言葉を耳にしながら百面相する私。

 「へいへい、生温かく見守っててやるよ。ほらキラちゃん、これがカギ」
 「…あの、このまま出掛けるのでカギは…」
 「そうか、なら帰った時声かけてくれな」
 「はい」

  彼は私とレオンさんを交互に見てニッコニッコしている。

 「…クレー、気持ち悪い顔すんな」
 「気持ち悪い言うな。それに、おれは酒場のマスターだぞ?いい加減マスターって呼べよ」
 「マスターらしくなったらな」
 「充分らしいだろ!…おう、今行く!」

  軽口を叩き合う2人。仲良いなぁ、と思っていると客からお呼びがかかった。

 「じゃあな」
 「ああ」











「こっちだ」

  外へ出てレオンさんの示した方へ並んで歩く。向かっているのは彼の親友が経営している酒場兼自宅で、レオンさんも一緒に住んでいるところ。ご馳走になったコーヒーは彼が淹れて持たせてくれるのだそう。場所を教えてやるから付いて来い、と言われて来てしまった。もちろんその親友さんにもご挨拶します。

  ギルドから直進してメインストリートに出る前に左折すると、道が少し狭くなった。だが馬車は充分通れる広さで、店もあるが普通の家が多い。レオンさんが立ち止まったのは他よりも大きな家の前。家の大きさに比べて店はこぢんまりとしていて、扉には“close”の札が掛かっていた。

 「ここだ」

  促されて中へ入るとそこは確かに酒場。レンガの壁に木の床、左側にカウンター席、右側には丸テーブルとイスが3セットあり、全て落ち着いたトーンの木製で統一されている。天井から吊り下げられているのは、暖かなロウソクの灯りのランプ。まるでジャズでも流れてきそうな大人の雰囲気。

  わ…素敵。好きだなぁ、こういう感じ。

 「座れ」
 「はい、ありがとうございます」

  レオンさんがカウンターのイスを引いてくれる。そこへ腰掛けた時、奥のドアが開いて男性が入ってきた。

 「レオン?遅かったね…あれ…珍しい…レオンがお客を連れて帰るなんて」
 「…山で雨に降られてな。こいつはキラだ」
 「キラです、よろしくお願いします」

  立ち上がって頭を下げると目をパチクリさせる男性。

  男性の身長はレオンさんより若干低いが、身体は冒険者の彼と同じくらい筋肉があるように見える。スモーキィベージュの髪は長めのミディアムで無造作に撫で付けている感じ。優しげな瞳も同じ色で彼も間違いなくイケメン。大人の色気満載。

  この2人が街を歩いたらアイドル並みに騒がれそうな気がします。

 「…オレはエヴァント、エヴァで良いよ。よろしく、キラちゃん。レオンとは馬車で一緒だったの?」
 「はい、そうです。色々お世話になって、コーヒーもご馳走になりました。あの、とても美味しかったです。ありがとうございました」

  見た目に違わず柔らかな笑顔で自己紹介するエヴァさんに、先ずはお礼。するとまた驚いて私の隣に座ったレオンさんを見る。

 「どういたしまして。味わってもらえて嬉しいよ。それにしても…レオンがコーヒーをねぇ…?」
 「…茶と飯の礼にな」
 「へえぇ~?」
 「チッ、うるせえな」
 「オレは何も言ってないよ、ね?キラちゃん」
 「え?は、はい…?」

  急に振られて曖昧な返しをしてしまう。

 「エヴァ…お前後で覚えてろよ?」
 「あはは、分かったよ。コーヒー飲むだろ?」

  エヴァさんはおかしそうに笑ってコーヒーを淹れ始める。よく分からない会話は終わったようだ。

感想 172

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。