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18.ヴェスタの街
しおりを挟む山を降りると道はすぐに合流して広い街道に出た。多くの馬車が行き交い、道の端を旅人や冒険者が歩いている。
ハイミルを発って8日目の昼下がり、やっとヴェスタの街が見えた。予定より丸一日遅れの到着だ。いかにも強固そうな高い壁がずっと先まで続いて街を囲い、分厚い門は大きく開いて人々を迎え入れている。門の内側には他よりとても高い物見台、前には兵士にチェックを受ける長蛇の列、その最後尾に並んで待つ。
やっと順番が回ってきて無事街へ入ると、ボッシュさん達に挨拶して後は自由だ。私はレオンさんにギルドへ案内してもらう約束をしている。
「このままギルドへ行くだろ?」
「はい」
私達は連れ立って歩き出した。
ヴェスタはとても古くからある街。冒険者ギルドも商業ギルドもここから始まった。故に双方本部をここへ置いている。後に城が建てられ、王子が在城するようになる。だが決して王国だけが力を持っている訳ではない。2つのギルドのトップ、そして在城の王子、この3人が等しく力を持ってヴェスタを治めている。昔そのお膳立てをしたのがひとりの転移人だというのは知る人ぞ知る事実だ。
この街は立地条件にとても恵まれている。貿易が始まった時真っ先に経済が潤ったのも、他国の品々が手に入ったのもここだった。今でも国内最多数の品揃えを誇っている。そのため多岐にわたる職種があり働き口も多く、他の街や村から仕事を求めて来る者が後を絶たない。まさに大都市、といった感じである。
私は想像以上の規模の大きさと街並みを目にして暫し呆気にとられていた。整備された石畳みの広い道、レンガや石造りの建物、立派な街灯もきちんと等間隔に立っていて…異世界小説に出てくる街の描写がそっくりそのまま目の前にあったから。それに、お城があるはずなのにここからじゃ全然見えない。どんだけ広いんだろう。
「くくっ…」
不意に隣から笑い声が聞こえてハッとする。これじゃお上りさん丸出しだ。
「…すみません」
「くくっ、良いさ。この街に初めて来たやつの正常な反応だ。ただ、お前がそんなに驚いた顔したの初めて見たぜ?」
「だって…広いし、立派だし、お城全然見えないですし…」
「城が見たいのか?」
「そういう訳じゃないですけど…街に入ったら見えるもんだと思ってたので」
「ここは城から一番遠い正門だからな、馬でも結構時間かかるぜ」
「…へえ…」
「で?ギルドまでは馬車もあるが歩けねえ距離でもねえ。どっちが良い?」
「……はい?」
ギルドまで?
レオンさんの言葉にまた間抜けな反応をしてしまいました。そんな私に彼が教えてくれる。
この街はとても広いため、各門、ギルド広場、中央広場、市場通りなど人の集まる場所へ行く馬車が出ている。各所を回るものや1箇所を往復するもの、目的地へ行ってくれるものもあり、当然有料だが手頃な価格になっていて利用客も多いとの事。
バスやタクシーみたいなものか。
話を聞いて迷ったが、ちょうど発車する所だったギルド行きに乗って行く事に。幌のない馬車は簡素な作りだが視界が広くて気持ち良い。メインと思われるストリートを真っ直ぐ進む。
「レオンさんはいつも馬車ですか?」
「タイミング良くギルド行きがあればな」
同乗していた冒険者達が何故か私達の会話に騒つく。騒ついた意味は分からないがレオンさんが注目を集めているのは確かだ。
もしかしてレオンさんって有名なのかな?彼は28才の若さでSランクなのだ。もちろんとても強いし、このルックスとスタイルだし…目立つと思うんだよね。
そんな事を考えているうちに馬車は中央広場を通り過ぎて斜め右方向へ。メインストリートと同じ広さの道でありながら雰囲気はガラッと変わった。装備屋、道具屋、薬屋、宿屋、酒場などが並び、その店構えも少々武骨だ。道行くのも殆どが冒険者。
そして最も目を惹くのは一際存在感を放つ大きな建物、冒険者ギルド。
石造りの3階建てで隣には高い物見台。どっしりとして風格があり、随分昔からここに居を構えていたであろう歴史を感じる。
「…さすが総本山」
私は思わず口の中で呟いた。
ギルド前が広場になっていて、馬車はそこに止まった。他にも馬車が停留して客を待っている。
一番後ろに座っていたレオンさんが先に降りて手を差し出してくれる。ボッシュさん親子の乗り合い馬車と違ってステップ的なものがない上、馬も元の世界のサラブレッドより一回り大きいので結構な高さがあるのだ。
ありがたく手を借りようとすると、彼は私の両手を自分の肩に導いて掴まらせ…ひょいっ、と抱え上げてしまった。
「わっ…」
こ、腰に手が。腰にレオンさんの手が!
急な事にテンパるワタシ。だって、日本で普通に暮らしてたらこんな風に抱えられるなんて事、大人はまず無いよね?あぁ…こんな時に『きゃっ』とか可愛く言えたら良いのに。『わっ』てなんだ、色気の無い。い、いや、別に無くても良いんだけど!
地面に降ろされ「…ありがとうございます…」と言ったには言ったが、あまりにも小さな声だったので聞こえたかどうか。
「行くぞ」
「はい…」
後ろの方が何だかうるさいが今の私に気にする余裕はなく、歩き出した彼の後を追った。
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