異世界ライフは前途洋々

くるくる

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84.新装備

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 無事に山を越えたキラたちは平地の街道を走っていた。山でも何台かの馬車と会ったが、麓で別方向からの道と合流したため馬車も人も一気に増えた。

 キラたちを見た皆が一様に驚くその視線の先には2頭のスレイプニル。スリップホースが稀に進化するのは知っていても見るのは初めてという者がほとんどだろう。それほどまでに珍しいスレイプニルが2頭もいるのだから注目を浴びるのも仕方がない事だった。

 だがサニーとサックスはもちろんキラたちも今更視線を気にする訳が無く、夕方突然現れたコテージを見てさらに驚愕する周囲を尻目に旅路を満喫していた。




 平地に出て5日目、私の新装備が完成した。今日はこれを仕上げる為に一日ここに留まったのだ。これが完成した時エヴァの生活魔法はBランクになった。

「…どう?」

 新装備に袖を通してレオンとエヴァに見せる。

 下はスキニージーンズのようなデザインのパンツ、上は七分袖のショート丈革ジャンで中はシルクのような肌ざわりの白いTシャツ。同じディアでも個体によって色の濃さに差があるため上下の革は色味が違う。どちらもブラウンだが下は薄く上は濃い。ある魔物が吐き出す衝撃吸収能力の備わった糸で縫われていて、防御力も普通のディア革よりアップしている。中のシルクシャツも同じ魔物の糸で出来ているという。

 よくある女物の装備はスカートタイプが多くしかもミニ。それではちょっと活発に動いたら中が見えるという事でパンツになり、動きやすさと見た目、どちらも取ってスキニータイプにした。以前はパンツが多かったのでやはり落ち着く。伸縮性があり、肌触りもさらっとして心地良い。

「…良いな、似合う。カッコいいぜ?」
「うん、良いね。キラは色んなデザインを着こなすね」
「ありがと」

 2人の反応にホッとしたが、本当の感想はここからだった。

「足長げえ…腰から尻のラインが最高にエロいな」
「Tシャツの首元、ちょっと開きすぎだったかな…上から覗いたら谷間が見えそうだね」
「体は隠れてるんだがな…」
「色気は隠せてないね…」
「え…あの…」

 夫たちは私の周囲を回って隅々まで観察する。

「キラは何を着ても艶っぽいんだよね」
「そうだな、どんな格好してても結局可愛くて色っぽい」
「「仕方ないね(ねえな)…」」

 …何だかいたたまれない気分になります。さすがに夫の欲目が入ってるよね…言いませんけど。



 さて、今日のおやつはアイスクリームとフルーツ入りの白ワインゼリーです。もう7月も半ば、だんだん暑い日も多くなってきたので思いつきました。

 ケチャで手に入れた美味しいミルクから成分抽出の技で生クリームを取り出しました。出来るかどうか自分でも半信半疑だったけど上手くいきましたよ。今回はバニラだけど、ホントはアイスなら抹茶が良かった。チョコだったら作れそうかな。あ、ラムレーズンもいけるかもね。

「あまくてつめたいの!」

 スノウは一口食べるごとにぷるっ、と体を揺らしてプリンを超える初体験の冷たさを楽しんでいる。レオンとエヴァは大人用に作った白ワインゼリーを口に運ぶ。

「へぇ、これが白ワインゼリー。すっきりした大人の味わいだね」
「ああ、これは甘すぎなくていい」

 2人とも気に入ってくれたようだ。サニーとサックスにはフルーツをあげている。

「しかし薬師の技を料理に使う、か。キラならではの思い付きだな」
「ホントだよね、なかなか出ない発想だよ」
「そうかな?」
「そうだよ、でもそのおかげで美味しい料理が食べられる」
「そうだな」

 その夜は夏っぽくビールで乾杯。少しだけ飲んでベッドに入った。











 翌日は雲一つない晴天、夏だからか空の青が濃く鮮やかに感じられてとても気持ち良い。サニーとサックスが進化したおかげで馬車のスピードアップし、早めにコテージで休んでも進むペースは変わらない。その分他の事が出来る時間が増えてとても充実した日々を送れていた。

 今日も早めに休む場所を決め、近くの森林で採取兼討伐に勤しむ事に。

 みんなで木漏れ日の中を散策しながら進む。

「キラ、これがネムリ草だよ」
「これが…本当に糊草とそっくり…」

 エヴァが摘んでくれた草を手に取って眺める。

 ネムリ草は同じ効能のネムリ茸より強力だが糊草と瓜二つで見分けがかなり難しい。その上特定の地域にしか自生しないので店にもほとんど出回らないのだが、今回はエヴァの探索スキルで見つけられた。これで強力な睡眠薬を調合すれば色々な場面で利用できるだろう。

「ありがとう、エヴァ。これ前から欲しかったの」

 お礼を言う私を見て2人が目をパチクリさせてから笑う。

「くくくっ…ネムリ草を貰った女のセリフとは思えねえな」
「そうだね、フフフ…アクセサリーでもプレゼントした気になるよ」

 …言われてみればそんな気もする。草貰って嬉々とする女……イヤかも。言い訳してみます。

「えぇと…ほ、ほら、これで調合した睡眠薬って凄く効きそうだし。工夫次第で魔物にも人にも使えるよ?」

 …だめだ…欲しい理由がこれじゃあ物騒すぎる。

「フフ、攻撃的な言い訳するキラも可愛いよ」
「そんな顔すんな、いい案だぜ?お前が調合した薬なら尚更効き目は良いだろう、便利そうだ」
「…ありがと」

 失敗だか成功だか分からない言い訳を少々後悔していると、サニーの頭に乗っていたスノウがいつの間にか地面にいてふんふん花の匂いを嗅いでいる。…いや、草かな?

「どうしたの?スノウ」
(これあまいにおいするの)
「これ?」
(そうなの)

 その植物を取ってみると、短くて太い茎にマリモみたいな草玉が乗っていた。ゴルフボール大の草玉の中には何か入っているようでコロコロ音がする。…虫じゃないよね?恐る恐る匂いを嗅ぐと確かに甘い香りがした。

「何だろ…?」
「あれ?キラ、シュガーボウルは初めて?」
「シュガーボウル?」
「うん、貸して?」

 エヴァの言葉にキョトンとしながら手渡すと、上の草玉を取ってギュッと握った。中から出てきたのはブラックペッパーを白くした感じの小さな玉。それを更に潰すと…

「シュガー…」
「そう、中にシュガーが入った植物。他にソルトボウルとペッパーボウルもあって比較的どこでも採れるよ」

 どうりで…異世界あるあるのひとつである砂糖が高値、じゃないわけだ。

(しゅがーあまい?たべていい?)
「ダメ」
(むぅ~…)
「これだけ食っても甘いだけだろ?菓子にした方が上手いぜ」
(…わかったの)
「さ、もう少し奥へ行ってみよう」
「「キラ」」
「うん」

 私はレオンとエヴァに手を引かれて先へと進んだ。

 
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