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31.起死回生?
しおりを挟むサンドラの事があってから10日ほど経った日の閉店後、オーナー部屋で話し合いが行われていた。ちょっと困った事が起こっているからだ。参加しているのは、あの時もこの部屋にいた面々。
皆さん、よく真面目な顔が出来ますね。私は恥ずかしくて逃げ出したいですよ。話し合いだというのに、何故、私だけソファーじゃなくてレドの膝の上なんですか!それとレド、いい加減腰を撫でるのを止めて下さい!
・・・睨んでも全く効果がありませんよ。私がおかしいの?いや、違う!
私の百面相を尻目に話し合いは続く。もう諦めよう・・・。
「どうします?さすがにそろそろ誰かに来てもらわないと困ります」
「そうですねぇ…」
「まさかこんな事になるとはな」
上からルイさん、マスター、コンゴさん、のセリフだ。
困った事、とは歌い手の事だ。あの事件(?)があってから数日後を境に、来てくれる歌い手さん達が半数以下に減ってしまったのだ。
サンドラがソニアに暴言を吐いてレドモンドの怒りを買った、という噂が流れ、それを聞いた歌い手さん達がしり込みして来てくれなくなった。レドモンド狙いだった人は勿論、そうじゃない人まで。何もしなければ良いだけなのだが、元々女性に対して冷たい事は有名なのだ。何かで彼の不興を買って怒らせでもしたら、と思われるのも無理のない事だった。
噂自体はデマではないし、消そうと思えば出来る。だが、この噂は第2、第3のサンドラを生まない為の予防線なのだ。だからこのままにしておく必要がある。演奏家は来てくれる人もいるのだが、それが続けばお客は歌を聞きたがる。でも当てはない。よって八方塞がり、となっているのだ。
こんな状況でもレドだけは何故か落ち着いている。そんな彼にマスターが問う。
「何か考えがあるのでしょう?レド」
「え、そうなんですか?オーナー」
「何だ、それを早く言ってくれよオーナー」
ルイさんとコンゴさんもレドを促す。どんな考えがあるのか、私も気になる。彼はようやく言った。
「ソニア、お前歌ってみないか?」
と。
「……は?」
一瞬、何を言われたか分からなくなってマヌケな顔を曝す。
「ソニアさん、歌えるんですか?それは知りませんでした。ぜひお願いします」
いや、私も知りませんでした。
「ソニアちゃんの歌か~。聞いてみたいな」
いや、ちょっと待って。
「おぉ!一気に解決だな!」
いや、違うから!
「ちょっと待ってください。…レド!急に何言い出すの!?私、人前で歌った事なんかないよ!」
「だが俺はお前の歌を何度も聞いた事がある」
先走る皆を止めながらレドに抗議するが、彼はしれっとしている。
「あれは…ただ口ずさんでるだけじゃない。人前で歌うのとは違うでしょ?」
私は何かしながら口ずさむのが癖だ。歌うのが好きでボイスとボーカルのトレーニングに通っていた事がある。母が亡くなってもしばらくは続けたが、家事や勉強との両立が出来ずに辞めてしまった。
「あれで口ずさんでいる程度なら、贔屓目抜きでサンドラより上手いと思うが」
「そ、それは言い過ぎ…」
「言い過ぎじゃない。お前の声は綺麗でよく通る。かなりの高音も出る。それに…他の歌い手にはない、何かを、俺は確かに感じた」
「レド…」
冗談でも、甘い囁きでもない、真剣なのだ。それは彼の瞳を見れば分かった。
「確かにソニアさんの声はとても綺麗ですよね」
「マスター…」
「それにホールでも通って良く聴こえるよ」
「そうだな、ソニアちゃんの声で酒場が明るくなる」
「お2人まで…」
確かに声は綺麗だと思う。前世で好きだったアーティストの素敵な声に少し似ていて、それに気が付いた時は嬉しかった。きちんと発声してみなければ正確な音域は分からないが、出なかった高音も出るようになった。それが楽しくていつも何かしら口ずさんでいたのだ。
憧れていた歌手に今ならなれる・・・?レドの・・皆の助けになれる?
そう思ってもまだ迷いが残る私の背中を押したのは、やはりレドだった。
「大丈夫だ、お前なら出来る。試しに今からホールで歌ってみろ、それでダメだったら無理強いはしない」
「…うん、分かった。歌ってみる」
◇
私達は真夜中のホールに移動した。明かりはステージとホールを僅かに照らしている。
選曲は済んでいる。好きだったアーティストの曲の中で一番聞いた曲。
・・・・よし、女は度胸!!
伴奏などなくても頭の中に綺麗なピアノの前奏が流れてきた。
私は閉じていた眼をゆっくりと開いて歌い始めた。
――――ソニアの歌がホールに響く。
この世界の者が初めて聴く歌詞やメロディー。それでも不思議と心にすんなり沁みていく。
その歌声は柔らかく、どこまでも澄んでいて優しい。その上艶やかさまでを秘め、聴く者を深遠の悦びへと導いた。
あのアーティストのような声だったら。男っぽくなくて、もっと可愛い女性だったら・・・この歌が似合うのに。もしそうなれたなら、思いっきり感情込めて歌ってみたい。
昔そう夢見ていた事を、今更思い出した。こんな形で叶うなんて。
どっぷりと自分の世界に浸りながら歌い切った。どういう判断が下されるか、緊張しながら皆の顔を窺う。
「凄いよソニアちゃん!!何で今まで黙ってたのさ!!」
真っ先に褒めてくれたのはルイさんだった。すっかり興奮している。
「驚きましたね~。まさかここまでとは。素晴らしい歌声でしたよ」
マスターも言ってくれる。
「まだこんな特技を隠し持ってたなんて、すげえな~、ソニアちゃんは」
コンゴさんもしきりに頷いている。
「ありがとうございます…」
そんなに言われると照れます。
トレーニングがこんな所で役に立つなんてね。沢山習い事をさせてくれた両親に感謝です。
「俺の言った通りだっただろ?ソニア。お前ほど魅力的な女はいない」
最後にレドが傍に来て私を抱きしめ、ちゅっと小さくキスする。
・・・ほわぁ!!みんなの前で何て事を!!それに言ってる事も微妙に違うし!
「レ、レド…!」
「何だ?」
満面の笑みを浮かべているレド。
うぅ・・・こういう時のレドは決まって超機嫌良いんだもん。ずるいよぅ。
結局真っ赤になって睨むしか出来ないのだった。
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