R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる

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75.拾われた男

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 今日から乾期も後半、そろそろ涼しくなってきても良い頃だがジリジリとした太陽が照りつけていた。

  本日、休みのわたしは選曲に頭を悩ませていた。

  昨夜フェズさんが来てお祭りのステージを頼まれたのだ。彼はシャハールのショップユニオンのトップ、お祭りはショップユニオンが運営本部となるからである。

 「あ~…だめだ。ちょっと休憩してアイスコーヒー飲もう…。レドも飲むかな?」

  リビングで大きな独り言を言ってアイスコーヒーを淹れ、オーナー部屋の扉をノックした。

 「入っていいぞ」

  この返事はオーナー部屋に誰もいなくて休憩出来る時。だめな時は後にしろ、だからすぐに分かる。扉を開け、中に入る。

 「アイスコーヒー淹れたんだけど一緒にどう?」
 「ああ、貰う」

  飲み始めて間もなく、ドアが叩かれた。

 「ボス、ビスタです。ガイが戻りました」

  わたしは飲みかけのグラスを手に立ち上がってレドに目で合図する。あっちに行ってるよ、という意味だ。休憩中に誰かが来ることもままあるので彼も分かっていて頷いて返す。

  リビングに戻ってソファーに座り、グラスの残りを飲みながらも頭では曲は何にしよう?と考えてしまい結局休憩にならない。休むのは諦め、思いつくまま書き出した用紙を眺める。

  お祭りなんだから静かな曲より賑やかな・・・いや、そもそも目的が感謝と癒しだもんね、そういう歌がいいかな・・・。

  やっと集中力が高まりだした時、オーナー部屋の方からガイの声がした。居るのは分かっていたが、聞こえたのが「すいません!」だったので思わずドアの方を見てしまう。

  今度は何をやらかしたのかな・・・。

  彼は再教育中レドに厳しい言葉を貰ってから良い方向へ変化した。酒場の手伝いもだいぶ失敗が無くなって周囲との関係も改善し、本来の役目に戻って問題なく任務をこなしている。はずなんだけどな?後でレドに聞いてみようか・・・いや、口出ししないほうが良いよね。

  そう思い直し、再び選曲へ没頭した。











 その日の閉店後、オーナー部屋にわたしを含める幹部メンバーが集められた。いつもと違うのは、ガイと見知らぬ男性がいる事。その男性はラベンダー色の髪をした中性的な顔立ちで、細い、というか痩けてるといった感じで不健康が滲み出ている。

  あれ・・・?この人どこかで・・・う~ん・・・見たような、違うような・・・。

 「皆、こいつを覚えてるか?」

  レドが皆に聞く。するとコンゴさんがポンッ!と手を打った。

 「サンドラの伴奏者!名前は…分からねえが」
 「僕もサンドラと一緒だったのは覚えてますが名前までは分かりません」
 「オレも顔は見た事ありますが他は分かりません」

  続いてルイさんとビスタさんも答える。

  あぁ!あの時サンドラの隣で青くなってた男だ!コンゴさんの答えを聞いてやっと分かった。でも、何故その彼がここに?

 「こいつの名はシトロン。皆の言った通りサンドラの伴奏者だった男だ。…今日、ガイが拾ってきた」

  え?拾ってきたって・・・人を?

  知らなかった者がポカン、とすると、ルーカスが説明する。





  ガイがシャハールへ帰る途中の街道脇で倒れている彼、シトロンを見つけ、助けを求められた。シトロンは数日間まともな食事にありつけていなくて、あまりの空腹に倒れて動けなくなっていたのだ。

  顔は知っていたし、痩せこけて汚い身なりをした彼を見捨てられなくて助けた。だがシトロンの旅の目的を聞いて驚き、戸惑うことになった。

  何故なら・・・シトロンが目指していたのはこの酒場、そして目的はここで雇ってもらう事だったからだ。

  ガイは彼に泣きつかれ、土下座までされて、仕方なく話だけはしてみると請け負ったのだ。





  は~・・・なるほど・・・それであの「すいません!」に繋がるんだ。

  わたしは改めてシトロンを見る。今の話から察すると、お風呂にはここに来てから入れられたのだろう。服は誰かに借りたのか綺麗だが、髪は伸び放題、体は痩せ、頬も痩けて顔色もよくない。

 「私とレドは大体ガイから聞きましたが、彼の状態だと何度も長く話すのは体に堪えるので集まってもらいました。シトロン、どうぞ自らの口で皆に伝えてください」

  ルーカスの言葉を受け、シトロンは話し始めた。

  あの時ここでグラベットのボスを怒らせた後、何故かサンドラにしこたま文句を言われて彼女の伴奏者を首になった。

  仕方なく王都へ帰って1人で演奏家として頑張っていたが、例の噂は王都にもあっという間に広まった。サンドラの名しか出ていなかったが、ペアを組んでいた為もしもの場合を考えて断られ続け…それからは転落人生真っしぐら。どこへいって頼んでもダメ、広場など人の集まる場所で演奏しても誰も見向きもしない。

 「…違う仕事を探そうかとも思いました。でも、噂が広まっている以上は演奏と同じくどこも雇ってくれるはずありません。それに…やっぱり僕は死ぬまで演奏家でありたい。それで、最後の賭けに出る事にしたんです。それが、ここで演奏家として雇ってもらう事です。僕は…演奏以外はからっきしですが…演奏なら誰にも負けない自信があります!どうか、お願い致します、僕を雇ってください!」

  ガバッ!と床に頭を擦り付けて懇願するシトロン。

  この痩せこけた体のどこからこんなパワーが出るのか。サンドラの横でオドオドしていた彼とはまるで別人のようだ。

 「…皆、質問はあるか?……無いな?…シトロン、お前の言い分は分かった。決定するまで待て。…ビスタ、空き部屋へ連れてけ。ガイ、お前も退がれ」
 「はい」
 「…はい…」

  ビスタに支えられて立ち上がった彼はスッキリとした表情をしていた。ずっと端っこで直立不動だったガイは、堅い声で返事をして一礼してから出て行った。

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