R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる

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79.芸術家と職人

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 シトロンは大体の弦楽器は弾けると言った後、更に自分の持っていたアコースティックギターを取り出して弾いてみせ・・・わたしは選択肢が一気に増えすぎて歓喜しながら若干パニック状態に。

  そしてその後数日間、頭を悩ませる事になった。決して苦悩した訳ではなく、嬉しい悩みだったが。

  結局、ギターはこの街ではあまり馴染みが無いという事でお祭りはピアノとヴァイオリンでの伴奏に決まった。

  曲も決定し、練習を重ねる中で分かってきたことがある。それは、シトロンが音楽に関する事以外はまるっきり無関心だという事。言い方を変えれば、何でも音楽に結びつけている感じ。

  食事をするのも、眠るのも、身なりを整えるのも、より良い演奏をお客さんに聴いてもらう為。彼の中のパッションは全て音楽にのみ捧げられていた。当初の予定通り調理場での皿洗いやホール裏での雑用をやらせても、作業は早く無いが至極真面目で丁寧だった。だがこれらの仕事ですら、彼にとっては演奏する為に必要な事なのだ。

  どんな理由であれ、真面目に頑張る人は応援したくなるもの。加えて酒場のスタッフは皆、彼がサンドラの元伴奏者で苦労した事も知っている。それに何といっても、一度レドモンドに叩き出されたにも拘らず、再度ここを訪れて直訴した勇気は一目置かれていた。

  シトロンがこの酒場に馴染むのにそう時間はかからなかった。











 お祭りが約半月後となったある日、王都へ出していた使いの者が帰ってきた。見知らぬ1人の若い男とエドガーの書簡と共に。

  書簡には、男の両親に救われた事や酒屋の現状、そして何とか彼に起死回生のチャンスを与えて欲しいという、エドガーの切なる想いが込められていた。




  閉店を待ったオーナー部屋にはいつものメンバーが集まっていた。使いから帰った部下も部屋の隅に立っている。一緒に来た男はまだ表の馬車の中だ。エドガーの紹介とはいえ見知らぬ男を易々と酒場の裏へ入れる訳にはいかない。ある程度ここで意見をまとめてから店の方で会う事になっている。

 「確かにどこの街も酒屋の現状は厳しいですね。米酒は愛好家も少ないですし」
 「そういえばシャハールにも昔は酒屋ありましたね。潰れて随分経ちますが」
 「エドガーには悪いが、いっその事ショーユに専念したほうが良いかも知れねえぜ?」

  こないだのシトロンの時とは違い、否定的な意見が飛び交っていた。

  意見は上から、ルーカス、ルイ、コンゴである。

 「何で米酒の愛好家は少ないの?」

  わたしは疑問に思って聞いてみた。答えてくれたのはルーカス。

 「以前はここの酒場でも出していたんですよ。ですが米酒はワインやビールと違ってあまり進まないんです。合うつまみもなかなか無くて、頼む方もあまり居ませんでしたから。置いてても元が取れなくて止めたんです。愛好家が少ないのも似たような理由でしょう」
 「そっか…」

  ・・・わたしが飲んでなかったのと同じ理由か。でもショーユがあればおつまみなんていくらでも出来るのに。

  そこまで考えてふと思いつく。もし、とても遠くの出身だという母親が日本の成人女性だったら・・・わたしと同じ事考えてもおかしくない。もしかして、米酒の行く末を憂いてショーユを造ったのかもしれない。

 「…酒は持ってきてるんだろうな?」

  レドが隅に立っていた部下に聞く。

 「はい」
 「なら味を見るから酒だけここへ持ってこい。親父のじゃなく、自分の造った酒だ」
 「はい!」

  部下が出て行くとレドが続ける。

 「手間のかかるものほど造り手の心意気が味に出る。何にしろ旨い酒でなければ話にならない」

  皆レドの言葉に納得して米酒を待った。部下はすぐに戻ってきてわたしたちの前に樽をおき、元の位置に立つ。

  ・・・酒樽だ。微妙に違うけど、確かに酒樽。ここまできたら升酒が良かったな・・・とか思いながら人数分コップに注ぎ、皆に渡す。

 「呑んでみろ」

  皆を促して自分も呑む。わたしも一口。

  わ、美味しい!父が大好きだった純米大吟醸に似てる・・・。味に感激しながら周りの反応を窺う。

 「…ほぉ、これは旨い」
 「ええ、これほどの米酒はなかなか手に入りませんよ?」

  レドとルーカス。

 「米酒ってこんなに美味しかったっけ…」
 「旨い!けどあっという間に潰れちまうな…」
 「寝るなよコンゴ」

  ルイさんとコンゴさん。

  とにかく皆絶賛である。当然この米酒が無くなるは惜しい、という意見で一致した。後は本人の本気度合いなどを見定めてから決定する事になった。




  店に移動し、男を中へ入れる。彼は見習い職人のように若く見えたが、実際はわたしより少し上らしい。濃い茶の髪と瞳、背は高めだがそれ以外は全く普通。顔立ちも、体つきも、何というか・・・特徴がなくて存在感が薄い感じ。名はピアニー。

  グラベットのボスや幹部を目の前にして緊張しているが、シャハールまでの道中で心の準備は出来ているようで決意を持った表情を見せていた。

  彼は語った。代々造ってきた米酒を途絶えさせたくない事、母の悲願だったショーユの事、場所を変えてでも店を残したい事、自らの不甲斐なさなどを切々と。

  伝わってきたのは、店や米酒、ショーユへの愛情。それに亡くなった両親と世話になったエドガーへの感謝。

  タイプは違えど何だかシトロンに似ている気がした。

 

 ※作者は音楽に関して全くの素人です。不自然な点があるかと思いますがご容赦ください。
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