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85.問題発生
しおりを挟む遠くから微かに聞こえる歌声をBGMに、屋台を見て回る。やはり食べ物が多くて、美味しそうなチーズやスモークのエビやカニなどをおつまみに買う。
そうして歩くなか、一軒の店に目がと止まった。
そこはアンティークな感じのインテリアショップ。屋台ではなく、自分の店の前に品を並べてあった。
「ねえ、ここ見たいな。寄っていい?」
「おや、ここですか。もちろん良いですよ。流石です、ソニア」
「フフッ、そうだな」
「え?」
ルーカスの言葉の意味を考えていると、店から店主らしきご老人が出てきた。
「おお、レドモンド様、ルーカス様、いらっしゃいませ。…もしや…こちらの方が、お噂の奥様ですか?」
「ああ、ソニアだ」
紹介されて挨拶を交わす。
「ソニア、私たちはよくこちらで家具やインテリア用品を購入するんですよ」
「そうなんだ」
「ええ、ご贔屓にしていただいております。それにしても、皆様揃って来ていただけるとは…光栄です。どうぞごゆっくりご覧ください」
「ああ」
挨拶を終えて下がる店主。こういうしつこくない感じ、良いよね。
この店を見つけた時、目に入ったのはランプだった。それはガレのランプの似ていて、綺麗な暖色のガラスでできていた。そういえばベッドルームにこういうのあったな。
品物には派手さはないが、暖かみのある色合いで角のない丸みを帯びたデザインが多い。その中で、一際わたしの目を惹くものがあった。
他と同じく暖色のガラスでできたランタンのような形で、サンダーソニアに似た花の模様が入っている。形も模様もすごく好き。でもランプじゃなさそう・・・。
「ソニア、気に入ったのはあったか?」
「レド、これ何に使うの?」
声を掛けてくれたレドに聞いてみる。
「ああ、これは中で香珠という燃やすと香る石を入れて使うんだ」
「香る石…」
「ソニア、それバスルームでも使えますよ」
「え、ホント!?」
バスルームで使えるアロマポット!それにこれ、火を灯したらきっと綺麗だ。・・・欲しいな。自分でも買えるけど、今の状況だと買ってもらったほうが良いのかな?
そこまで考えてふと思う。こういう時、すぐ素直に買ってほしいと言えない辺りはちっとも変わってない。・・・言ってみようかな。
「……これ、欲しい」
意を決して2人を見上げ、お願いしてみる。・・・ちっちゃい声になってしまいました。買って?とか言えればいいんだけど恥ずかしすぎてだめでした。
2人は目をパチクリさせてから顔を見合わせ、笑顔になる。
「…ああ、買ってやる。香珠もいるだろ?」
「…うん」
頭を撫でながら言ってくれたレドに頷いて返事する。
「香珠はあちらにあります。ほら」
ルーカスがわたしの背中に手を添えて促してくれた。
このショップは何代も続いていて、今の店主になる前からレドモンドとルーカスが贔屓にしていた。彼らは部下には優しく、懸命に努力するものには手を差し伸べてくれる時もある。が、女性に対しては冷たいのでも有名で、冷酷非道な噂もよく聞く。昔から変わらぬ尊敬と畏怖の対象。決して気安く声を掛けられるような存在ではない。
だが、そんな彼らの妻はアロマポットを贈られて嬉しそうに頬を染め、彼らも柔らかな笑みを浮かべて彼女を見守っている。
レドモンドとルーカスが結婚した。そう聞いた時店主は信じられない思いだったが、目の前にいる彼らを見れば事実だと納得せざるを得なかった。
◇
ショップを出て歩きながら両隣をチラッと見る。
・・・満面の笑みです。黒と白の尻尾が機嫌良さそうに揺れてます。・・・は、恥ずかしい~!おねだりするのがこんなに恥ずかしいなんて初めて知りましたよ。
今夜のステージは終わり、ストリートは家路に就く人々で溢れていた。
そんな人混みを縫ってするすると移動する男がひとり。男はすっ、とレドモンドの後ろについて小声で話す。
「ボス、フェズ様がユニオンへ来てほしいと。ルーカス様、ソニア様もご一緒にお願いしたいとのことです」
声を聞いたのはレドモンドとルーカスのみ。ソニアは声には気が付いていない。男はボスの指が了解を示したのを確かめ、雑踏の中へと消えた。
「進路変更だな」
「ええ」
レドモンドとルーカスがそう話すのを聞いて、2人の間にいたソニアがきょとん、とする。
「進路変更?」
「ああ、フェズから使いが来た」
「え、いつ?」
「今ですよ。ほら、行きましょう」
2人はまだ状況がイマイチ飲み込めていない彼女を連れて目的の場所へ向かった。
やってきたのは広場の近くにある三階建ての立派な建物。明らかに他とは一線を画した雰囲気が漂っている。ここにはユニオンの事務局や会議室などがあるらしい。
中へ入ると壮年の男性が待っていてわたしたちに頭を下げる。
「フェズは部屋か?」
「はい。ボスの執務室へお連れしますか?」
「いや、このまま行くからいい」
「かしこまりました」
そのまま三階へ上がるとフェズさんが出迎えてくれ、部屋の中へと通された。
「お呼びたてして申し訳ありません、ボス。実は明日のステージでラストに出るはずだった歌い手が逃げ出してしまいまして」
「逃げ出した?」
「はい」
祭りのステージ出演者はユニオンの役員会で決まる。複数の歌い手や演奏家がいる場合、トリはやはり人気が高くて上手い者が務める。祭り最終日のステージのラスト、つまり大トリは、ここ何年もサンドラだったが当然彼女はいない。そして次点となる候補者も居なかった。ソニアに頼んでみては?という意見も多かったが、さすがに1年目では・・・ということで見送られた。
考えた末今年は、人気、実力、経験などを踏まえて候補者を数名選び、多数決で決められた。決定後本人も了承し、張り切っていたようにみえた。
ところが。
他の街から来て宿に泊まっていた彼女は、友達のところに泊まることになった、と言って今朝宿を出た。実際にそうする歌い手も多いため、宿の者は何も不思議に思わずにいたが、当の友達が彼女が居ない事に気が付いてユニオンに知らせ、事態が発覚した。
「すでに他の出演者にも知れ渡っていまして、選考時に候補に上がった数名が自分が出たいと言って来ています。私個人と致しましてはソニア様に歌っていただきたいと思っているのですが」
「…だが、誰が歌っても2度ステージに出る事になる」
「そうですね、それでは不満の声が上がるでしょう」
思案顔で言うレドにルーカスも同意する。
・・・・・。
一つ案が思い浮かび、頭の中で考えを巡らせる。するといつの間にかレドとルーカスに見つめられていた。
「……え、何?」
「何か考えがありそうですね、ソニア」
「ああ、そんな顔してたな」
・・・何故バレる。
「言ってみろ」
「でも、素人考えだし」
「いえいえ、歌に関してあなたを素人だなんて誰も思ってません」
「それは大袈裟…」
「「じゃない」」
あ・・・デジャヴ。
「いいから言え。使えるか使えないかは俺らが判断する」
「そうですよ、言ってみてください」
「ソニア様、お聞かせください」
フェズさんにまでそう言われるとな・・・チビの時お世話になったしね。採用されはしないだろうし、言うだけ言ってみようか。
そう思って提案してみた。
「一緒に歌ったら良いんじゃない?」
と。
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