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第3章 前世を思い出した後

19.お互いに気付いた!

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一瞬でもウルフの目が覚めたことは保護者代わりの孤児院院長に伝えられた。院長はウルフとアニカが正式に婚約していなくても将来を誓い合った仲だと知っているから、アニカにそのことを知らせた。

「お母様、孤児院に慰問へ行ってきます!」
「慰問ってウルフ君の見舞いでしょ?行くならお父様には内緒にしなさい」
「お母様、ありがとう!」
「言っておきますけど、まだあなた達の仲を認めたわけではないですからね!家柄がよくて財産もあって貴女にもっとふさわしい男性はいくらでも見つけてあげるわ」
「私はウルフがいいの!それにそんな好条件の男性だったら私なんか門前払いでしょう?」
「何言ってるの!アニカはかわいいし、うちもそこそこの家柄で財産だって結構あるのよ」
「もういい!行くからね!」

自分の容姿がコンプレックスなアニカは、自分に全く似ていない美しい母の口から自分が『かわいい』なんて聞きたくなくて強制的に話を打ち切ってウルフの病院へ急いだ。

アニカがウルフの病室に着いた時も、彼は再び気を失って以来まだ目覚めていなかった。アニカの父が帰宅する夕食時間前にアニカが家に帰っていれば父に見舞いのことはばれない。アニカはそれまではウルフのそばに付いていてあげたかった。

ウルフは中々目覚めなかった。刻一刻と帰宅時間が近づいてきたが、アニカはあともうちょっと、あと1分とずるずると滞在時間を延ばしていた。流石にもう帰らなくちゃと後ろ髪を引かれる思いで椅子から立ち上がろうとした時、ウルフの瞼がふるふると動いた。

「ウルフ!」
「ア…アンネ?毒を飲んじゃったんじゃ…?!」
「えっ?アンネって?!」

アニカは目を見開いてウルフに問い詰めた。ウルフは、アニカの叫び声でようやくぼうっとしていた頭がすっきりしたみたいだった。

「いや、し、知らないよ、会ったこともないし!」

ウルフは浮気をしたと責められているように感じて必死に弁解した。

「何言い訳してるの?浮気なんて心配してないよ、信頼してるからね!」
「アニカ!」

ウルフは感極まってアニカに抱き着こうとしたが、ギプスで固められた手足が邪魔で上半身を寝台から少し浮かせるのが精一杯だった。アニカはウルフの身体を支えて寝台に横たわらせた。

「ねぇ、ウルフ。さっき言ってたアンネさんって人が毒を飲んだってどういうこと?」

ウルフは自分が意識不明だった時に見た不思議な夢をアニカに話した。

「そんなことってあるの?!私も同じような夢を見たの!しかも自分がそのアンネって人になって恋人ルドルフに毒で殺されたの」
「俺はそのルドルフって人の無理心中を追体験してるような感じだった」
「ウルフ、前世って信じてる?」
「今まで信じてなかったけど…」
「もしかして私達の前世は、そのカップルだったのかも」
「でも心中したカップルだろ?縁起悪いなぁ」
「神様が今世でやり直せって言ってるのかもしれないよ。この人達のこと、調べてみるね!…あ!もうこんな時間!パパにばれないように帰らなくっちゃ!」

アニカは言いたいことを言って怒涛のように去って行った。
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