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【レイナール夫人の回想】

2.レイナール夫人の初夜② *

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「…おわった、の…?」
 ほっと息をつけば、男が苦笑した。
「終わりませんよ。 …ここから、子胤を出すまで、終われません」
 リシアは、愕然とする。
 では、それはいつ、出してもらえるのだろう。
 どうしよう、と思っていると、彼が震える。


「っ…締めないで…よすぎる…」
 あまりに切なく掠れた声に、泣きたいような気持ちになる。
「ご、ごめんなさい、でも、どうすればいいのか、わからないの」
 こんなに恥ずかしく、痛くてつらいことをするのは初めてなのだ。 知識もなく、作法も知らない。


「どうすれば…いいの…?」
 リシアが問うと、男はもう一度、堪えるような表情になる。
「っ…可愛いひと」
 は、と熱い息を吐いた男が、リシアの上で脱力した。


 脱力、というのが正しいのかはわからないが、完全にリシアの身体に身体を重ねてじっとしている。
 身体の重みが、苦しいけれど。
「本当に…熱くて、とろとろで…きつくて…生殺しだ、こんなの」
「あ、あの、大丈夫、ですか…?」
 そう問わずにおれないほど、相手の声が苦しげで、唸るように聞こえた。
 耳元で熱い吐息が揺れて、ざわざわする。


「貴女を、俺の形に慣らして差し上げないと…貴女が痛くて、つらい」
「でも、よくわかりませんが…今は、貴方がつらいでしょう?」
 彼の身体が汗ばんで熱いし、心臓がどくどくと大きく脈打っているのもわかる。 同じように、身体のなかに感じる男も、どくどくしている。
 何となく、ではあるが、男はリシアに体重をかけて重なることで、何かを必死に我慢しているように思えたのだ。


「気持ちよすぎて、つらいんです。 だから、構わない。 俺は、貴女を気持ちよくしたい」
「わたし、を?」
 リシアはきょとんとしてしまった。
 この行為が、気持ちよくなる、なんてことはあるのだろうか。
 そして、どうしてこの男は、リシアを気持ちよくしようとしているのか?


「初めてが痛くてつらいと、次をしたいと思えなくなるでしょう?」


 それは、そうだ。
 というか、リシアは子どもがほしいだけであって、目の前の男とキスをしたいわけでも、触れてほしいわけでもない。
 他の男となると、尚更だ。


 ああ、でも、もしもこれで子どもを授からなかったとなると、この行為を繰り返さないといけないということなのか。
 気が滅入りそうというか、気を失いたい。


「だから、まずは…楽にして。 俺を、貴女の身体に馴染ませてからしか、動かないようにするから…。 俺を、煽らないで」
 苦しそうに、凄絶な色気で言われれば、きゅんとあらぬところがうずいてしまう。
「っ…だから、貴女は…」
「ご、ごめんなさい、本当に、わからないの」


 彼は、我慢強く、時間をかけてリシアを愛してくれて、結果、リシアも絶頂を知ったのだった。
「ああ…達きましたね…?」
 嬉しそうに、蕩けそうに甘い声で、彼は言う。
 それが、すごく恥ずかしかった。


「今の感覚を、覚えていて…。 刻みつけて…? 貴女がほしいものだけではなくて、俺が、貴女にもたらしたもの、すべて」
 下になっているリシアの頬を、男はそっと包む。
 男の声が、魔法の呪文のように響いた。
「顔、見せて…? 貴女の、感じてる顔」


 疲れてしまって、けれどもまだなかに感じる熱と硬さに億劫になってしまって、気だるさのままに視線だけ上げる。
 男はなぜか、ふるっと震えて、目を細めた。 綺麗な菫青石の瞳が、リシアを見つめている。
「俺も、きそ…。 達かせて、くれる…?」


 その、【いく】が終わりなのだろうか。
 終わるなら、早く終わってほしい、という思いで目を伏せた。
 それが、もしかすると男には、頷きと同意に見えたのかもしれない。


「は…いい…。 達く…、ぁっ…出るっ…」
 切なげな声を出したかと思うと、ぶるり、と彼が胴震いした。


「あ、っんぅ…」
 それと共に、奥に打ちつけられた熱に、またもやリシアは真っ白になる。
 なかにいる彼がびくびくと震えるのと同じように、リシアも震えてしまう。
「ん、ん…」
「なんて、…こんなときまで、締めつけて…」
 ちゅう、と耳を吸われて、また震えた。


「貴女の中、よすぎる…。 こんなに気持ちいいなんて…」
 終わった、ようだ、とほっとしていれば、そっと男の手がリシアの腹部を押さえた。
「…わかる…? 貴女のなかの、熱いのが…貴女が欲しがっていたものだよ?」


 ああ、あの熱が、リシアの欲しかった、赤ちゃんの種なのか。
 だから、どことなく、満たされた感じがするのだろうか。
 ぼんやりとした頭で、まだ息を弾ませたままでリシアは思った。

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