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Яainy, Rainy
Recall*
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もつれるように、折り重なるようにしながら、凌士さんは愛撫を続ける。
こんなに、穏やかで、優しく、慈しむような行為は、知らない。
好かれている、の比ではない。
愛されている、そんな錯覚を起こしてしまいそうなほど、溶けそうに、甘い。
胸の奥が、きゅううと締めつけられるみたいになると同時に、お腹の奥からぎゅううとなり、凌士さんの指をもぎゅううと締めつける。
お腹の奥から、何か来る、と思ってハッとする。
これは、まさか。
気づいたときには、もう遅くて、天音は思わず小さな悲鳴を上げた。
「あ、ぁ、いく、い、っちゃ…!ぅ、く」
ぎゅう、と凌士さんに縋り付いたままで、天音はひく、ひくっひくっと身体を何度か震えさせる。
震えが止まる頃を見計らって、凌士さんの指がそっと、ゆっくりと天音の中から出ていくのもわかった。
その際、ちゅ…と小さくキスをするような音がする。
「可愛い」
「ん」
耳元で、凌士さんが囁いた。 その、熱く濡れた吐息にぞわぞわする。
脚の間が、ぬるぬるで、べとべとで、とても恥ずかしい。
けれど、それ以上に、まだシャツも着たままで、キスと少しの愛撫をされただけで、凌士さんの前でいってしまったことが恥ずかしくて堪らずに、天音は両手で顔を覆った。
そうすれば、凌士さんの小さく笑みを含んだ声が、耳に届く。
「どうして、顔を隠すんだ? …可愛いから、見せて」
頭を一撫でした凌士さんの手が、そのまま髪を滑って天音の手に触れるので、天音は顔を覆っていた手――その指を少しだけ開いて、指の隙間からちらと凌士さんを窺う。
「ほ、ほんと、ですか…? わたし、変な声とか出しませんでした…? …ひどい、顔、しませんでしたか?」
凌士さんは意外そうに目を見張った。
「…不躾を承知で訊くけど…、婚約までした彼氏とは、したことがない?」
今度は天音が目を見張る番だった。
どうして、そういう話になるのだろう。 しばし考えて、天音はハッと気づく。
天音が、変な声を出さなかったか、ひどい顔をしていなかったか気にするのは、異性の前で気持ちよくなったことがないと捉えられたのだろう。
確かに、それは間違いではない。
天音は、少しだけ開いた指を閉じて、また顔を覆って観念した。
「…あの、気持ちよくなった、フリを、してました…」
凌士さんといるときに、こんなことを考えるのは不謹慎かもしれないが、天音の初めては麗人だったし、天音は今まで、麗人以外の異性は知らなかった。
麗人は、天音が何度イッたかを聞きたがり、知りたがった。
だから、自然と、イッたふりをするようになったのだ。 つまり、天音は、誰かの前で気持ちよくなったことはない。
天音の告白をどう思ったのか、凌士さんの手が天音の手に触れて、そっと顔の前からどかそうとする。
それに抗うことはできなくて、天音がそろそろと手を外すと、凌士さんは訝しげに尋ねてきた。
「いく感覚は知っているのに?」
他意なく、純粋な疑問のように聞こえたから、天音は黙っていられなくて口を開く。
「その、えっちで、気持ちよくなれないのは、わたしが不感症なのかもしれないって思って、それで、その」
ふしゅうううう、と頭から湯気が出るのではないかと思いながら、そこまで告げたが、それ以上は言えなかった。
えっちで気持ちよくなれないのは、自分が不感症なのではないかと悩んで、その…自分で、してみたのだ。
それが、きっかけ。 自分でするのは、気持ちがよくて、天音はそれでイく感覚を知ったのだけれど…。
そんなことを言ったら、凌士さんは、自分を軽蔑するかもしれない。
天音が口を噤んでいると、凌士さんはそっと頬に口づけをくれて、微笑んでくれた。
「ああ、わかった。 言いにくいことを言わせて、済まない」
天音は、少しの驚きを持って、凌士さんを見る。
恐らく、天音の発言から、凌士さんは天音が自分で自分を慰めていたことに、気づいただろう。
けれど、凌士さんは変わらずに、天音に接してくれる。
また、口付けられて、天音は嬉しいような気恥ずかしいような気分になった。
凌士さんは、キスが上手なのだろうか。 とても気持ちがいいし、好きだ、愛してると言われているように感じるのだ。
「ふ…」
天音も、凌士さんのキスに控えめに合わせ、応じていると、胸元でごそごそする気配を感じて、ハッとした。
凌士さんが、天音の着ているシャツの釦を外し始めているのだ。
それに気づいて、天音はぱっと凌士さんの手を掴む。
それでも、キスが止まらないので、天音が軽く凌士さんの下唇を噛むと、凌士さんはふっと笑うような息を吐いた。
「君は、脱がずにするほうが好き?」
戯れの延長とでも捉えているのか、年上の男性の包容力の成せる業なのか、凌士さんは苛立った様子もなくひたすらに甘く、穏やかだ。
こんなに、穏やかで、優しく、慈しむような行為は、知らない。
好かれている、の比ではない。
愛されている、そんな錯覚を起こしてしまいそうなほど、溶けそうに、甘い。
胸の奥が、きゅううと締めつけられるみたいになると同時に、お腹の奥からぎゅううとなり、凌士さんの指をもぎゅううと締めつける。
お腹の奥から、何か来る、と思ってハッとする。
これは、まさか。
気づいたときには、もう遅くて、天音は思わず小さな悲鳴を上げた。
「あ、ぁ、いく、い、っちゃ…!ぅ、く」
ぎゅう、と凌士さんに縋り付いたままで、天音はひく、ひくっひくっと身体を何度か震えさせる。
震えが止まる頃を見計らって、凌士さんの指がそっと、ゆっくりと天音の中から出ていくのもわかった。
その際、ちゅ…と小さくキスをするような音がする。
「可愛い」
「ん」
耳元で、凌士さんが囁いた。 その、熱く濡れた吐息にぞわぞわする。
脚の間が、ぬるぬるで、べとべとで、とても恥ずかしい。
けれど、それ以上に、まだシャツも着たままで、キスと少しの愛撫をされただけで、凌士さんの前でいってしまったことが恥ずかしくて堪らずに、天音は両手で顔を覆った。
そうすれば、凌士さんの小さく笑みを含んだ声が、耳に届く。
「どうして、顔を隠すんだ? …可愛いから、見せて」
頭を一撫でした凌士さんの手が、そのまま髪を滑って天音の手に触れるので、天音は顔を覆っていた手――その指を少しだけ開いて、指の隙間からちらと凌士さんを窺う。
「ほ、ほんと、ですか…? わたし、変な声とか出しませんでした…? …ひどい、顔、しませんでしたか?」
凌士さんは意外そうに目を見張った。
「…不躾を承知で訊くけど…、婚約までした彼氏とは、したことがない?」
今度は天音が目を見張る番だった。
どうして、そういう話になるのだろう。 しばし考えて、天音はハッと気づく。
天音が、変な声を出さなかったか、ひどい顔をしていなかったか気にするのは、異性の前で気持ちよくなったことがないと捉えられたのだろう。
確かに、それは間違いではない。
天音は、少しだけ開いた指を閉じて、また顔を覆って観念した。
「…あの、気持ちよくなった、フリを、してました…」
凌士さんといるときに、こんなことを考えるのは不謹慎かもしれないが、天音の初めては麗人だったし、天音は今まで、麗人以外の異性は知らなかった。
麗人は、天音が何度イッたかを聞きたがり、知りたがった。
だから、自然と、イッたふりをするようになったのだ。 つまり、天音は、誰かの前で気持ちよくなったことはない。
天音の告白をどう思ったのか、凌士さんの手が天音の手に触れて、そっと顔の前からどかそうとする。
それに抗うことはできなくて、天音がそろそろと手を外すと、凌士さんは訝しげに尋ねてきた。
「いく感覚は知っているのに?」
他意なく、純粋な疑問のように聞こえたから、天音は黙っていられなくて口を開く。
「その、えっちで、気持ちよくなれないのは、わたしが不感症なのかもしれないって思って、それで、その」
ふしゅうううう、と頭から湯気が出るのではないかと思いながら、そこまで告げたが、それ以上は言えなかった。
えっちで気持ちよくなれないのは、自分が不感症なのではないかと悩んで、その…自分で、してみたのだ。
それが、きっかけ。 自分でするのは、気持ちがよくて、天音はそれでイく感覚を知ったのだけれど…。
そんなことを言ったら、凌士さんは、自分を軽蔑するかもしれない。
天音が口を噤んでいると、凌士さんはそっと頬に口づけをくれて、微笑んでくれた。
「ああ、わかった。 言いにくいことを言わせて、済まない」
天音は、少しの驚きを持って、凌士さんを見る。
恐らく、天音の発言から、凌士さんは天音が自分で自分を慰めていたことに、気づいただろう。
けれど、凌士さんは変わらずに、天音に接してくれる。
また、口付けられて、天音は嬉しいような気恥ずかしいような気分になった。
凌士さんは、キスが上手なのだろうか。 とても気持ちがいいし、好きだ、愛してると言われているように感じるのだ。
「ふ…」
天音も、凌士さんのキスに控えめに合わせ、応じていると、胸元でごそごそする気配を感じて、ハッとした。
凌士さんが、天音の着ているシャツの釦を外し始めているのだ。
それに気づいて、天音はぱっと凌士さんの手を掴む。
それでも、キスが止まらないので、天音が軽く凌士さんの下唇を噛むと、凌士さんはふっと笑うような息を吐いた。
「君は、脱がずにするほうが好き?」
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