11 / 97
紅の騎士は白き花を愛でる
10.奥様とお呼びするのはまだ早いかと。
しおりを挟む
「おかえり、なさい」
出迎えたリシェーナに、ジオークはわずかに目を見張る。
いつもはまずはマリーが出迎えに来て、リシェーナがマリーを追ってくるのだが、どうしたことだろう。
その疑問が表情にも出ていたのだろうか。
リシェーナの顔が、若干不安げなものになるから、ジオークは微笑む。
「ただいま」
そうすれば、リシェーナは、ほっとして笑った。
「珍しいね、お出迎え」
「ばあやが、しなさい、言った。 あなたが、嬉しい、から」
素直に答えるリシェーナに、ジオークは目を丸くした。
余計な気を回してくれるものだ、と思いながらも、それでもやはり嬉しいのだから現金なものだ。
「…そうだね、嬉しい」
ジオークはリシェーナの髪を梳いてやりながら、少し離れたところでにこにこと事の成行きを見守っていたマリーに目をやる。
「ありがとね、ばあや」
「では、邪魔者は退散することにいたします。 ごゆっくり」
満足そうに笑んだマリーは手提げを持つと、頭を下げて玄関に向かう。
そのマリーをリシェーナが追うので、ジオークは視線でリシェーナを追った。
もちろん、見られていることになどリシェーナは気づいていないけれど。
「ばあや、ありがとね? 気をつけて、帰ってね」
「ええ。 わたくしは大丈夫ですから。 まずは、旦那様にご飯の用意をしてあげてくださいね」
マリーがにこにこと笑いながらリシェーナに言うと、リシェーナはこくりと頷く。
「うん、わかった。 ご飯、あっためる」
ジオークの隣をすり抜けてキッチンに向かうリシェーナを見届けて、ジオークはマリーに笑いかける。
「…だいぶばあやにも懐いたね?」
「ええ。 娘がいたら、お嬢様のような女性かな、と毎日楽しんでいますわ」
「そっか。 ちょっと妬けるかも」
冗談交じりにジオークが言うと、マリーは笑った。
「妬けますか?」
「おれよりもばあやといるほうが楽しそうだから」
本音が、ぽろりと漏れた。
それは、相手が他の誰でもない、マリーだったから漏らせた言葉だ。
ふふっと声を出して、マリーが笑う。
「そんなことありませんよ。 旦那様と一緒におられるときのお嬢様は、幸せそうです」
マリーの返答にジオークは、実は先程から気になっていた単語を再度見つけて、マリーに問う。
「おれは【旦那様】なのに、リシェのことは【お嬢様】なんだね?」
リシェーナが既婚者だったことを、マリーは知らない。
だから、【お嬢様】と呼ぶのかもしれない。
言葉が不慣れな分、かもしれないが、リシェーナは既婚者だったのにもかかわらず、どこかあどけなく、少女のようなところがある。
ジオークの問いに、マリーは口元を押さえて笑った。
「まだ婚前なのでしょう? 奥様とお呼びするのはまだ早いかと」
マリーのことだ。 きっと、何の含みもなかったのだろう。
けれど、ジオークはその言葉で、自分が少々先走り過ぎていたことに気づく。
自分とリシェーナは確かに、【旦那様】と【奥様】と呼ばれる関係ではないのだ。
だから、頷いた。
「そうだね」
「ですが、ばあやは早く、お嬢様を【奥様】と呼びたいと思っておりますよ」
微笑んだマリーが、更に続けた。
それは、意図しているのか、いないのか。
だが、こんなマリーだからこそ、ジオークの師匠は、ジオークの元にマリーを寄越しているのだろう。
だから、もう一度、ジオークは頷く。
「そうだね」
出迎えたリシェーナに、ジオークはわずかに目を見張る。
いつもはまずはマリーが出迎えに来て、リシェーナがマリーを追ってくるのだが、どうしたことだろう。
その疑問が表情にも出ていたのだろうか。
リシェーナの顔が、若干不安げなものになるから、ジオークは微笑む。
「ただいま」
そうすれば、リシェーナは、ほっとして笑った。
「珍しいね、お出迎え」
「ばあやが、しなさい、言った。 あなたが、嬉しい、から」
素直に答えるリシェーナに、ジオークは目を丸くした。
余計な気を回してくれるものだ、と思いながらも、それでもやはり嬉しいのだから現金なものだ。
「…そうだね、嬉しい」
ジオークはリシェーナの髪を梳いてやりながら、少し離れたところでにこにこと事の成行きを見守っていたマリーに目をやる。
「ありがとね、ばあや」
「では、邪魔者は退散することにいたします。 ごゆっくり」
満足そうに笑んだマリーは手提げを持つと、頭を下げて玄関に向かう。
そのマリーをリシェーナが追うので、ジオークは視線でリシェーナを追った。
もちろん、見られていることになどリシェーナは気づいていないけれど。
「ばあや、ありがとね? 気をつけて、帰ってね」
「ええ。 わたくしは大丈夫ですから。 まずは、旦那様にご飯の用意をしてあげてくださいね」
マリーがにこにこと笑いながらリシェーナに言うと、リシェーナはこくりと頷く。
「うん、わかった。 ご飯、あっためる」
ジオークの隣をすり抜けてキッチンに向かうリシェーナを見届けて、ジオークはマリーに笑いかける。
「…だいぶばあやにも懐いたね?」
「ええ。 娘がいたら、お嬢様のような女性かな、と毎日楽しんでいますわ」
「そっか。 ちょっと妬けるかも」
冗談交じりにジオークが言うと、マリーは笑った。
「妬けますか?」
「おれよりもばあやといるほうが楽しそうだから」
本音が、ぽろりと漏れた。
それは、相手が他の誰でもない、マリーだったから漏らせた言葉だ。
ふふっと声を出して、マリーが笑う。
「そんなことありませんよ。 旦那様と一緒におられるときのお嬢様は、幸せそうです」
マリーの返答にジオークは、実は先程から気になっていた単語を再度見つけて、マリーに問う。
「おれは【旦那様】なのに、リシェのことは【お嬢様】なんだね?」
リシェーナが既婚者だったことを、マリーは知らない。
だから、【お嬢様】と呼ぶのかもしれない。
言葉が不慣れな分、かもしれないが、リシェーナは既婚者だったのにもかかわらず、どこかあどけなく、少女のようなところがある。
ジオークの問いに、マリーは口元を押さえて笑った。
「まだ婚前なのでしょう? 奥様とお呼びするのはまだ早いかと」
マリーのことだ。 きっと、何の含みもなかったのだろう。
けれど、ジオークはその言葉で、自分が少々先走り過ぎていたことに気づく。
自分とリシェーナは確かに、【旦那様】と【奥様】と呼ばれる関係ではないのだ。
だから、頷いた。
「そうだね」
「ですが、ばあやは早く、お嬢様を【奥様】と呼びたいと思っておりますよ」
微笑んだマリーが、更に続けた。
それは、意図しているのか、いないのか。
だが、こんなマリーだからこそ、ジオークの師匠は、ジオークの元にマリーを寄越しているのだろう。
だから、もう一度、ジオークは頷く。
「そうだね」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
411
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる