命のその先で、また会いましょう

春野 安芸

文字の大きさ
12 / 43
第1章

011.女性の悲哀

しおりを挟む
 その日は今から……半年とちょっと前くらいのことです。
 夏が終わったにもかかわらず残暑で随分と汗が流れる日だったことを覚えてます。

 夏の終わりで秋の始まり。その境として相応しい季節の変わり目となる台風の来襲。
 ニュースでは連日30度前後だったけれど台風が過ぎてからは20度前半へグッと冷え込むことが予想されていました。
 この時期は台風が過ぎたらまた台風が来て連日雨。だから暑くても窓を開けられない、エアコンを付けようにも電気代が高くて汗だくの中、イヤになりながら部屋でボーっとスマホを見ていたことを覚えています。

 当時の私は高校に通っていました。
 大学受験も推薦もらって試験も順調で、まさに進学前のモラトリアムを過ごしていました。
 暑さは正直ウンザリしてましたが、その時期はまさに人生の絶頂といって過言では有りませんでした。
 受験も終わって勉学も運動も順調。何より一番大きかったのは、結婚を誓った彼が居たことでした。

 結婚。高校生にしてはまだ早いイベントだと思いますが、私には付き合っていた彼がいました。
 高校の初めに知り合ってその年の夏に交際をはじめ、それからはずっと彼と一緒です。
 お互い喧嘩することもありましたが、それでも仲直りしてより絆を深めあって、彼が居てくれたら他に何もいらないとさえ思っているほど。

 そうして付き合ってきた高校3年生の夏。花火大会の日に彼からプロポーズを受けたんです。『これから一生、側にいてくれませんか』って。
 もう舞い上がるほど喜んだことは忘れられません。お互い学生の身でお金は多くなかったけれど、これからバイトしてお金を貯めて、いつか盛大な結婚式をあげようねって約束も交わしました。


 ――――でもね。でもやっぱり、人生はそう簡単にはいきませんでした。
 ジメジメとして暑い日が続く最中、スマホを見ている私に連絡が入ったんです。相手は私の親友。中学時代からの大切な女友達。
 要領得ない説明からの『これ見て!』って無理やり送られた画像に戸惑いながらも見たら…………そこには彼が女の人と仲良く腕を組んで歩いている姿が写っていました。

 それを見た私は目を疑いました。嘘だとも思いました。誰かが悪意を持って作った写真。
 ただ転けそうになったところを助けて写ってしまった悪意ある切り取り。そう何度も自分に言い聞かせて。

 だって高校入学からずっと一緒だった彼なのです。つい先日プロポーズしてくれたし、万が一にもそんな事なんて考えられないのは当然のことです。

 でも、やっぱり嫌な予感ってものは当たるもの。
 それでも力説される友人に促されながら家を飛び出して彼の住むアパートへ。するとそこではちょうど家から出てくる誰とも知らぬ女の人に遭遇して、私は思わず彼に詰め寄りました。
 すると彼は『出来心』だったって。バイト先で知り合って話す内に一回だけって。
 ショックでした。でも、まだ冷静でいられたんです。これからずっと一緒に居る以上、そういう事もいつかは……とも思っていたから。だから一回だけ。一回だけなら許してあげようって。
 
 ……そう思って最初は許したけど、念のため彼のスマホを見たら出るわ出るわ浮気の数々。
 どうやら彼は一人暮らしをいいことにバイトで知り合った女の子たちを何人も部屋へ連れ込んでたっていうのです。

 後悔しました。失望もしました。
 そして同時に思い出しました。お互い一人暮らし、私は何度も同棲しようって提案したけれど『キミのためにも自分一人で生活する力が欲しい』って言って聞かなかったことを。
 きっとそれはただの方便で、裏でこんなことをしていたってことは"そういうこと"だったと気付かされました。

 私は絶望しました。順風満帆だった人生から崖に落ちた気さえしました。
 それからの私は、台風の中にも関わらず部屋を飛び出して当てもなく走り続けていたんです。
 そうして自然とたどり着いたのがこの防波堤。私にとって彼の存在は全てでした。なのに裏切られて人生にさえ喜びを見いだせなくなった私は、吹かれる風に押されるようにその先へと…………


 ―――――――――――――――――
 ―――――――――――
 ―――――――


「……それが私の人生です」
「そんなことが……」

 凪いだ海を眺めながら、女性は一人の人生を語り終えた。
 それは衝動的な勢いに任せたまま終わらせた生。全てを聞き終えた蒼月はショックからか影を落とす。

「生きていればもっと幸せがあったはず。もっといい男の人がいたはず。半年経った今ではそう冷静に言えることも出来るし振り返って説明だって出来ます。でもね、やっぱり当時は死んでも構わないって思ってました」

 それは事故でこの世界に来た俺とは違い、自らの意志でやってきた彼女の言葉だった。
 嘘偽りのない言葉。諦めにもとれる感情は俺に一つの疑問を浮かび上がらせる。

「それなら、半年経って冷静になったのなら、なんで今そこで泣いてたんだ?」
「はい……。やっぱり冷静になれたといっても吹っ切れたり決別できたわけじゃないんです。どうしても忘れられなくて悲しくなって寂しくなって、こうして一人ずっと泣いていました」

 そうして堤防の端に足を放り出しながら座る彼女は天を仰ぐ。
 その表情は笑顔に見えたが、その内にあるまた違った感情が感じられた。諦めか悲しみか、怒りかも知れない。
 当然俺には分かるはずもなく。ならばこれからどうするかと次のことに意識を向ける。

「蒼月、それでどうするんだ?」
「…………」
「蒼月?」
「えっ!?あっ、おっ!……な、何!?」

 ……?
 顔を伏せていた彼女だったが俺の呼びかけに突然飛び跳ねるように立ち上がった。
 それは目を丸くして驚いている様子。なにか考え事でもしていたか?

「だから、お前が事情聞きたがってたんだろ。これからどうするんだって話」
「あぁ!うん、そのことね!良ければもうちょっと事情を聞きたいかな。特になんで飛び降りたっていうこの場所にずっと居るか、とか」
「は?なんでだよ?」
「私もマヤに聞いたことだけどね、人は死んだら大半はあの世界の列に並んでいくの。でも稀にこうやって現世に留まり続ける人も居る。そういった人はかなり強い心残りがあるってことなの。聞いたこと無い?地縛霊って。もしかしたらこの人もそうなのかなって思って……」

 あぁ、聞いたことある。なんかその場所から離れられないとかいう霊だっけ。
 蒼月の問いを耳にした女性は「そういえば……」と何かを思い出す。

「たしかにここから動けない…というより動こうと思いすらしませんでした。もしかして、私が?」
「多分ですけど。……それでよかったら私達に成仏するお手伝いをさせてもらえませんか?」
「おい、そこまで首突っ込むっていうのかよ?」

 一人勝手に解決方向へと話を持っていこうとする蒼月に思わず俺は声をかける。
 なんでそこまで会ったばかりの他人に力を貸すことができるのか。俺には疑問でしか無い。

「もちろん煌司君が嫌だったらいいんだよ。大丈夫。あの世界に煌司君を返してから私一人でなんとかするから」
「そんな勝手に…………。あぁもうっ、今回だけだからな!協力するのは」
「……ありがと」

 本当なら他人に構うことなく俺もさっさと帰りたい。
 しかしあの世界に来て最初に助けられた手前、借りを返さなければなるまい。おれはこれっきりと宣言をして彼女の隣に並び立つ。

 そして彼女は手を差し伸べた。強い思いが故に地縛霊となってこんな防波堤で一人寂しく泣いていた女性に。
 優しく、そして強さを感じさせる笑顔で。

「お姉さん、良ければ私達に抱えているその強い思いの解決を手伝わせてくれませんか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

処理中です...