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第1章
009.駅前の再会
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――――PiPiPiPiPi!!!
エレナ主催のディナーが終わった翌日。
俺は自宅のベッドでスヤスヤと惰眠を貪っていたところ、突然のスマートフォンから鳴り響くけたましい電子音によって邪魔された。
最初は無視して寝続けようとしたが音は鳴り止むことはない。
次第に根負けした俺は諦めるように手探りでスマホを引き寄せ寝ぼけ眼で耳元に寄せる。
『……もふぃもふぃ……』
『Hello! ……って、今まで寝てたの?』
画面の表示を確認し損ねたがどうやらエレナのようだ。一瞬だけ見えた画面には1文字のみ書かれていたような気もしたが気のせいだろう。
『せっかくの土曜日なんだから……いい……でしょ……おやすみ……』
『なんで電話してるのに寝落ちできるのよ!? 今日これから来てほしいところがあるんだけど!!』
寝ぼけている脳にエレナの元気な声はなかなか響くところがある。
7日中2日しか無い貴重な休日だというのに、ゆっくり眠らせてくれないのか……
多少顔をしかめながらもカーテンを開け、日の光を一身に浴びて脳を叩き起こす。
『……あぁはいはい。起きた起きた。それで、なんだって?』
『朝弱いのねぇ……ちょっとこれから指定した場所に来てほしいのよ』
そうして指定されたのはウチから最寄りの駅付近。走れば10分といったところだろうか。
『なにか用事でもあった?』
『まぁね。それでどうなの?来れそう?』
今まで寝ていたのだから特に予定が無いのは自明の理だ。午後も何もない。
『りょーかい。今から準備していくからちょっとまってて』
『ゆっくりでいいわよ。 それじゃ、待ってるわねぇ』
最後の語尾だけ妙に声が上ずり、その後に聞こえてくるのはビジートーン。
通話も終わり、ふと壁に掛けられている時計を見るともう11時。
確かにこれはエレナも今まで寝ていたと驚くはずだ……内心彼女に謝りながらも、急いで布団を蹴飛ばして駆け出していった。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「はぁ……はぁ……」
息切れを起こし、横腹が痛くなるのを耐えながらもなんとか指定された場所にたどり着く。
中学を卒業してから今までロクに身体を動かしていなかったから相当鈍っている事を実感した。これはまた鍛え直さねば。
いつか走り込みでもしようと決心して時計を確認すると時刻は11時20分。起きてから20分程度でここまで来れたというのは誇ってもいいのではないだろうか。
「さて、不審者はっと……」
周りには多くの人が行き交っている。家族連れ、憎き男女ペア、友人同士のグループなどなど。
息を整えながら辺りを見渡すも、それらしき姿がまったく見当たらない。
あの小学生のような背丈に相当目を引く不審者フォームの組み合わせはそうそう見逃すほどでも無いのだが……。
「あのぅ……」
もしかして来る場所を間違えた!?
背中に冷たいものを感じながら駅の看板に目をやるも問題なく指定された場所。似たような名前の駅はここらへんにはないし、致命的な聞き間違いでもしなければここであっているだろう。
「あの…………」
でも、あの時は寝ぼけていたしそういう可能性はなくもない。
別の可能性を考えればあの猪突猛進のエレナだ。20分でも待ちきれなくなって帰ってしまったこともありえてしまう。
……そうか!電話を掛ければいいのか!
どうしてそんな簡単なことを思いつかなかったんだろう。 そうと決まれば早速スマホを―――――
「あのっ!!」
「うわぁ!!」
ポケットからスマホを取り出そうとした瞬間、突然背後からの大声が俺を襲い、驚いた俺は手の力が緩んでしまう。
「あっ……」
「あぁ!?」
物を持ったまま手の力を緩めてしまえば、重力に従って落下していくのも必然。
勿論手にしていたスマホも例外ではなく、支えが弱まった隙に自由落下し……カシャァン!と地面と衝突を引き起こした。
「ご……ごめんなさい!ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫ですから……」
そう謝ってくる声をなだめながらも視線は落ちたスマホから離せない。
誰かが慌てていれば他の人は冷静になるというのは本当のことのようだ。
本来ならば俺が取り乱すところだが、声の主が相当慌てているおかげで俺の意識はある程度の冷静さを保っている。
「あんまり高い位置じゃなかったですし、きっとだいじょう―――――」
「あっ――――」
落下して裏返しになったスマホを拾い上げると二人して言葉を失ってしまう。
俺の手のひらには画面が粉々になった無残なスマホが……
「すっ……!すみません! 弁償しますのでどうか……!」
「いえ、構いませんよ。そろそろかなとも思っていたので」
長年愛用していた相棒が変わり果てた姿になっていたにも関わらず俺の意識は冷静さを極めていた。
もちろんそこの方が慌てているのもあるが、それよりも何年も使ってきたスマホだ。いずれ来る未来が今来たんだなという思いしか湧き上がってこない。
「でも……」
「そろそろ買い替え時期だったんでちょうどよかったですよ。 それより……江嶋さん、ですよね?」
念の為画面を点灯させてロックを解除しようと試みるとまだなんとか操作は応じてくれそうだ。見た目は酷いが。
ひとまず安心しながらポケットに押し込み、目の前にいるフレームの大きなサングラスを掛けた少女へ確信を持って呼びかける。
本日の彼女はシフォン生地の薄紫色のトップス、レースアップのロングスカートに加え麦わら帽子という涼やかな格好と彼女の楚々とした印象が掛け合わさり、どこぞの麦わら帽子とコートを羽織った不審者とは変装の質が天と地ほどの差が感じられた。
「はい……すみませんでした……」
「いえ、気にしないでください。事故ですから」
「そうじゃなくって……あの子が無理矢理呼び出して……」
「あぁ……」
その事を謝っていたらしい。気にすること無いのに律儀な人だ。
「俺も寝すぎてたみたいでちょうどよかったです。それでエレナは……」
「あ、あの子はちょっと買い物に……。まさかこんなに早く来るとは思わなくって……私は念のために待機を……」
早く来すぎた時のために江嶋さんが待機していたら案の定というわけか。
男性恐怖症なのに話しかけた上謝らせるはめになるなんて、なんだか申し訳なくなってくる。
「こちらこそすみません。男の人、怖いんですよね?」
「いえっ! いつかは克服しなきゃ……ですし、何より……」
彼女は合わせた両手を口に近づけ、少し頬を朱く染めながらこちらをチラチラと見ている。
この雰囲気はもしや……フラグか!?フラグが立ったのか!?
「あの子の……弟さん……ですから……」
「弟………?俺が?誰の?」
「…………違うのですか?」
「……あぁ!そうそう、エレナのね!間違ってないよ!」
一瞬弟って誰のことかと思ったけど、そういえばそんな説明していたっけ。
まだ誤解を解いていなかったのか。というより、フラグなんて考えていた自分が恥ずかしい……
「あら、もう来てたの。早いわね」
しかしエレナがいなくて男性恐怖症の彼女と二人きり。これからどうしようかと思案していると、またもや背後から声がかかる。
助かった!噂をすれば影とはこのことか!
「あっ!エレ――――えーちゃん!」
江嶋さんはふと俺たちに掛けられた声にいち早く反応し、やってきた人物……エレナを呼びかけた。
振り返って目に入った彼女の姿は珍しくも不審者モードではなかった。
黒のショートパンツでスラリと長い脚を見せつけ、7分丈のブラウンシャツにサングラス。極めつけには愛用しているであろうキャスケットを被ってマトモな変装を施している。
「えーちゃん?」
「人前で私たちの名前を呼ぶと万が一があるからね。ちなみにアイはあーちゃんよ」
なるほど。確かに2人が呼び合うともしかして、ということが起こるわけか。辺りを見渡してみても気にしている人々は居ない。呼び方までも気にしなければならないとは大変そうだ。
「それよりえーちゃん!どうしよう!」
「何かあったの? 見た限りでは大事無いけれど……」
「弟くんの……スマホが……」
江嶋さんはそこまで言って顔を伏せると共に、エレナの視線が困惑した雰囲気と共にこちらに向けられる。
特に問題なかったから言おうとも思わなかったが、もう誤魔化すことは不可能だろう。そう感じ取りポケットの中からヒビだらけのスマホを見せる。
「うわっ!これは盛大にやったわねぇ……で、なんでそれがアイを困らせてるのかしら?」
「江嶋さんが呼びかけた時驚いて落っことしちゃってね。潮時だったし、後日買い換えるから大丈夫だよ」
「……って言ってるけど?」
エレナは俺と彼女の間に立つように問いかける。けれど江嶋さんは長い髪を小刻みに揺らすように首を横に振った。
「でも……私が驚かせたせいだから……弁償したい、です」
「だってさ」
今度はこちらにボールが回ってきた。そうは言っても弁償させるほどのことでもないしなぁ……
けれど説得しようとしても引き下がる気配も見せないし……そう一人で唸っているとエレナからため息の音が聞こえてくる。
「……素直に受け取ったらどう?」
「でも、これだいぶ古いやつだから気にするほどでも……」
「ううん、こういうのはお金じゃなくて気持ちの問題よ。そもそも、私達のお金の感覚はちょっとずれてるって昨日実感したわよね?」
「あ~……」
それを言われるとたしかにそうかもしれない。少なくとも金銭感覚については昨日の時点で庶民とは隔絶されているということを実感する日だった。
エレナがそうならばきっと江嶋さんも同じということだろう。さすがに彼女程では無いと思いたいが。
「じゃあ……お願いしていいですか? 江嶋さん」
「はい……! お任せください……!」
エレナを挟んでお互いに微笑み合う妙な画だが仕方ない。
するとそれを黙ってみていたエレナが『よし!』と声を張り上げた。
「方針が決まった所悪いけど、スマホについてはもうちょっと我慢して貰える?これから行くところがあるのよ」
「そういえばなんで俺は呼び出されたの?どこに行くつもり?」
そう問いかけると彼女はタクシーの前まで歩いて振り返る。
「それはもちろん――――私の家よ!」
エレナ主催のディナーが終わった翌日。
俺は自宅のベッドでスヤスヤと惰眠を貪っていたところ、突然のスマートフォンから鳴り響くけたましい電子音によって邪魔された。
最初は無視して寝続けようとしたが音は鳴り止むことはない。
次第に根負けした俺は諦めるように手探りでスマホを引き寄せ寝ぼけ眼で耳元に寄せる。
『……もふぃもふぃ……』
『Hello! ……って、今まで寝てたの?』
画面の表示を確認し損ねたがどうやらエレナのようだ。一瞬だけ見えた画面には1文字のみ書かれていたような気もしたが気のせいだろう。
『せっかくの土曜日なんだから……いい……でしょ……おやすみ……』
『なんで電話してるのに寝落ちできるのよ!? 今日これから来てほしいところがあるんだけど!!』
寝ぼけている脳にエレナの元気な声はなかなか響くところがある。
7日中2日しか無い貴重な休日だというのに、ゆっくり眠らせてくれないのか……
多少顔をしかめながらもカーテンを開け、日の光を一身に浴びて脳を叩き起こす。
『……あぁはいはい。起きた起きた。それで、なんだって?』
『朝弱いのねぇ……ちょっとこれから指定した場所に来てほしいのよ』
そうして指定されたのはウチから最寄りの駅付近。走れば10分といったところだろうか。
『なにか用事でもあった?』
『まぁね。それでどうなの?来れそう?』
今まで寝ていたのだから特に予定が無いのは自明の理だ。午後も何もない。
『りょーかい。今から準備していくからちょっとまってて』
『ゆっくりでいいわよ。 それじゃ、待ってるわねぇ』
最後の語尾だけ妙に声が上ずり、その後に聞こえてくるのはビジートーン。
通話も終わり、ふと壁に掛けられている時計を見るともう11時。
確かにこれはエレナも今まで寝ていたと驚くはずだ……内心彼女に謝りながらも、急いで布団を蹴飛ばして駆け出していった。
―――――――――――――――――
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「はぁ……はぁ……」
息切れを起こし、横腹が痛くなるのを耐えながらもなんとか指定された場所にたどり着く。
中学を卒業してから今までロクに身体を動かしていなかったから相当鈍っている事を実感した。これはまた鍛え直さねば。
いつか走り込みでもしようと決心して時計を確認すると時刻は11時20分。起きてから20分程度でここまで来れたというのは誇ってもいいのではないだろうか。
「さて、不審者はっと……」
周りには多くの人が行き交っている。家族連れ、憎き男女ペア、友人同士のグループなどなど。
息を整えながら辺りを見渡すも、それらしき姿がまったく見当たらない。
あの小学生のような背丈に相当目を引く不審者フォームの組み合わせはそうそう見逃すほどでも無いのだが……。
「あのぅ……」
もしかして来る場所を間違えた!?
背中に冷たいものを感じながら駅の看板に目をやるも問題なく指定された場所。似たような名前の駅はここらへんにはないし、致命的な聞き間違いでもしなければここであっているだろう。
「あの…………」
でも、あの時は寝ぼけていたしそういう可能性はなくもない。
別の可能性を考えればあの猪突猛進のエレナだ。20分でも待ちきれなくなって帰ってしまったこともありえてしまう。
……そうか!電話を掛ければいいのか!
どうしてそんな簡単なことを思いつかなかったんだろう。 そうと決まれば早速スマホを―――――
「あのっ!!」
「うわぁ!!」
ポケットからスマホを取り出そうとした瞬間、突然背後からの大声が俺を襲い、驚いた俺は手の力が緩んでしまう。
「あっ……」
「あぁ!?」
物を持ったまま手の力を緩めてしまえば、重力に従って落下していくのも必然。
勿論手にしていたスマホも例外ではなく、支えが弱まった隙に自由落下し……カシャァン!と地面と衝突を引き起こした。
「ご……ごめんなさい!ごめんなさい!」
「いえ、大丈夫ですから……」
そう謝ってくる声をなだめながらも視線は落ちたスマホから離せない。
誰かが慌てていれば他の人は冷静になるというのは本当のことのようだ。
本来ならば俺が取り乱すところだが、声の主が相当慌てているおかげで俺の意識はある程度の冷静さを保っている。
「あんまり高い位置じゃなかったですし、きっとだいじょう―――――」
「あっ――――」
落下して裏返しになったスマホを拾い上げると二人して言葉を失ってしまう。
俺の手のひらには画面が粉々になった無残なスマホが……
「すっ……!すみません! 弁償しますのでどうか……!」
「いえ、構いませんよ。そろそろかなとも思っていたので」
長年愛用していた相棒が変わり果てた姿になっていたにも関わらず俺の意識は冷静さを極めていた。
もちろんそこの方が慌てているのもあるが、それよりも何年も使ってきたスマホだ。いずれ来る未来が今来たんだなという思いしか湧き上がってこない。
「でも……」
「そろそろ買い替え時期だったんでちょうどよかったですよ。 それより……江嶋さん、ですよね?」
念の為画面を点灯させてロックを解除しようと試みるとまだなんとか操作は応じてくれそうだ。見た目は酷いが。
ひとまず安心しながらポケットに押し込み、目の前にいるフレームの大きなサングラスを掛けた少女へ確信を持って呼びかける。
本日の彼女はシフォン生地の薄紫色のトップス、レースアップのロングスカートに加え麦わら帽子という涼やかな格好と彼女の楚々とした印象が掛け合わさり、どこぞの麦わら帽子とコートを羽織った不審者とは変装の質が天と地ほどの差が感じられた。
「はい……すみませんでした……」
「いえ、気にしないでください。事故ですから」
「そうじゃなくって……あの子が無理矢理呼び出して……」
「あぁ……」
その事を謝っていたらしい。気にすること無いのに律儀な人だ。
「俺も寝すぎてたみたいでちょうどよかったです。それでエレナは……」
「あ、あの子はちょっと買い物に……。まさかこんなに早く来るとは思わなくって……私は念のために待機を……」
早く来すぎた時のために江嶋さんが待機していたら案の定というわけか。
男性恐怖症なのに話しかけた上謝らせるはめになるなんて、なんだか申し訳なくなってくる。
「こちらこそすみません。男の人、怖いんですよね?」
「いえっ! いつかは克服しなきゃ……ですし、何より……」
彼女は合わせた両手を口に近づけ、少し頬を朱く染めながらこちらをチラチラと見ている。
この雰囲気はもしや……フラグか!?フラグが立ったのか!?
「あの子の……弟さん……ですから……」
「弟………?俺が?誰の?」
「…………違うのですか?」
「……あぁ!そうそう、エレナのね!間違ってないよ!」
一瞬弟って誰のことかと思ったけど、そういえばそんな説明していたっけ。
まだ誤解を解いていなかったのか。というより、フラグなんて考えていた自分が恥ずかしい……
「あら、もう来てたの。早いわね」
しかしエレナがいなくて男性恐怖症の彼女と二人きり。これからどうしようかと思案していると、またもや背後から声がかかる。
助かった!噂をすれば影とはこのことか!
「あっ!エレ――――えーちゃん!」
江嶋さんはふと俺たちに掛けられた声にいち早く反応し、やってきた人物……エレナを呼びかけた。
振り返って目に入った彼女の姿は珍しくも不審者モードではなかった。
黒のショートパンツでスラリと長い脚を見せつけ、7分丈のブラウンシャツにサングラス。極めつけには愛用しているであろうキャスケットを被ってマトモな変装を施している。
「えーちゃん?」
「人前で私たちの名前を呼ぶと万が一があるからね。ちなみにアイはあーちゃんよ」
なるほど。確かに2人が呼び合うともしかして、ということが起こるわけか。辺りを見渡してみても気にしている人々は居ない。呼び方までも気にしなければならないとは大変そうだ。
「それよりえーちゃん!どうしよう!」
「何かあったの? 見た限りでは大事無いけれど……」
「弟くんの……スマホが……」
江嶋さんはそこまで言って顔を伏せると共に、エレナの視線が困惑した雰囲気と共にこちらに向けられる。
特に問題なかったから言おうとも思わなかったが、もう誤魔化すことは不可能だろう。そう感じ取りポケットの中からヒビだらけのスマホを見せる。
「うわっ!これは盛大にやったわねぇ……で、なんでそれがアイを困らせてるのかしら?」
「江嶋さんが呼びかけた時驚いて落っことしちゃってね。潮時だったし、後日買い換えるから大丈夫だよ」
「……って言ってるけど?」
エレナは俺と彼女の間に立つように問いかける。けれど江嶋さんは長い髪を小刻みに揺らすように首を横に振った。
「でも……私が驚かせたせいだから……弁償したい、です」
「だってさ」
今度はこちらにボールが回ってきた。そうは言っても弁償させるほどのことでもないしなぁ……
けれど説得しようとしても引き下がる気配も見せないし……そう一人で唸っているとエレナからため息の音が聞こえてくる。
「……素直に受け取ったらどう?」
「でも、これだいぶ古いやつだから気にするほどでも……」
「ううん、こういうのはお金じゃなくて気持ちの問題よ。そもそも、私達のお金の感覚はちょっとずれてるって昨日実感したわよね?」
「あ~……」
それを言われるとたしかにそうかもしれない。少なくとも金銭感覚については昨日の時点で庶民とは隔絶されているということを実感する日だった。
エレナがそうならばきっと江嶋さんも同じということだろう。さすがに彼女程では無いと思いたいが。
「じゃあ……お願いしていいですか? 江嶋さん」
「はい……! お任せください……!」
エレナを挟んでお互いに微笑み合う妙な画だが仕方ない。
するとそれを黙ってみていたエレナが『よし!』と声を張り上げた。
「方針が決まった所悪いけど、スマホについてはもうちょっと我慢して貰える?これから行くところがあるのよ」
「そういえばなんで俺は呼び出されたの?どこに行くつもり?」
そう問いかけると彼女はタクシーの前まで歩いて振り返る。
「それはもちろん――――私の家よ!」
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