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第3章
071.突然の依頼
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「はい!お疲れ~!」
公園に一人の女性の声が響き渡る。
あれから俺は彼女たちのCM撮影に同行するため、一緒に自然公園へと訪れていた。
たどり着いたときには既にスタッフの方々と神鳥さんが集まっていて、アイさんとエレナも早々にリオと合流して撮影に望んでいた。
たかだか30秒と15秒のCM撮影。しかしその撮影には何倍もの時間を要していた。
スタッフが口々にああでもないこうでもない言いながら、様々な角度、表情で繰り返すこと数十回。気づけば俺がここに来てから1時間ほど経過していた。
「お疲れ。飲み物買ってきたよ。」
3人が裏に捌けたを皮切りに、神鳥さんの促しもあって俺も彼女らと合流する。
手に抱えているのは手持ち無沙汰だったときに買ってきた冷たい飲み物。
身体冷やすのも不味いから常温のをとも考えたが、彼女らの格好を見たらそうはいかない。
撮影は夏だとしてもどうやら放送は冬らしい。故に装いもそれに合わせている。つまり、今の3人は長袖に加えカーディガンを着ているのだ。
俺から見たらセルフ拷問。いくら汗一つかかない特技を持つとしても内心辛そうで、終わったと同時に上着を脱いだり袖をまくっているのがその大変さを証明していた。
「はいアイさん」
「ありがとうございます」
「エレナも」
「助かるわぁ。もう内心地獄かと思ってたもの」
一人ひとりに手渡していくとその中身がどんどんなくなっている。それほどキツイ環境だったということだろう。
傍目からでもわかる過酷さに「お疲れ様」と答えながら一番奥に座っている少女にもペットボトルを差し出す。
「はい。リオ」
「…………」
「……リオ?」
一番最後。リオ。
彼女とはあの祭りの日以来の再開となる。
祭りの日……あの泊まりの夜。
あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。その感触も。
正直どんな顔をして会えばいいか分からなかった。それを押してなんとか自然体で接しようとぎこちない笑顔を浮かべると、彼女は飲み物を取ること無くジッとこちらを見つめてくる。
「…………ん~ん。なんでもない。ありがとね慎也クン」
こちらの内心を全て見透かされているような目。
キラキラと宝石のように光るその目にゴクリと固唾を呑んだが、すぐに彼女は目を手元に降ろし飲み物を受け取った。
特にあの日について言及はない。
やはり彼女としても思うところがあるのだろうか。今は分からぬ真意に鼓動が高鳴りつつ口元にボトルをつける姿をじっと見つめる。
綺麗なピンク色の、柔らかそうな唇。そのプルンとした口と、俺はあの日の夜……。
「…………ねぇ」
「…………」
「……ねぇ、慎也クン」
「……!! な、なにっ!?」
しばらくボーっとしていたせいでリオの呼びかけに気づくのが遅れてしまった。
ようやく気づいたときには驚いて肩を大きく震わせて見ると、彼女はほんの少し頬を赤らめながら顔を若干反対へ背ける。
「いくら私でも、あんまり見られてると飲みにくい……かな?」
「あっ!ご、ごめん!」
「いいけど。……慎也クンなら」
どうやらジッと見すぎて休憩の邪魔をしてしまったみたいだ。
恥ずかしそうなその声に飛び上がるように身体を回転させると彼女もまた小さく縮こまって飲み物に再度口をつける。
失敗した。
自然体でいようと思っていたのに、どうしても思い出してぎこちなくなってしまった。
自らの行いを悔やむとともにどうすれば挽回できるか頭を悩ませる。無理やり明るく務めるか……いや、確実にバレてぎこちなさを加速させるだけだろう。それなら逃げるか……悪手だ。絶対にやっちゃいけない。うぅむ…………
「ねぇ、慎也クン」
「!! な、なに?」
どう接しようか悩むことしばらく。
ふと気づけばリオに話しかけられていた。俺は飛び出しそうになった心臓を抑えつつ、勢いよく振り返る。
「慎也クンはさっきの私、どうだった?」
「さっきのリオ?撮影のこと?」
「うん。かわい……かった?」
半分残ったボトルに目を落としながらポツリポツリと語りかけるリオ。
さっきの撮影の彼女は……もちろん、答えは一つしかない。
「最高だったよ」
「……最高?」
「うん。可愛かったし笑顔が輝いてた。さすがアイドル……ううん、リオだなって」
「……ほんと?」
伏せていた視線が持ち上がり、確認するような問いかけに『もちろん』と頷く。
すると彼女はまた目を伏せ、小さく口を開いた。
「そっか。最高だったか……うん。えへへ……」
口角が上がり小さな笑みがこぼれる。
それは不安などのない、嬉しさからの呟きに思えた。
年相応の嬉しそうな反応。その笑顔を見て俺もいつの間にか彼女と再開するときの不安が何処かに消え去ってしまう。
「ありがとね、慎也クン。自信出た」
「俺の応援が役に立つならいくらでも」
「一番役に立つよ。私にとっては」
「そうかな?それだと俺も嬉しいかな」
彼女につられて俺もはにかみ笑いが出てしまう。
こそばゆいけど、決して嫌ではない感覚。お互いに小さく笑い返しながら休憩を過ごしていると、その終わりは一人の女性によって終わりが告げられた。
『ちょっと3人……いや4人とも~!こっちきてもらえる~!?』
「マネージャー?何かしら……」
「さぁ……。撮影に不備でもあったのかな?」
それは遠くから聞こえる神鳥さんの声だった。
突然の呼び出しにエレナもアイさんも頭に疑問符が浮かんでいる。
「もしかしたら……素材に幽霊が映り込んじゃったのかもしれないわね。ほら、今アイの肩に触れてるその手がカメラに――――」
「っ…………! も、もうっ!エレナ!やめてよ!眠れなくなっちゃうじゃない!!」
エレナがおどろおどろしくアイさんの肩にヒタリと手を乗せると、飛び跳ねるように驚いた彼女が涙目で訴えてくる。
なるほど、アイさんは幽霊が苦手なのか。……なんだろう、欠点のはずなのに欠点に見えない。
からかうエレナに抗議するアイさん。そしてそんな二人の間に、リオはそっと立ってみせる。
「私達は仕事をするだけだから。行ったら幽霊かどうかもわかるよ」
「……そうね、リオの言うとおりだわ」
「うぅ……どうかお化けじゃありませんように……」
三人揃ってテントにに目を移すと、神鳥さんがモニターとにらめっこしている。
俺たちも互いに頷いてテントへと向かうことにした。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「う~ん……ん~…………う~…………」
テントにたどり着いた時に聞こえてきたのは唸り声。
その発信源はあまりにもモニターに顔を近づけている女性、神鳥さんだ。
神鳥さんはわずか数十秒になる素材を見ては戻し、再度唸り声を上げながら確認をしていた。
「マネージャー、どうしたんです? いつもは即欠ですのに……」
「あぁ、三人ともお疲れ様。いい感じだったよ」
「お疲れ様です。いい感じ……にしては随分と悩んでましたが」
アイさんの問いに神鳥さんは軽く息を吐きながら眼鏡を外し、身体をこちらに向ける。
「まぁ、うん……。とりあえず見てもらったほうが早いか。どうぞ」
俺たちは譲ってくれた椅子を除けて小さなモニターを四人で食い入るように見つめる。
その内容としては以前と変わらない――――三人でグミを食べさせあって笑うという至ってシンプルなものだ。場所が変われどやることは変わらない。素人目から見てもそれには非の打ち所がなくちゃんとCMとして使えるものだった。
「何も問題無いんじゃない?本当に幽霊でも出た?」
「ヒッ……!!」
「違う違う、幽霊じゃなくって。撮影自体は完璧だったよ。でも……なぁんか物足りなくない?」
一旦はエレナの意見に同意するのだがどうやら神鳥さんにはどこか納得いかない部分があるようだ。
これは俺が話に加わっても無駄だろう。数歩後ろに下がってその様子を伺うことにする。
確かに…………以前は彼女たちに注視していて気にすることなど無かったが、よく見れば周りにいるスタッフはカメラマンからADさんまで全員女性で構成されていた。
これなら男性恐怖症が酷くなったアイさんでも安心して仕事ができるだろう。俺としては肩身が狭いのだが元々見学者で今更だ。逆に吹っ切れて堂々とできる。
もう終わったかなと彼女たちへ意識を向けるとまだ会話は続いているようだった。
今日も猛暑だ。まだ時間かかるなら更に何本か飲み物でも――――
「そうだ!!」
俺が近くの自動販売機に行こうと財布を取り出したその時だった。
突然神鳥さんが大声を上げ、周りの人はみんなそちらへ意識を向ける。
けれど神鳥さんの視線の向く先はただ一人、俺へと向けられていた。あれ、なんか嫌な予感が…………
「慎也君!まだ時間ある!?」
「へ?まぁ、今日は何もありませんが……」
「良かった!突然で悪いんだけどさ、慎也君もCMに出て見ない!?」
「………………はい?」
この人今なんて言った?
俺が?CMに?なんで?
「この子たちと一緒に出てみないかってことよ! いやぁ、何か物足りないって思ってたけどこれよこれ!男の子の存在よ!」
「な――――なにバカなこと言ってるのよ! いくらエキストラだとしても問題があるに決まってるでしょ!」
神鳥さんの提案に異を唱えたのはエレナだった。彼女はいち早く反応し、他の二人はあっけにとられている。
「エレナ、問題ってなにがある?」
「そ……それは…………イ、イメージよ!私達はアイドルなんだから!」
「大丈夫大丈夫。手元しか映さないし、どんな人かなんてわかりっこないから!」
「で、でも……それは……」
自信満々に言う神鳥さんに圧されて彼女は次第に声が小さくなっていき、最後には狼狽するように「あ~!」と叫び声を発して引き下がる。
え、これホントに俺が出る流れ?
「前々からそういう考えはあったんだよね。でもアイの件もあるし諦めてたんだけど、慎也君は平気みたいだし活用しない手は無い!」
「私達の意見は!?」
「無い!ここではマネージャー兼スポンサーの社長である私がルール!法律さ!!」
「横暴!」
そんな暴君でいいのか。いいんだろうなぁ……
最後のエレナの噛みつきにさえ歯牙にもかけない神鳥さんに最後には全員諦めて俺を見てきた。
俺が決めろと。まぁ、そうなるよね。
「慎也君、どうかな? もちろん多少だけどお給金も出すしバレるような事はしないよ。でも、無理にとは言わない。最後には自分で決めて」
「俺は…………」
俺がどうしたいかを考える。確かに面白そうだしこんな経験この先もう無いだろう。
しかし安易に引き受けちゃっていいのだろうか。バレた時のリスクや彼女たちのイメージ、神鳥さんは大丈夫だって言ってるけど果たしてそれがどれほどか。
でも、今俺がここにいること、今まで楽しかったのは彼女たちのお陰だ。もし、これがお返しに、少しでもクオリティーの向上の役に立つのなら、リスクを背負ってでもやりたいと思う。
「それが……みんなの為になるんでしたら、喜んで」
「もちろんなるよ!ありがと~! それじゃあ悪いけど、三人とも撮り直しでお願いね?」
突然決まった4人目加入の再撮影。
その決定に一瞬だけ戸惑ったものの、真っ先に足を踏み出したのはリオだった。
「…………了解。慎也クンが出るなら、気合入れる」
「は、はい!がんばります!」
「まぁ……慎也がそう言うんだったら仕方ないわね」
リオに続いてアイさん、エレナも口々に受け入れてくれて俺も内心ホッとする。
撮影か……俺、結局何をさせられるの?
「それじゃあ慎也君も衣装を準備しなきゃね。 あ、大丈夫大丈夫。ちょい役だし適当なスタッフからカーディガンとか借りればいいから!お~いっ!誰か――――」
善は急げというようにテキパキと動き始める神鳥さんに取り残される俺たち。
まるで既に計画は決まっていたかのような神鳥さんの動きを、俺はただただ苦笑いで見守るのであった。
公園に一人の女性の声が響き渡る。
あれから俺は彼女たちのCM撮影に同行するため、一緒に自然公園へと訪れていた。
たどり着いたときには既にスタッフの方々と神鳥さんが集まっていて、アイさんとエレナも早々にリオと合流して撮影に望んでいた。
たかだか30秒と15秒のCM撮影。しかしその撮影には何倍もの時間を要していた。
スタッフが口々にああでもないこうでもない言いながら、様々な角度、表情で繰り返すこと数十回。気づけば俺がここに来てから1時間ほど経過していた。
「お疲れ。飲み物買ってきたよ。」
3人が裏に捌けたを皮切りに、神鳥さんの促しもあって俺も彼女らと合流する。
手に抱えているのは手持ち無沙汰だったときに買ってきた冷たい飲み物。
身体冷やすのも不味いから常温のをとも考えたが、彼女らの格好を見たらそうはいかない。
撮影は夏だとしてもどうやら放送は冬らしい。故に装いもそれに合わせている。つまり、今の3人は長袖に加えカーディガンを着ているのだ。
俺から見たらセルフ拷問。いくら汗一つかかない特技を持つとしても内心辛そうで、終わったと同時に上着を脱いだり袖をまくっているのがその大変さを証明していた。
「はいアイさん」
「ありがとうございます」
「エレナも」
「助かるわぁ。もう内心地獄かと思ってたもの」
一人ひとりに手渡していくとその中身がどんどんなくなっている。それほどキツイ環境だったということだろう。
傍目からでもわかる過酷さに「お疲れ様」と答えながら一番奥に座っている少女にもペットボトルを差し出す。
「はい。リオ」
「…………」
「……リオ?」
一番最後。リオ。
彼女とはあの祭りの日以来の再開となる。
祭りの日……あの泊まりの夜。
あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。その感触も。
正直どんな顔をして会えばいいか分からなかった。それを押してなんとか自然体で接しようとぎこちない笑顔を浮かべると、彼女は飲み物を取ること無くジッとこちらを見つめてくる。
「…………ん~ん。なんでもない。ありがとね慎也クン」
こちらの内心を全て見透かされているような目。
キラキラと宝石のように光るその目にゴクリと固唾を呑んだが、すぐに彼女は目を手元に降ろし飲み物を受け取った。
特にあの日について言及はない。
やはり彼女としても思うところがあるのだろうか。今は分からぬ真意に鼓動が高鳴りつつ口元にボトルをつける姿をじっと見つめる。
綺麗なピンク色の、柔らかそうな唇。そのプルンとした口と、俺はあの日の夜……。
「…………ねぇ」
「…………」
「……ねぇ、慎也クン」
「……!! な、なにっ!?」
しばらくボーっとしていたせいでリオの呼びかけに気づくのが遅れてしまった。
ようやく気づいたときには驚いて肩を大きく震わせて見ると、彼女はほんの少し頬を赤らめながら顔を若干反対へ背ける。
「いくら私でも、あんまり見られてると飲みにくい……かな?」
「あっ!ご、ごめん!」
「いいけど。……慎也クンなら」
どうやらジッと見すぎて休憩の邪魔をしてしまったみたいだ。
恥ずかしそうなその声に飛び上がるように身体を回転させると彼女もまた小さく縮こまって飲み物に再度口をつける。
失敗した。
自然体でいようと思っていたのに、どうしても思い出してぎこちなくなってしまった。
自らの行いを悔やむとともにどうすれば挽回できるか頭を悩ませる。無理やり明るく務めるか……いや、確実にバレてぎこちなさを加速させるだけだろう。それなら逃げるか……悪手だ。絶対にやっちゃいけない。うぅむ…………
「ねぇ、慎也クン」
「!! な、なに?」
どう接しようか悩むことしばらく。
ふと気づけばリオに話しかけられていた。俺は飛び出しそうになった心臓を抑えつつ、勢いよく振り返る。
「慎也クンはさっきの私、どうだった?」
「さっきのリオ?撮影のこと?」
「うん。かわい……かった?」
半分残ったボトルに目を落としながらポツリポツリと語りかけるリオ。
さっきの撮影の彼女は……もちろん、答えは一つしかない。
「最高だったよ」
「……最高?」
「うん。可愛かったし笑顔が輝いてた。さすがアイドル……ううん、リオだなって」
「……ほんと?」
伏せていた視線が持ち上がり、確認するような問いかけに『もちろん』と頷く。
すると彼女はまた目を伏せ、小さく口を開いた。
「そっか。最高だったか……うん。えへへ……」
口角が上がり小さな笑みがこぼれる。
それは不安などのない、嬉しさからの呟きに思えた。
年相応の嬉しそうな反応。その笑顔を見て俺もいつの間にか彼女と再開するときの不安が何処かに消え去ってしまう。
「ありがとね、慎也クン。自信出た」
「俺の応援が役に立つならいくらでも」
「一番役に立つよ。私にとっては」
「そうかな?それだと俺も嬉しいかな」
彼女につられて俺もはにかみ笑いが出てしまう。
こそばゆいけど、決して嫌ではない感覚。お互いに小さく笑い返しながら休憩を過ごしていると、その終わりは一人の女性によって終わりが告げられた。
『ちょっと3人……いや4人とも~!こっちきてもらえる~!?』
「マネージャー?何かしら……」
「さぁ……。撮影に不備でもあったのかな?」
それは遠くから聞こえる神鳥さんの声だった。
突然の呼び出しにエレナもアイさんも頭に疑問符が浮かんでいる。
「もしかしたら……素材に幽霊が映り込んじゃったのかもしれないわね。ほら、今アイの肩に触れてるその手がカメラに――――」
「っ…………! も、もうっ!エレナ!やめてよ!眠れなくなっちゃうじゃない!!」
エレナがおどろおどろしくアイさんの肩にヒタリと手を乗せると、飛び跳ねるように驚いた彼女が涙目で訴えてくる。
なるほど、アイさんは幽霊が苦手なのか。……なんだろう、欠点のはずなのに欠点に見えない。
からかうエレナに抗議するアイさん。そしてそんな二人の間に、リオはそっと立ってみせる。
「私達は仕事をするだけだから。行ったら幽霊かどうかもわかるよ」
「……そうね、リオの言うとおりだわ」
「うぅ……どうかお化けじゃありませんように……」
三人揃ってテントにに目を移すと、神鳥さんがモニターとにらめっこしている。
俺たちも互いに頷いてテントへと向かうことにした。
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「う~ん……ん~…………う~…………」
テントにたどり着いた時に聞こえてきたのは唸り声。
その発信源はあまりにもモニターに顔を近づけている女性、神鳥さんだ。
神鳥さんはわずか数十秒になる素材を見ては戻し、再度唸り声を上げながら確認をしていた。
「マネージャー、どうしたんです? いつもは即欠ですのに……」
「あぁ、三人ともお疲れ様。いい感じだったよ」
「お疲れ様です。いい感じ……にしては随分と悩んでましたが」
アイさんの問いに神鳥さんは軽く息を吐きながら眼鏡を外し、身体をこちらに向ける。
「まぁ、うん……。とりあえず見てもらったほうが早いか。どうぞ」
俺たちは譲ってくれた椅子を除けて小さなモニターを四人で食い入るように見つめる。
その内容としては以前と変わらない――――三人でグミを食べさせあって笑うという至ってシンプルなものだ。場所が変われどやることは変わらない。素人目から見てもそれには非の打ち所がなくちゃんとCMとして使えるものだった。
「何も問題無いんじゃない?本当に幽霊でも出た?」
「ヒッ……!!」
「違う違う、幽霊じゃなくって。撮影自体は完璧だったよ。でも……なぁんか物足りなくない?」
一旦はエレナの意見に同意するのだがどうやら神鳥さんにはどこか納得いかない部分があるようだ。
これは俺が話に加わっても無駄だろう。数歩後ろに下がってその様子を伺うことにする。
確かに…………以前は彼女たちに注視していて気にすることなど無かったが、よく見れば周りにいるスタッフはカメラマンからADさんまで全員女性で構成されていた。
これなら男性恐怖症が酷くなったアイさんでも安心して仕事ができるだろう。俺としては肩身が狭いのだが元々見学者で今更だ。逆に吹っ切れて堂々とできる。
もう終わったかなと彼女たちへ意識を向けるとまだ会話は続いているようだった。
今日も猛暑だ。まだ時間かかるなら更に何本か飲み物でも――――
「そうだ!!」
俺が近くの自動販売機に行こうと財布を取り出したその時だった。
突然神鳥さんが大声を上げ、周りの人はみんなそちらへ意識を向ける。
けれど神鳥さんの視線の向く先はただ一人、俺へと向けられていた。あれ、なんか嫌な予感が…………
「慎也君!まだ時間ある!?」
「へ?まぁ、今日は何もありませんが……」
「良かった!突然で悪いんだけどさ、慎也君もCMに出て見ない!?」
「………………はい?」
この人今なんて言った?
俺が?CMに?なんで?
「この子たちと一緒に出てみないかってことよ! いやぁ、何か物足りないって思ってたけどこれよこれ!男の子の存在よ!」
「な――――なにバカなこと言ってるのよ! いくらエキストラだとしても問題があるに決まってるでしょ!」
神鳥さんの提案に異を唱えたのはエレナだった。彼女はいち早く反応し、他の二人はあっけにとられている。
「エレナ、問題ってなにがある?」
「そ……それは…………イ、イメージよ!私達はアイドルなんだから!」
「大丈夫大丈夫。手元しか映さないし、どんな人かなんてわかりっこないから!」
「で、でも……それは……」
自信満々に言う神鳥さんに圧されて彼女は次第に声が小さくなっていき、最後には狼狽するように「あ~!」と叫び声を発して引き下がる。
え、これホントに俺が出る流れ?
「前々からそういう考えはあったんだよね。でもアイの件もあるし諦めてたんだけど、慎也君は平気みたいだし活用しない手は無い!」
「私達の意見は!?」
「無い!ここではマネージャー兼スポンサーの社長である私がルール!法律さ!!」
「横暴!」
そんな暴君でいいのか。いいんだろうなぁ……
最後のエレナの噛みつきにさえ歯牙にもかけない神鳥さんに最後には全員諦めて俺を見てきた。
俺が決めろと。まぁ、そうなるよね。
「慎也君、どうかな? もちろん多少だけどお給金も出すしバレるような事はしないよ。でも、無理にとは言わない。最後には自分で決めて」
「俺は…………」
俺がどうしたいかを考える。確かに面白そうだしこんな経験この先もう無いだろう。
しかし安易に引き受けちゃっていいのだろうか。バレた時のリスクや彼女たちのイメージ、神鳥さんは大丈夫だって言ってるけど果たしてそれがどれほどか。
でも、今俺がここにいること、今まで楽しかったのは彼女たちのお陰だ。もし、これがお返しに、少しでもクオリティーの向上の役に立つのなら、リスクを背負ってでもやりたいと思う。
「それが……みんなの為になるんでしたら、喜んで」
「もちろんなるよ!ありがと~! それじゃあ悪いけど、三人とも撮り直しでお願いね?」
突然決まった4人目加入の再撮影。
その決定に一瞬だけ戸惑ったものの、真っ先に足を踏み出したのはリオだった。
「…………了解。慎也クンが出るなら、気合入れる」
「は、はい!がんばります!」
「まぁ……慎也がそう言うんだったら仕方ないわね」
リオに続いてアイさん、エレナも口々に受け入れてくれて俺も内心ホッとする。
撮影か……俺、結局何をさせられるの?
「それじゃあ慎也君も衣装を準備しなきゃね。 あ、大丈夫大丈夫。ちょい役だし適当なスタッフからカーディガンとか借りればいいから!お~いっ!誰か――――」
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