不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第4章

099.幕間3.5

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 なに!?
 なんなのあの男の子は!?

 心配してたと思ったら仲良く二人で泊まってた!?

 女の子だと思ってたら男の子!?そんなの何かあっても文句言えないよ!!

 それに弟とか言って!ボクには一つたりと姉弟の存在なんて言ってこなかったじゃない!!



 エレナが帰ってきた台風の翌日。
 あれから自室に戻ったボクは一人で憤慨していた。

 車内で愛玲菜に詰め寄っても適当にはぐらかされるし、「むしろ恐怖症克服に手伝って貰えばいいじゃない!」とか言ってくるし!!
 そんなの簡単にできたら苦労しない!むしろボクには愛玲菜さえ居れば満足だというのに!!

 ベッドで転がって興奮する心を落ち着かせてから壁に貼られている"――――"へと視線を移す。
 最近、ようやく満足いく仕上がりになった壁面。普段から頑張って埋めてはいるけどもなかなか上手い具合にできないんだもの。愛玲菜って案外ガード硬いんだよね。

 けれどそれすらも掻い潜り、うまい具合にできた代物のうちの一つを手元に持ってくる。
 小さくて可愛いのに、それを感じさせないほどの包容力と力強さを持つ女の子。キミさえ居ればボクはいいのに。
 キミは大人になったらどうするのだろう。アイドルを辞める?どこぞの誰かと結婚する?

 …………イヤ。そんなの考えたくない。
 けれどそうなった時、ボクはどうすればいいのだろう。
 相手を合法的な手段で排除しようにも、この恐怖症がある限り近づくことすら出来ない。

 思い出すのは昨日のこと。エレナとともに一晩過ごした男の子。
 弟と言っていた。今まで何人たりとも男性を寄せ付けず、塩対応でスルーしていた愛玲菜。
 それが一晩も共にするというのはとんでもないこと。姉弟は信じがたいし、二人には何かあるのかもしれない。

 もしそうなら確かめてやろうじゃないか。
 ボクは愛玲菜を守るため、二人の違和感を探るため、計画を立てることにした。



 ―――――――――――――――――
 ―――――――――――
 ―――――――



 やってしまったやってしまったやってしまった!!
 まさか男の人の手を握ってしまうなんて!!!

 7月の始まり、夏も本格的になる季節。
 ボクはあの人を探るため、恐怖症という無理を押して二人で会うことにした。

 その手前、改めて会った日。あの人のスマホを壊してしまった日。
 思った以上に自分が素直に動けることに心底驚いた。それは本当に愛玲菜の弟という証左なのか。
 なんとお揃いのスマホにまでしてしまうなんてボク自身も予見していなかった。

 驚きと喜びで興奮し、暴走した結果決まった二人でのお出かけ。ボクの中では「あの人の調査」という名目だったけれど、その実ほとんどあの人のことが気になったからだった。

 一応、結果だけは判断できた。
 ボクの中での判断で証明なんて出来ないが、あの人と愛玲菜は間違いなく姉弟ではない。そもそも愛玲菜の親は離婚とかしてない上名字も違うし、何も似ているところがないんだもの。
 よくアレで姉弟なんて言おうと思ったね、愛玲菜。

 でも、ボクが必要以上に男の人と関わらなかったかもしれないけど、あの人には不思議な魅力があった。
 何も特別なものなんてないのに人を安心させるというか、素を出せるというか、一緒に居て心地が良かった。それにボクを肯定してくれる。アイドルとしての『私』ではなく、ただの『ボク』のことを。
 だからだろう。ボクがこんなものをスマホに収めるだなんて…………。

 お出かけ中、トイレに行くと言ってこっそり遠くからスマホを使って収めたモノ。
 なんだろうこの見ているだけで湧き上がってくる安心感は。不思議だ。手をつないだ時もそうだったけど、男性恐怖症が嘘なんじゃないかって何度も疑った。
 念の為、調べるために後でプリントしておかないと…………一応!一応だから!!


 …………ふぅ。
 でも……それなら二人の関係ってなんなんだろう。
 姉弟じゃないなら……恋人? イヤ!そんなの絶対嫌!!愛玲菜がボクから居なくなってしまうなんて!!

 でも待って。ずっと愛玲菜はボクたちと一緒に居たし、そんなことに発展する余裕なんて絶対にない。
 ならば何なのだろう……これはもう少し調べておく必要がありそうだ――――



 ―――――――――――――――――
 ―――――――――――
 ―――――――




 ガー……と、機械の駆動音が聞こえてくる。

 ようやくできたか、ボク渾身の一枚。
 これは随分と苦労して収めることのできた代物だ。

 学校に潜入し、先生相手に妹さんだと偽って彼の来校する日を確認し、彼が気づいていないことをいいことに遠くからコッソリ収めたもの。
 最近のスマホの機能には感謝しかない。簡単に綺麗な物が作れるし、プリントも楽だし。
 もう随分とプリントしたのも増えてきた。壁も……うん、いい感じ。

 その中でもこれはとっておきだ。
 プールだからか上半身には何も着ていない上、虚空を向いている感じがアンニュイで実にイイ。


 自分でもだらしない顔をしながらスマホをいくつかスライドさせると、とある画面で手が止まった。

 ストロベリーリキッドの三人だけが写った画像。
 仲のいい三人にとって、さして珍しい画像ではないのだが、さっきまで見ていたものとは毛色が変わった画像につい思いを馳せる。

 愛玲菜……璃穏…………。
 二人とも本当に大好きだけど、彼を調べていく内にその存在も二人に負けないほど大きくなってしまっていた。

 もし二人のどちらかが彼と恋人になったら…………イヤ!そんなの!がボクの前から居なくなってしまうなんて絶対に嫌!!


 ――――そうならないために、どうすればいいのだろうか。
 ボクから彼が離れていかない為にはどうすれば…………。
 ボクはベッドの上で一人頭を悩ませる。その手に握られた代物にシワが付くのも厭わずに。

「あっ……」

 悩みに悩んだそんな時、ボクの頭で一つの思い出がよぎった。
 毎日が充実している今となっては一切出てこなくなり、全く警戒していなかった記憶。


 それはうんと昔、"あの男の人"がお母さんに手を上げ、何かを奪っていく記憶――――


 あぁ、そうだ。
 なんでこんな簡単な事に気付くことができなかったのだろう。
 ありがとう、"あの男の人"。生まれて初めて感謝したけど、お陰でいい方法を思いつくことができたよ。

 ボクはベッドから立ち上がり、今後の計画を立て始める。
 あぁ、計画には"アレ"が必要だ。今すぐに買ってこなきゃ。
 そして彼を呼ぶ手段は……愛玲菜に掃除をするように説教しよう。そしたらきっと彼に話して手伝いに来てくれるはず。
 決行は明日のデートが終わってからだ。まず明日の計画を進めておきたい。

 ボクは暗闇の部屋で一人、笑みが溢れる。
 その口元は、三日月のように大きく大きく広がっていた――――
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