不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第5章

101.マフィンの行方

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「ま~えさ~かくん!!」
「?」

 神鳥さんからの拉致&面談という、謎の行事が終わった翌日。
 学生というのは常日頃勉学に追われている。夏休みという幸せが終わった今、週5で学校という拷問にも等しい勉強漬けの毎日が。
 早朝から始まった勉強まみれの午前中も終わり、昼休みで食堂に行こうと意気揚々と廊下に出ようとした瞬間、扉の目の前でとある人物が立ちふさがった。

 仁王立ちして真っ直ぐこちらを見つめる女性。
 その脇を通り過ぎようと横にずれると彼女も横へ。
 再度逆方向によけたら同じ方向へ。

 一旦引き返してもう片方の扉へ向かおうとしたら服をつかまれた。

 ……はい。回避不可能ということですね。わかりました。

「も~! なんで無視するの~!」
「いや、だって……ろくな事にならなさそうだし」

 目の前にいる少女――――小北さんが頬を膨らませて怒ってますというように眉を尖らせている。
 後方からザワッとクラスメイトたちのざわめく声が聞こえてくる。
 「小北さんが男子と……」「わざわざ昼休みに」と、怨嗟の混じった視線もチラホラと。
 ほら……ただでさえ小北さんは人気あるんだからそんな声出すと注目が集まるじゃないか。

「ロクなことってなに~! 前坂君はカラオケ誘っても着いてきてくれないし……私ってウザいかな…………?」
「えっ……ちょっ……! 小北さん……!」

 段々としぼんでいく声。
 突き刺さるは背後、教室からの視線の山。主に女子によるものだ。
 小北さんは両手で顔を隠し、その肩を小刻みに揺らしている。

 まさか泣くほどカラオケに行けなかった事を気にしていたとは。俺からも話しかけに行けばよかった。
 その後悔から警戒が薄れていき、離れていた距離を少し縮めていく。

「ごめん小北さん……全然そんな事思ってなんか――――」

 語りかけながら一歩、また一歩と距離を詰めていたその時だった。
 突然伸びてくる彼女の手。警戒を解いて近づいていたせいでその手に反応することが出来なかった。
 彼女の手は迷うことなく俺の腕に伸び、手首を逃さないと言わんばかりの勢いで握りしめる。

「捕まえたっ!前坂君!食堂いこっ!!」
「えっ……えっ!?さっきの涙は!?」
「ごめんね、ウソついちゃった。泣き落としなら捕まえられるかな~って思って」

 ウィンクをし、軽く舌を出す小北さん。

 やられた。
 それを狙っていたのか、彼女の右手は俺の左手首をしっかりホールドしていて離す様子がない。全力で抵抗すれば出来ないこともないが、そんな大人げないことはしたくない。
 その計画性と演技力には脱帽だ。諦めて俺は両腕を上げる。

「……食堂、だっけ?」
「うんうん! さ、行こ!前坂君は何食べるの!?」

 諦めたように隣に立つと、彼女は嬉しそうに腕に手を添えて並び立つ。

 それは俺にとって緊張と恥ずかしさの両挟み。
 教室から食堂まで道中、俺は知り合いたちの視線を受けながら彼女に引っ張られて食堂へと足を運ぶのだった。


 ―――――――――――――――――
 ―――――――――――
 ―――――――


「え~!私の作ったマフィン、リオ様に食べられてたの~~!?」

 食堂の一角。
 目の前に座る少女が目を丸くして声を大にして荒らげる。
 その叫びは喧騒にまみれた食堂にて周りの声を引いてしまうほど。
 衝撃の事実に驚いて目を丸くした彼女も突きつけられる視線に縮こまって小声で口元に手を添える。

「ソレって本当に!?あの日リオ様と会ってたの!?」
「うん。小北さんが帰った後すぐにリオが教室に来てね……」
「教室に!?」

 今度は小さな声で驚く小北さん。
 驚くのも仕方ない。しかし彼女は常習犯。リオだからできる芸当だ。

「いいなぁ~。あの後すぐ来てたんだ~。 私ももうちょっと残ってたらお会いできたのになぁ……」

 それは多分、リオは警戒して姿を表さなかっただろう。しかし期待を裏切らないため口をつぐむ。

「それで!? リオ様はなんて言ってた!?」
「美味しいって。また食べたいって言ってたよ」
「~~~~~!!」

 その言葉を聞き、テーブルの上に頭から倒れ込む小北さん。拳を作って悶絶するようにテーブルを叩いている。
 また食べたい、というのは付け加えたが確かに美味しいと言っていた。きっと憧れの人に食べてもらえたのが嬉しいのだろう。


 周りの喧騒がだんだんと大きく聞こえてくる。
 長らく悶絶している彼女を眺めつつ自らの食事を一つ口に運べば、ようやく落ち着いたのか彼女が上目遣いでこちらを射抜く。

「…………そういえば」
「?」

 机に伏ってこえをくぐもらせつつも言葉を紡ぐ。
 その声色は落ち着いてはいたが、なんとなくそれを超えて少しだけ拗ねたような感じだ。

「あの日、もう家を出たお姉ちゃんがさ、マフィン片手に帰ってきたんだよね……」
「はぁ……」

 ご家族がマフィンを持って帰ってきた。
 それがどうしたのだろうと、唐突の話題の切り替わりにただ俺も呆けた音を出す。

「それでね、よくよく見たら私が作ったのにソックリだったんだよね……誰に貰ったのって聞いても教えてくれないし、のぞみちゃ……姪っ子も口をつぐんじゃうし…………」
「……んん?」

 しかし次に聞こてきた言葉とのつながりには俺も首をひねるほかなかった。

 のぞみちゃん……マフィン……
 どこかで聞いた覚えある単語だ……日どりもピンポイント……そしてあの母親の反応……まさか……。

「ねぇねぇ前坂君、何か知らない?」
「……シラナイカナ?」
「ホントぉ?」
「…………」

 しばし二人して見つめ合う。
 それは決してロマンティックなものではなく意地の張り合い。嘘を付いていないと告げるため。
 俺は決して言ってたまるかとその目を逸らさずに、綺麗な彼女の瞳をジッと見つめ――――あ、やっぱムリ。

「あ~!目を逸したぁ! やっぱりそうだったんだぁ!!あの日お姉ちゃんもリオ様と会ってたんだぁ!!」
「い、いや! あれはあくまで偶然で! たまたま公園で知り合ったからリオが遊び相手になって…………」
「遊び相手になってくれたの!?のぞみちゃんの!?」

 しまった。
 語るに落ちるとはこういうことだった。
 今更口をつぐんでももう遅いだろう。俺はため息を吐きつつ諦めてあの日のことを伝える。

「……あの日はね、教室にリオが来て、それからプラプラとしてたらボール遊びしてたのぞみちゃんたちと知り合ったんだよ。リオが一緒にボール遊びして、その帰り際にマフィンを渡したってわけ」
「いいなぁ~。 私も遊んでほし~」

 流石に未就学児相手だからやったわけであって、リオも高校生相手にはやらないと思う。
 小北さんとリオじゃ、リオのほうが年下でしょうというツッコミは火に油なのは目に見えていて喉元でせき止める。

「いいなぁ……前坂君はリオ様ともプラプラできる仲で…………ん?プラプラって……もしかしてデート!?デートしてたの!?」
「あ、いや……デートじゃなくって普通に遊んだだけだから!」
「……ふぅん」

 良い言い訳が見つからなかったからかその目は懐疑的だ。
 しばらく彼女はジト目で此方を見つめてきたが、すぐにため息を一つ吐いて元通りの顔へと戻る。

「ま、エレナ様と知り合いなんだしそういうこともあるよね。それでさ前坂君、本題なんだけど……」
「?」
「週末、どこか遊びに行かない? ほら、前行けなかったカラオケとか!!」
「……週末、かぁ」
 
 あのときに続いて二度目の誘い。
 彼女が腰を上げて誘ってくるのに対し俺が食いつくことはない。

 週末といえば、彼女たちの家に家に言って大掃除をする日だ。
 その申し出はとても嬉しいが先約がある以上、承諾するわけにはいかない。

「もしかして……何かあった?」
「うん。 ごめん」
「……そっか。 うん、私こそごめんね変なこと言って。 さ、前坂君も食べ終わったみたいだし教室戻ろっか?」

 小北さんは机の上を片付け始めるのにあわせて俺も続いてお盆を手に持つ。
 彼女のその言葉の奥には何か抑える物があるように思えて何も返事をすることは出来なかった。

「――――でも! 前坂君、私は諦めるつもりはないよ!絶対!絶対一緒にカラオケ行ってもらうんだからねっ!!」

 そう言って手にしていた俺のお盆を奪い取り、一人小走りで返却口まで持っていく小北さん。
 あぁ、この元気さ、優しさがモテる秘訣なんだろうな。俺はさっき見えた表情とは打って変わって、ただ彼女本来の純粋無垢な表情を見て笑みがこぼれるのであった。
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