不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第6章

127.主夫か、それとも

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「俺が……マネージャー……ですか?」

 あまりに突然の提案に辺りは静まり返る。

 マネージャーだって?
 俺が?何のために?

 全員が黙りこくった空間ではあるものの、脳内ではけたたましく疑問の声が上がっている。
 マネージャー業とは一体何をするんだ?何のために俺が選ばれたんだ?彼女たちに不利益はないのか?
 イメージと言えばいつも側について時刻管理やスケジュール調整をすることしか出てこない。そんなこと、一介の高校生である俺に務まるものなのか?

 夏の段階ではトップアイドルと言っても新進気鋭、という評価だった彼女たちも、今となっては名実ともにあらゆる場面で引っ張りだことなっている。そんな三人の管理を素人の俺に任せていいのだろうか。

 幾つもの考えが頭に浮かんでは消えていく。
 そんな大役を軽々しく提案し、気軽な気持ちで受け入れて良いのだろうか。
 なぜ突然、こんな話が出てきたのだろう。まず聞くのはそこからだ。俺はとりあえずの方針を決めて顔を上げる。

「どうして俺なんですか? そんな大役、務まるとは思えないんですが……」
「ん?あぁ、大丈夫ダイジョブ! そんなに気負わなくたって良いよ! だってマネージャーといっても――――」
「ダメです!!!!」

 神鳥さんの言葉を遮るように、今日一番の大声が上がった。

 見ると、隣には手を胸元でギュッと握り、目をつむって叫び立つアイさん。
 彼女はほんの少し肩で息をしながら神鳥さんを睨みつけ――――

「そんな…………そんなのダメです!! 慎也さんにはお仕事なんかせずにここで私に『おかえり』って言う役目があるんですから!マネージャーみたいに残業続きなんてさせられません!!」

 精一杯抵抗するように間に立つアイさん。
 アイさんは反対か。少しさみしい気もするけどこうも真剣に俺のことを考えてくれていると嬉しい気持ちにも――――

 ――――そこまで考えて彼女の言葉の違和感に気づく。
 なんだか知らないうちに自分の将来が決まってしまった気がする。
 たしか無職確定とかなんとか。専業主夫は魅力的だがさすがに高校生の段階で道を確定するにはまだ早い。俺にだっておそらく、たぶん様々な未来があるはずだ。
 
「はぁ……アイは筋金入りね……どこでこうなっちゃったのかしら……」

 同じくエレナも俺と同じ読解をしたのだろう。1人呆れてしまっている。
 そんなの俺が知りたい。秋からこうなのだから。

「でも……うん、悪くないね。慎也クンを働かせない案」
「リオまで…………」
「だってエレナ、考えてもみてよ。レッスンとか撮影でヘトヘトになりながら帰ると慎也クンの『おかえり』って出迎えと暖かな料理が待ってるんだよ。そういうの…………よくない?」
「…………悪くないわね」
「エレナまで!?」

 思いもしなかったエレナの寝返りに思わず声を荒らげてしまう。
 俺の意思はどこ行ったのとか、確かに悪くないかなぁとは若干思ってるけど。それでも未来を決めるには時期尚早ではないだろうか。

「ってわけでマネージャー、悪いわね。 慎也に仕事はさせてられないの。なんてったって私達の出迎えがあるんだから」
「こらこらこら。勝手に話を進めない。慎也君本人は何も言ってないでしょう?」

 勝手に話を進めるエレナとなだめる神鳥さん。
 どうやら今日の神鳥さんは随分とマトモみたいだ。普段自由人なところがあって四面楚歌になるのではないかと危惧したが、やっぱり評判通り仕事はちゃんとできる人らしい。

「そうね。ちゃんと本人に聞かなきゃ。……ってことで慎也!もちろん私達のヒモになるのよね!?」
「ヒモ!?主夫じゃなくて!?」

 まさかの主夫ルートではなくヒモルートな選択肢に目を丸くする。

「そうですよ慎也さん!お金は私達が何とかしますので働かなくたっていいんです!」
「主夫ですらなく、ヒモはちょっと……」
「慎也クン、欲望に委ねちまいなよぉ。楽になるぜぃ」
「…………」

 三者三様、思い思いのことを言って迫ってくる三人娘。
 一歩一歩近づく彼女らから離れるように、こちらも少しずつ離れていくと、突然パン!となにかが弾けるような音がして全員の動きが停まった。
 神鳥さんだ。彼女は思い切り手を叩いたようで全員の意識を自らに引き寄せる。

「はいはい、まずは詳しい説明を聞いてからでもいいんじゃない?」
「……そうね」
「むぅ、仕方ない」
「聞いても変わらないと思いますけど……」

 どうやら今この場の支配権は神鳥さんにあるようだ。
 3人共大人しく従ってくれる様子に問答無用のヒモコースじゃなくって心底ホッとする。


「コホンッ! まずマネージャーっていってもアルバイトみたいなものだよ。業務内容は私の補佐みたいな感じで、スケジュール調整はこちらがやるし運営周りもちょっとした雑用だけ」
「ほっ……」

 第一に出た説明にとりあえず最悪の事態は回避できたと胸をなでおろす。
 どんな重い重責を担わされるかと思ったが、やることと言えばアルバイトみたいらしい。
 よくよく考えたらそのとおりだ。いくら仲いいって言ったって高校生に大事なところを任せるわけない。

「それって結局何も変わらないじゃない。じゃあ、慎也に何を任せるの?」
「うん、それは簡単。こっちで調整したスケジュールの遂行と…………応援だよ」
「「応援?」」

 聞き慣れぬ言葉にアイさんと同時に復唱する。
 応援……そういう業務でもあるのだろうか。

 神鳥さんはそんな返しを予想していたのか、大きくうなずいてからエレナの肩をポンと叩く。

「そ、応援。話は変わるけど三人とも……最近レッスンに身が入ってないでしょ?」
「うっ…………」
「え、そうなの?」

 誰かの苦々しい声が聞こえた。
 思わず確認するようにそれぞれの顔を覗き込むと見事に視線を逸らされる。

「暇を見つけては三人で慎也君慎也君って喋ってて気もそぞろで……さすがに私もこれはなぁって思ったわけ」
「…………」

 どうやら身が入っていない原因は俺のようだった。
 さっきまで狂犬の如く噛みついていたのに一切反論しないのを見るに本当なのだろう。

「で、私は考えたわけよ。そんな話に夢中ならいっそ慎也君も見守る形で来てもらおうってね。そしたらみんなレッスンにも身が入るでしょ?」
「だから応援なんですね……」

 そこまで言ってくれてようやく俺にも得心がいった。
 俺が居ないところで話題がでて仕事に集中できないなら、いっそ引き込もうという作戦みたいだ。

「どう?慎也君。もちろんお給金は出すし、出てくるのも暇な時でいいよ。 先輩から一人暮らしの条件は聞いてるから特にテスト中は勉学に集中してもらうし、悪い話じゃないんじゃない?」

 一人暮らしの条件……それは今の成績を保つこと。
 多少は融通が聞くとはいえ著しく落ちたら俺まで海外行き待ったなしだ。

 けれど神鳥さんの案なら多少勉強時間は減るものの出る日もこちらで決められるとなればデメリットなどあってないようなものだ。
 むしろ都合が自由に効くバイトと考えたらこれ以上良いものはないだろう。

「やってみたいけど……みんなはどう思う?」
「私は……今以上に慎也さんと一緒に居られるなら願ったり叶ったりですけど……」
「そうね。あんまり無茶なことはなさそうだし、あれば私がどうにかすればいいしね」
「エレナと同じく~」

 どうやら先程とは一転、みんな乗り気のようだ。
 俺もゆっくりとうなずいてから神鳥さんと視線を合わせる。

「俺で、いいのなら」
「よしっ!決まり!! ありがとね慎也君!悪いようにはしないからさ!」
「よ……よろしくお願いします」

 了承の返事に高笑いをして大振りな動きで俺の肩を叩く神鳥さん。
 バイトの面接ってこんな感じなのかな……やったことないから知らないけど。

「あ、マネージャー。私もいい?」

 一気に上機嫌になった神鳥さんが封筒から紙を取り出してなにやら書き込んでいると、リオが一人近づいてきて問いかける。

「ん? なんだい愛しの姪よ。 今は気分がいいからある程度のことは聞くよ?」
「ん。 そのバイト枠なんだけど、慎也クンのフォローに一人頼めないかな?」

 突然のリオの交渉に俺も神鳥さんも疑問符が浮かぶ。
 俺にフォロー役?聞く限りはいらなさそうだけど、そんなに大変なのかな?

「それってなんだかフォローのフォローって感じがするけど…………いる?その役」
「欲しい。お金の問題なら私のから持っていっていいから」
「ん~……まぁ、一人くらいならいっか。 お金については問題ないよ。なに?誰かアテがあるの?」
「ありがと……。 うん。大事な、私達の友達でありライバル」

 ホッと安心した様子のリオがちらりと俺の方へと視線を向ける。
 友達……あぁ、あの人か。彼女と同様に理解のできた俺は深くリオに頷いた――――。
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