不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第6章

128.説得

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「やる!! ぜったいやるよ!!」

 週明け、学校にて。
 とある一つの興奮した声が教室のざわめきをかき消し、埋め尽くした。

 同時に向けられるのは数いるクラスメイトの視線。
 放課後になったばかりの時間帯。教室内にはまだ帰る直前の生徒が数多くいる。その全員が大声によって静まり返り、こちらへと両の目を向けられた。

「小北さん!声!声おっきい!」
「あっ、ごめん! あはは~、なんでもないよ~。びっくりさせちゃってごめんねぇ」

 これが人望の差というものだろうか。
 彼女は慌てて周りを窘めると、ふいっと向けられる顔が消え去っていき教室に日常が戻っていく。

「びっくりしたよ、もう……」
「えへへ……ごめんごめん。 でも本当だよね?ストロ…………あの3人のフォローを私ができるなんて」
「もちろん」
「本当に本当だよね!? これで嘘って言っちゃったら私も怒っちゃうからね!?」

 バン!
 と机を挟んだ彼女が乗り出すようにこちらへと顔を近づけて来る。
 すぐ目の前にはクラスメイトの整った顔。長いまつ毛の先に見える瞳が一切を逃さぬように俺を捉えてきて、思わず何も言えなくなってしまう。

「…………」
「その……前坂君、何も言ってくれないってことは……もしかして、本当にウソ…………」

 俺が言葉を出せずにいたことが"ウソ"だと捉えてしまったのだろう。さっきまで輝かしい笑顔だったのが一転、目と鼻の先にある瞳に涙が貯まっていく。
 
「ホントホント!本当に小北さんにもフォローしてほしいって言われてるから!!」
「…………ホント?」
「~~~~!!」
「よかったぁ……」

 流しかけた涙をせき止める彼女に力いっぱい首を縦に振る俺。
 小北さんが指で涙を拭った後、もう大丈夫だと安堵するのを見て俺も息を吐いた。

「でも、なんでさっきすぐ否定してくれなかったの~? 私、本当に嘘なんじゃないかってびっくりしたんだよぉ!」
「それは…………」
「それは?」


 コテンと眼の前の彼女の顔が揺れ動く。

 それは全て、この状況のせいだというのに。小北さんはあまりの驚きように顔を接近しすぎて鼻が微かに触れていた。
 それも完全に無意識なのか、まったく気づいていない様子。

 少し俺がその気になって首を動かせばキスさえもできる位置だというのに。
 逃げようとしても近づきすぎて逃げることはできない。
 目を逸らそうにも、視線を動かしたら『ん!』と声を上げられて怒られた。
 
 ――――仕方ない。
 俺は重々しくもその事実を指摘するために口を開く。

「その……」
「その?」
「小北さんが……近すぎて……」
「私が……?あっ――――」

 最初のうちは理解できていなかったのかキョトンと大きな瞳を一層丸くなっていく。
 その後、パチクリと何度か瞬きをしたと思ったら、状況を把握したであろうその白い肌がみるみると紅く熱を帯びていく。

「~~~~!! その…………ごめん!私ったらつい……」
「や、全然……。 驚いたけど、それだけだったし」

 理解してからの彼女は早かった。
 まるで飛ぶかのように、一瞬のうちに前のめりになっていた身体を元に戻し、口元を手で覆う。

 あの三人からキスをされた経験があるとはいえ、こういうのは未だに慣れることはない。
 小北さんも可愛い系で、あの三人と勝るとも劣らないほどの容姿なのだ。そんな彼女が目の前に迫ってきたら戸惑うに決まっている。

「えっと、それでこれから俺の家で神鳥さ……マネージャーが仕事の説明に来るんだけど、来れる?」
「もっちろん!前坂君がいいのなら!今日から塾もお休みだしね!」

 お互い冷静になってからは話は早かった。
 互いにこれからの予定を話して帰る準備に取り掛かる。

 本日……というより今日から数日間、学校はテスト期間に入った。
 そのおかげで放課になってもまだ午前中。帰って勉強するかと思ったが、彼女も成績は悪くないみたいだし大丈夫そうだ。

「一応聞くけど、ホントにいいの? 俺って今一人暮らしなんだけど」
「もちろん!……ってそんなの今更じゃん!エレナさんと会うときだってお邪魔したんだし?」
「確かに、そうだけど……」

 以前小北さんとエレナと引き合わせた時、確かに俺の家でセッティングした。
 あの時は互いに変なテンションになっていたけど、そう何度も男の家に遊びに行くのは彼女の危機管理的に大丈夫なのだろうか。

「前坂君は勘違いしてるかもだけど、私って簡単に男の子の家に行くとかそういうのじゃないよ?」
「というと?」
「前回、エレナさんの時もちゃんと約束守ってくれたし、なにも怖いことなかったもん。それに――――」

 彼女は一つ深呼吸して、少し上目遣いがちになりながらこちらを見つめて――――

「さっきの前坂君も、私にキスしようと思ったらできてたから。そういう紳士的なとこ、好きだし、信じられるよ」
「……そっか」

 そこまで信じられるとうれし恥ずかしだが、この場合は素直に喜ぶべきだろう。
 少しぶっきらぼうな返事になってしまったがきっと喜んでるって伝わってるはず。

「……あっ!でも! 好きってそういう意味じゃないよ!!あくまで頼りになるとか信頼できるとかそういう……!」
「? わかってるよ?」

 なんてこと無いように俺が準備を進めていくと、突然慌てたように補足してくる小北さん。
 文脈から見てもそういう意味じゃないってことは容易に想像が付くから心配しなくていいのに。
 あくまでストロベリーリキッドのことが好きな同好の士とかビジネスパートナーとか、そういう意味だろう。

「前坂君は本当にわかってるのかなぁ……」
「?」
「はぁ……まぁいっか」

 何か意味を取り違えたりしたのだろうか。
 さっきまでのやり取りを頭の中で思い返していると、不意に掴まれる感触に襲われる自らの手首。
 何事かと思って見れば、小北さんが俺の手首を掴んだようで見上げるように満面の笑みを見せつけてきた。

「さっ! 前坂君の家だよね!?早くその人のお話も聞きたいし早速行っちゃお!!」
「えっ!?もう!? まだ一時間くらい時間が…………!」
「いいのいいの!その間家でゆっくり待たせてもらうから! さ、レッツゴー!!」

 俺は小北さんに引っ張られるようにして教室を出る。
 道中ずっと、小北さんはストロベリーリキッドの仕事に関われるからか、終始上機嫌で俺の手を握り続けていた――――。
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