不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第6章

130.それぞれの相性

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 ピンポーン――――。

 小北さんが起床し、パスタを食してから程なくしてすると、来客を告げるインターホンが鳴り響く。
 応答するために持ち上げた受話器の向こうに聞こえるのは神鳥さんの声。
 チラリと時計を見れば予定時刻の10分前。数度の応答をして暫く待つと、玄関から目的の人物が姿を現した。

「やふ~。慎也クンに美代ちゃん、来たよ~」

 それから程なく。玄関前にやってきたのは神鳥さんに加え、案の定彼女たちストロベリーリキッドの面々が勢揃いしていた。
 代表してリオが声を上げると、後ろからパタパタと小北さんの駆けてくる音が聞こえてくる。

「わ~! リオちゃん!いらっしゃい~!」
「やぁやぁ美代ちゃん、私たちが来るまで慎也クンにイジメられてなかった?」
「全然!でもちょっと早く着いちゃったからパスタ作ってもらっちゃったぁ!」

 小北さんは俺の横を通り過ぎてリオと手を合わせて楽しそうにおしゃべりし始める。
 傍から見るとキャッキャッというような擬音が付くだろう。
 
 小北さんとリオは、誰しも想像しなかったほど相性がいい二人だった。
 最初のうちはお互い距離を測りかねているのか随分とよそよそしかったものの、9出会って1ヶ月もすれば今のような状態になっていた。
 聞けば頻繁に連絡を取り合ったりしているようで。
 科学室から逃げ出した時からリオが随分と気にかけていると思ったが、まさかここまで仲良くなるとは思っていなかった。

「今日はリオちゃんもみんなも、時間ついたんだね!」
「そそ。丁度ポッカリ空いたからねぇ。みんなでマネージャーに便乗というわけさ」

 まだ玄関だというのにその場で談笑を始めてしまうお二人さん。
 ここしばらくは顔を合わせてなかったみたいだし積もる話でもあるのだろう。そんな二人を眺めていると、一歩俺の方へ近づいてくる影が。

「慎也も相変わらずみたいね。パスタ食べてたって?」

 エレナだ。彼女はいつの日か着ていたブカブカのトレンチコートを身にまとい、そのストレートになった金色の髪を軽くかき上げて問いかけてくる。
 あの日、夏前に見た時は随分と暑そうに思えたがこの季節に見ると案外溶け込んでしまっている。
 それでも美しい金髪に全くサイズの合ってないコートという組み合わせは目立つのだが。

「小北さんのリクエストでね。クリームパスタをちょっと」
「ふぅん。もちろん私たちの分もあるわよね?」
「えっ…………」

 まさかの問いに思わず固まってしまった。

「えっ……と……」

 ウチで食べるとは聞いていない。
 再度作ろうにも肝心の麺が無い。今から買いに行けば何とかなるが……。

 考えてみれば時間帯的にあり得る話にツウ……と一筋の汗が垂れる。
 小北さんの訪問に頭いっぱいですっかり抜け落ちていた。

 しかし言い訳のしようもない。大人しく謝罪の構えを取ろうとしたところ、エレナの真面目な表情が突然崩れてクスリと笑みをこぼす。

「……なぁんて、冗談よ。事前に言ってもなかったしね。食べてきたから気にしなくていいわ」
「ほっ……」
「でも、慎也も栄養バランスには気をつけなさいよ?気づいた時には手遅れなんだから」
「わかってるよ。ちゃんと運動もしてるし」

 今からスーパーにダッシュとも考えたがどうやらセーフみたいだ。
 笑いながら俺の腹をつつく彼女に数歩後ずさって赤くなった顔を背ける。 

「約束よ? あ~あっ、そろそろ私も毎日アイの料理は飽きてきちゃったわ。久しぶりに慎也の手料理が食べたいわね」
「もうっ!エレナ!」

 後ろからアイさんの文句の声が聞こてきた。
 あのほっぺたが落ちるほど美味しい料理の数々を飽きたと申すか。
 考えられない。俺なら毎日5食は余裕だというのに。

「そんなこというんだったら今夜の夕飯ナシにしちゃうよ!」
「あら怖い。 そうなったら慎也の家に転がり込もうかしら」
「エレナっ!」

 アイさんはスーパーロングの髪をハーフアップにして自らの背中で揺らしている。
 トップアイドルとなった仕事中でもプライベートでも楚々とした雰囲気は変わらず健在。怒っていても天使のように可愛い。

「じゃあ慎也、あとの処理は頼んだわ。 ちょっとリオ!私とも親交深めさせてよ!」
「エレナも一緒にキャッキャウフフしようぜぃ、一名様ご案内で~す」

 俺に押し付けて逃げるかのように小北さんの元へ向かってしまうエレナを見て、アイさんとともにため息を付き、苦笑する

「久しぶりね、美代。 元気だった?」
「あっ、はい……エレナさんもおかわり無いようで……」
「なぁに、まだ硬いわねぇ。敬語もさん付けもいらないって言ってるのに」
「その……がんばります……」

 アイさんとともに腰掛けて見つめるのは少しだけ困ったような笑みを浮かべるエレナと、段々と語気が弱まっていく小北さん。
 彼女にとって一番の推しがエレナだということを示すように、知り合ってから時が経ってもその硬さは抜けていない。
 けれどそれはそれで楽しんでいるらしく、エレナが去ってからはいつもハイテンションで喜んでいるのだ。最初は気にしていたエレナもそれを知ってからか、最初に言うだけで留めている

「小北さんも相変わらずだな……」
「慎也さんも、ですよ。相変わらず女の子に優しいんですから……」

 ふと漏らした呟きに反応するように、隣から可愛い小言が聞こえてくる。
 声のする方に目を向ければクリっと大きな目を向けるアイさん。

「そういえば今日はテスト期間でしたよね?忙しい時期にすみません、大丈夫でしたか?」
「ううん、全く。 アイさんもお疲れ様。 仕事、忙しくないの?」
「はいっ。 今年はあとクリスマスと年末特番の収録だけなので余裕あるんです。 それに、仕事が立て込んでいても慎也さんが側にいてくれるなら私は全然…………」

 隣のアイさんは腕を自らの両手で巻きつけて抱きしめるようにそっと肩を寄せてくる。
 最近の彼女の定位置だ。頭をこちらに倒してくるのは全然いいが、彼女の胸までも腕に当ててくるのは恥ずかしい。毎回だしきっとワザとだろうが、指摘するのもアレだから何も言わない。……もちろん俺としても嬉しいから。

「えっと、アイさんは寒くないの?その格好」
「平気です! 寒い時は慎也さんに抱きつきますので!」

 だから今抱きついてきてるのかな?
 本日の彼女は黒いキャミソールの下に白いブラウスと、かなり簡単な格好だ。冬というより秋の装いで、みんなエレナのような暖かな上着を羽織っているのに比べたらかなり寒そうに思える。

「それに、上着は車内にありますので大丈夫ですよ。脱いできたのは慎也さんに抱きつくためです!」
「あ、なんだ。 それならよかっ――――ん?よかったの?」

 不思議な発想に思わず疑問を呈してしまう。
 けれど彼女は俺の問いに応えること無く話を続けていく。

「心配してくれてありがとうございます。 ――――あら?慎也さん、ちょっとジッとしていてください。パスタのソースらしきものが頬に……」
「え、ホント?」

 思わず自らの頬に手を当ててしまう。
 ずっと付いていただなんて全く気付かなかった。恥ずかしい。
 アイさんがティッシュかなにかで拭いてくれるのだろうか。自らでは取れないから正面を向いたままジッと拭き取るのを待っていると、不意に抱きつく力が強くなってその頬に柔らかな感触が――――

「……へっ――――?」
「ごめんなさい、ウソです。ソースは付いていません。キスしちゃいました。ふふっ」

 何事かとその表情を見るとイタズラが成功したかのように笑うアイさん。 
 やられた。クリームパスタだったし本当に付いているかと思って騙された。

 一瞬軽く抗議でもしようかと思ったが、そんな嬉しそうな顔を見せられると指摘する気も起きない。彼女の笑みに釣られるように苦笑すると、「あ~!」と声を上げる音が聞こえてきた。

「ア……アアア……アイさん!公衆の面前でそんなこと!」
「改めましてこんにちは、美代さん。ここは家の前で私たち以外いませんし、それほど私が慎也さんを想っているってことですから」

 揃って声のした方を見るとエレナとリオに囲まれる小北さんがこちらを向いていた。
 彼女は頬を赤らめながら眉を釣り上げている。

「で、でもちょっと……はしたないんじゃないかな!?」
「そうですか? もしかして……美代さんも羨ましいとか?」
「そ……そんなことは……全然!!」
「…………ふふっ」

 二人のやり取りを見ながら俺は一人頭を抱える。
 何故か、本当に何故か小北さんとアイさんの相性は最悪だった。
 初めて引き合わせた時はお互い丁寧なやり取りで安心したが、アイさんが俺の腕に抱きついたら状況は一変。
 当時も顔を真っ赤にしてうろたえながら抗議する小北さんと余裕の表情で返すアイさんの姿があったっけ……

 それからはいつもこんな感じだ。普段は俺を含めて誰かしら窘めるが……

「こらっアイ。挑発しない」
「はぁい……マネージャー……」

 今回、いち早く反応したのは神鳥さんだった。
 彼女に窘められたアイさんは俺の腕を抱いたまま小さくなる。

「美代ちゃんもごめんね」
「い、いえっ!その……マネージャーですか?」
「うむ! ……コホン!」

 おずおずと問いかける小北さんに軽く咳き込む神鳥さん。

「私がストロベリーリキッドのマネージャーである神鳥 恵那だよ! そして、慎也君の二人目の母親になる予定!!」

 仁王立ち。
 何を言っているんだこの人は。

 玄関前に一陣の風が吹いていく。
 雪は振らない程度に温暖な地域が一瞬の内で雪国に来たかのように、一気に氷点下まで達した気がした――――。
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