不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

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第6章

138.王様の所作

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「はいっ、慎也さん、あ~ん!」
「…………あ~ん」
「ふふっ。美味しいですか?」
「……うん。美味しいよ。ありがとう」

 隣から差し出される肉を俺は少し戸惑いながらも口にする。
 モグモグと口を動かし、飲み込んだところでお礼を言うと、隣にはパアッと花が咲く。

 隣……差し出す人物は言うまでもない、アイさんだ。
 テーブルにに目を向ければチキンやオムライス、パエリアやポテトなど。クリスマスに相応しいごちそうが並んでいた。
 それを、自ら食べること無く甲斐甲斐しく俺に差し出してくる彼女……なんだか数日前にも似たようなことがあった気が。

「さ、次は何が食べたいですか?」
「次の前に、アイさんは食べないの?」
「私も後で食べますよぉ。それより慎也さんの食べる姿を見るほうが幸せになれるんです!」
「……そっか」

 そんなことを臆せずに言うとは、アイさんも随分と変わった。
 男性恐怖症なんて何処へやら、彼女の肩は時々触れるどころか、もはやガッツリ隙間のないほど密着している。
 こうも好意をオープンにする人だとはびっくりだ。いや、嬉しいんだけれども。

 しかし、あ~んしてくれる事自体はとても嬉しいのだが、どうしても看過できない問題があった。

「あっはっは!!アイドルがこうもベッタリとは!慎也もやるわねぇ!!」
「むぅ~~!!お兄ちゃん…………それ以上は見過ごせないよ!!」

 問題として、まずはこの二人。
 テーブルを挟んだ向かい側、完璧に酔っ払っている母さんとその隣で睨んでいる紗也。
 家族に見られながらベタベタするなんてどんな罰ゲームだ。

 そして最後の問題が―――――

「ま~え~さ~か~く~~ん!! ほら、このローストビーフ美味しいよ~!食べて食べて~!」

 それが左隣に座る人物、小北さんだ。
 彼女はいつもと様子が様変わりして俺へとお肉を差し出している。
 フリーになっていた左腕は見事彼女に巻き付かれてしまって抜け出すことなどできない。

 確か小北さんは右利きだったはず。けれどもそんなことはウソのように、彼女は器用に抱きついたまま左手でお箸を動かしていた。

「えぇと、確かに美味しそうだけどまだ口の中に入ってて……」
「えぇ~! 私のも食べてよ~~!! じゃないと………グスっ……泣いちゃう……グスっ…………ぞ…………」
「いやっ!あの……その…………あむっ!」

 泣くのはズルい。そんなのされたら俺の行動は決まったようなものだ。
 
 慌ててお肉を口にすると、今にも泣きそうだった表情にパアッと花が咲き誇る。
 普段の小北さんとは見る影もない様子。そんな彼女の変貌は、見るからに酔っ払っているようだった。

「……神鳥さん、もしかして小北さんにお酒飲ませました?」
「お酒ぇ?ないない!ちゃんと管理してるもん! でもさっき随分と匂い嗅いでたから、それじゃないかな?」

 匂いだけで酔う人は稀にいるらしい。けれど、まさか小北さんがとは思いもしなかった。
 普段の活発さとは違いだらしなく頬を緩める姿は非常に珍しい。目が合うと更に頬が緩んでいき、今度は逆側の腕が引っ張られる感覚に襲われる。

「美代さん、慎也さんは今私のものですよ?エレナだってリオだって大人しくしてくれているじゃないですか」

 右隣から左隣へ。
 俺を挟んでチクリと牽制するように出される言葉。
 アイさんは彼女は少しだけ身を乗り出して小北さんに警戒感を醸し出している。

 そういえば随分な状況なのにエレナもリオもおとなしい。
 どうしているのだろうと目だけ動かすと、二人は少し離れた位置で馳走をつついていた。

「まぁ、料理全部に任せちゃったからね……」
「んむ。私たちに……ううん、私にはここまでのレベルまだ無理」

 アイさんの文句のアンサーのように二人は肩をすくめる。
 どうやらこれらの料理は全部アイさんが担当し、文句言えない状況のようだ。

「リオ?なんで『たち』を消したのかしら?私だって今はそこそこ作れるようになったじゃない」
「だって、エレナはそれ以前の問題だし」
「ま……まだマシよ!! オムライスは作れるわ!!」
「…………? あぁ。前に作った、ケチャップライスの上にスクランブルエッグが乗ってるアレのこと?」

 エレナも料理頑張っているみたいだが、まだまだ前途多難のようだ。
 誰しも一度は通る道。今後の山あり谷ありを心の内で応援していると、今度は小北さんから腕を引っ張られる。


「前坂く~ん! 次はこれ食べてよ~!」
「慎也さん! 美代さんのよりこっちのサーモンロール食べてください!自信作なんです!」
「えぇっと……そのぉ…………」

 小北さんが料理を指しだと思ったが逆側まで。まさに八方塞がり。
 どっちを立ててもどちらかから文句が出る。これは逃げようが無い。
 俺は助けを求めるように家族たちへと視線を向けると、神鳥さんを含めた三人がこちらをチラリと見てくる。

 よかった、気づいてくれた。このまま俺を助け――――

「いやぁ、我が息子ながら憎たらしいほどにモテてるねぇ。 ねぇ恵那さん?」
「これで殆ど衝突無いんですからホント奇跡ですよ! ってわけで先輩、私たちも衝突せずに穏便にってのは――――」
「お兄ちゃんなんて知らない! 勝手に修羅場になっててよ!」

 ……誰も頼れそうに無さそうだ。
 今まさに衝突起こっているのにと嘆いていると、二人怒り顔がズイッと俺の前までやって来る。

「前坂君!」
「慎也さん!」

 重要な選択肢だ。
 小北さんを先にしたらアイさんの攻勢が強まる。逆だったら小北さんが泣く。

 ……選択肢以前に詰んでいた。
 そんなことを考えている間にも二人の差し出すお箸はドンドンと俺に近づいていってしまう。

「~~~~~! あむ!!」

 逃げ場をなくすよう二人が迫ってくるのに耐えきれなくなった俺はすぐ口元。二人の差し出す食べ物が触れ合ったのをいいことに一回で二つの料理を口に含んだ。
 ……よかった。偶然ではあったがこれならベターな解決方法だ。同時に食べてしまえば二人からも文句は出ないだろう。口の中で味が大暴れしているのは考慮しない。

「どう?前坂君、おいし?」
「…………うん、美味しいよ。 でも小北さん、だいぶ酔ってるみたいだし水飲んだら?」
「えぇ~! そんなことないよぉ。酔ってないよぉ」

 そうは言うものの頬は紅く、身体は常に揺れていて完全に酔っ払いのそれだ。
 酔っ払いの人はみんなそう言うんです!……って言っても意味ないか。

「あははぁ! 大丈夫だいじょうぶだいじょう――――」

 あれ?
 なんだか小北さんの揺れが大きくなって呂律が回らなくなってきた。

「だいじょぶぅだいじょぉ……だいじょ~――――」
「おわっ!…………とと。小北さん?」
「くぅ…………」

 段々と揺れ幅が大きくなる振り子のように動いていた身体が、斜めのまま静止したと思ったら一気に倒れ込んできた。

 ポフンッ!と間一髪救出成功。
 太ももで受けてなかったらそのまま椅子の角か床に衝突だった。

「もしかして……寝てる?」
「えへへへへぇ……まえさかく~ん…………」

 そぉっと覗き込んだ彼女の表情は真っ赤になりながらも笑顔。
 規則正しい寝息と目が完全に閉じられていることから考えるに寝入ってしまったようだ。
 一体どんな夢を見ているのだろう。恥ずかしくも俺の名を呼びながらとは。

 よかった。修羅場にならなくて。
 一度修羅場った身、今度は小北さんを加えた修羅場なんて勘弁だ。いや、彼女とはそういう関係では一切無いのだが。

 内心ホッとしながら居住まいを正し、彼女が落ちないように工夫しながらもう片側のアイさんへと視線を向けた。

「お酒の香りで酔うなんてビックリしましたけど、これでまた二人きりですね!」

 小北さんが落ちるまでの一部始終を見ていたアイさんは喜びを隠しきれない様子だ。
 そのまま彼女はお箸を手にして次に差し出すであろう食べ物を選び始める。

「えっと、俺一人で食べるってことは…………」
「だめです! 慎也さんにあ~んするために全部頑張ったんですから! 全部私がやりますので慎也さんは何もしなくていいんですよ。 はい、あ~ん」
「…………あ~……」

 まるで王様のようにただ口を動かすだけの俺。
 そんな嬉し恥ずかしい空間の中、俺は彼女の笑顔が続くのならまぁいいかと、嬉しく思いながらアイさんの要望を叶え続けた――――。
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