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第6章
139.予備服
しおりを挟む「じゃ~ん! ねぇねぇお兄ちゃん!どう!?」
食事を終えたティータイム。
ゆっくりと食後のコーヒーに舌鼓を打っていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。
言葉の主を聞き間違えることなんてありえない。紗也だ。
ようやくか。と思い振り向くといつも可愛い紗也がもっと可愛い姿となって俺の前に姿をさらしていた。
「おぉ………すごいな」
思わず感嘆の言葉とともに妹の姿を目に焼き付ける。
食事前にエレナの部屋で測った寸法。それをこの短時間で神鳥さんが調整してくれたらしい。
少女たち四者四様でそれぞれ特色のあったサンタ服、紗也が身を包むものは赤白を基調としているのと帽子、そしてミニスカは他の四人と変わりないが、アイさんと同じように透明なストラップを使った大胆な肩出しファッション。
そして前4人と大きく違う点は、丈が異常に短く脇腹までしか無かった。
当然アンダーシャツなど着用していないため完全に露出してしまっているお腹周り。いわゆるへそ出しファッションだ。
紗也はエレナ以上ではあるものの凹凸は豊かではない。それでも露出過多ともいえる格好は一種の水着のよう。
だからだろうか。一見大胆にも見えるそのファッションは紗也が着る事によって緩和し、とても可愛らしいものへと昇華していた。
「凄く似合ってる! 可愛い!!」
「ふふ~ん! でしょうでしょう!! これアイさんが予備を貸してくれたの!!やっぱりいい人だよね!!」
「……えっ?」
思いもよらぬ言葉に思わずフリーズしてしまう。
これを……アイさんが?
信じられなかった。キワドいのは当然だが、それ以前の問題としてサイズが小さい。太ってるとかじゃなくて背丈的な意味で。
いくら調整したとはいえ限度があるだろう。特に胸周りなんてはちきれないほどになってしまう。
そんな思いを込めて隣に座るアイさんに視線を移すと見事目を逸らされた。
「アイさん。これ、サイズとか際どさとか色々……自分で着ようと思ったの?」
「えっと……その……これはですね…………そう! 予備は気持ちよく来てもらうための方便で、紗也ちゃんにも着てもらおうって買ったんですよ!サイズもぴったりでよかったです!」
一時目を泳がしていたがすぐに説明をしてくれるアイさん。
しかしその説明であぁなるほど、と得心した。予備は方便、紗也の分もちゃんと準備していたということか。
一方で俺からアイさんへの決めつけが行き過ぎていたことを反省する。最近の彼女は暴走しがちだから思い込みが選考しすぎてしまった。
――――しかし、そう安堵しようとした所を、エレナが口を挟む
「何言ってるの。買った日早々そのパツパツなのを着て『慎也さんに襲ってもらいます!』なんて豪語してたじゃない」
「ちょっとエレナ!!」
まるで図星を突かれたかのように露骨に慌てだすアイさん。
……前言撤回。やっぱりだった。
「そういやそうだったねぇ。それで私たちがNG出したんだっけ。返品するって言ってたけどまだ持ってたんだ」
「リオまでぇ……」
いつも一緒の二人に暴露されてヘナヘナとうなだれていくアイさん。
アイさんと紗也の身長差は公式のプロフィールを参照するなら15から20センチくらい。それでこれを着るとしたら相当小さいだろう。
もはや着れるか着れないかとかそんなレベル。紗也でさえへそ出しなのにアイさんが着てしまったら…………
「むぅ~! お兄ちゃん、今日アイさんにデレデレしてばっかり!」
「えっ!? い、いや、そんなこと無いよ!」
「ウソ! 今だってアイさんの胸元見て鼻の下伸ばしてたじゃん!!む~!!」
「そんなわかりやすいことは絶対してな――――アイさん?」
紗也の追求を慌てて否定していると、不意に手の上に置かれる暖かな感触がして思わず顔を向ける。
すぐ隣にはアイさんがそっと手を添えている。さっきまでうなだれていた彼女は少しだけ涙目になりながらこちらを見上げて問いかけた。
「慎也さん……この服、私で想像してたんですか?」
「いや、そんなことは……えっと……」
「その、二人きりになったらいくらでも着てあげますので、今は、この服で満足……していただけませんか? もしダメって言うんでしたら、今すぐこの服を脱いでそっちに――――」
ドンドンと、一歩、また一歩を後ずさる俺を追いかけるように話を進めていくアイさん。
何故か彼女は服を脱ぐという話に行き着き、気づいた時には自らの服に手をかけているところだった。
クッと、手にかけた服に力が入ったところで、もしかしたら反射か、俺の最後の理性が働いて目を瞑ってしまう。
「ダメーーーー!!」
目を瞑った瞬間響くのは紗也の甲高い否定の声。
そして同時に、俺の膝上に柔らかくも力強い何かがぶつかる感覚に襲われた。
「…………? さ……や……?」
ゆっくりと目を開けていくと俺とアイさんの間を割り込むように飛び込んでくる紗也の姿が。
彼女は勢いのまま座っていたソファに飛び込んできたようで、ミニスカートが翻って水色の下着が丸見えになってしまっていた。
「アイさん!いくら何でもそれはダメだよ!! みんないるんだしさ!!」
キッと睨みつけるようにアイさんへと声を上げる紗也。
俺はスカートにまったく気づいていないと見てそっと翻った部分を元に戻す。さすがに妹の下着で過剰に反応することはない。ちょっとは気にするけど。
「えっ……あっ……! そ、そうでした……。すみません、私もちょっとお酒の気に当てられたのかもしれません。ちょっと外の風浴びてきます」
自らの行いに気がついたのか、服にかけていた手をすぐ離していくアイさん。
背を向けて歩き出す彼女にホッと安堵する気持ちともったいない気持ちが同時に襲われる。
「お兄ちゃんも! あんまり気を多くしてるといつか大変なことになっちゃうよ!」
「はい……気をつけます…………」
ぐうの音も出なかった。
俺もすぐに押さえればよかったのにと、自らを反省する。
「だからお兄ちゃん! お兄ちゃんはずっと妹のあたしの面倒見てればいいの!」
「はい……その通……り……んんん?」
ちょっとまって。
勢いにおされてつい肯定しようとしてしまったけど、それもちょっと違う気がする。
「な~んて、冗談だよ。 でも、あたしがこっちに居るときはちゃんと見ててね?」
「それは……もちろんだよ。約束だからね」
膝の上に座って身体を預けてくる紗也の頭をそっと撫でる。
紗也も、いつかは俺の手を離れていくのだろうか。それは辛いがいつかは受け入れなければならない日が来るかもしれない。
俺は頭に触れながら、いつか来る日を思い浮かべて鼻の奥のツンとした気持ちを抑えるのであった。
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