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第6章
140.あみだくじ
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「みんなっ!プレゼント交換の時間よっ!」
宴もたけなわ。
リビングの隅で大人二人が互いに愚痴を言い合いながらお酒とおつまみを口にしている姿を眺めていると、突然そんな声が聞こえてきた。
それは今回のパーティーメインイベントの合図。振り返って見上げればサンタに扮した"ストロベリーリキッド"の面々が大小さまざまな箱を持っているのが目に入る。
「そっか、もうそんなタイミングか」
「えぇ。あんまりダラダラしていてもしょうがないしね。こういうのはサクサクしないと」
「私は慎也さんとイチャイチャラブラブしていたいのですが……」
「悪いけどアイは黙っていて頂戴」
1人際どいサンタ服のアイさんが身体を左右に揺らすのを、すかさずエレナがブロック。ピシャリと顔さえ見ずおざなりさに珍しく肩を落としている。
しかし彼女の言うことも一理ある。居心地がいいからってあんまりダラダラしていたらあっという間に夜が更けてしまう。俺も持ってきたバッグから包装された箱を一つ取り出して見せる。
「全員分じゃなくていいって、言われた通り一つだけ用意したけど、コレでいいの?」
「うん。慎也クンが全員分用意したら負担とんでもないでしょ?」
「まぁ……たしかに」
ごもっともだ。
一介の学生にはプレゼント1人分でもそこそこな負担。それが何人もとなると負担も何倍となる。
「ということで話し合った結果、誰が当たっても恨みっこなしの一発勝負にしたのよ」
「一発勝負?ゲームの勝敗で決めたりするの?」
「そうね、人生ゲームの子沢山ランキングで決着つけたいところだけど、それだと時間かかり過ぎちゃうじゃない」
何故わざわざ子沢山ランキング……と問いかけそうになったところをすんでのところで口を噤む。
その言葉が出た瞬間チラリとエレナが視線を向けた先……それはアイさん。聞いたらきっとアイさんの猛攻が始まるという意味だろう。
「ってことで慎也クンにはコレを作って欲しいんだ」
「コレ?ただの紙だけど……なんか線が書かれてるね」
「そ。あみだくじ。慎也クンが作ってくれるならイカサマされても文句ないしね」
手渡されたのは数本の直線が平行に書かれただけのただの紙。
あみだくじ……ペンとともに渡されたということは線を引けという意味だろう。
「……了解。イカサマせず、ちゃんと公正に引いてみせるから」
一瞬紗也と自分を繋げるよう仕掛けようとも思ったが、3人の輝く目を見て手を止める。
俺は彼女たちに一つウインクし、受け取ったペンを回転させながら机に向かっていった。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
「ふぅ…………」
暗い夜道を1人、街頭を頼りに歩いていく。
辺りは虫の合唱さえ聞こえない静かな公園。雲に隠れて見えない星の下、ポケットに手を突っ込みながら寒さに耐え暗い夜空を眺めていた。
「……さむっ」
この寒さに小さく文句を言うも、返ってくる声などありはしない。
クリスマスの夜更け、公園のベンチで1人座っているのは俺くらいなものだろう。
あれから――――
プレゼント交換によってパーティーも佳境に入ったさなか、俺達家族はあのマンションで一泊することとなった。
それもこれも全ては母さんのせい。我が家を司る母さんはほぼ思いつきで「今日は泊まる」と言い出し、そんな鶴の一声で更に沸き立つ女性陣。
俺は遅れてやってきた父さんを母さんの生贄に捧げ、1人火照った熱を冷ますため近くの公園に足を運んでいた。
「まさかこんなことになるとはなぁ」
ポツリと呟いた言葉は闇に溶けて消えていく。
こんなこと……それは様々な意味を持つ。今日泊まることに加え、これまであった6月から全てのことを。
1年前の俺に今のことを話したらどうなるだろうか。きっとありえないと一蹴して勉強に励んでいることだろう。
しかし間違いなくそれは起こったこと。数ヶ月経っても未だにフワフワとしている感覚を覚えながら天を見上げる。
「―――なにが"こんなこと"なの?」
ふと。
闇からそんな問いかけが聞こえてきた。
それはこことは違う別の世界からの……違う。単に暗くて見えない場所からの声だ。
言葉の後に聞こえてくるのはザッザッと何者かの足音。声の方向をしばらく見てみれば、ほんの数秒後に街頭に照らされた声の主が姿を現す。
「……小北さんか」
「びっくりしたよぉ。気づいたらいなくなってたんだもん。どうしたの?」
「ちょっと熱くて夜風を浴びにね」
「だね~。私もおんなじ。プレゼント交換してからみんなゲームに白熱しちゃってるんだもん」
そう自然に隣に腰を下ろすのはクラスメイトの小北さん。
彼女はおどけた声で肩を並べつつその大きな瞳をこちらに向ける。
「あ、私からのプレゼント、早速つけてくれてるんだ」
「せっかくくれたものだしね。暖かくていい感じ」
「うん、嬉しい」
そう口元をマフラーで隠しながらはにかむ子北さん。
あのプレゼント交換。厳正なるあみだくじの結果、俺のプレゼントが渡ったのは小北さんだった。
そして偶然にも、受け取った相手も同じく……
「……俺のプレゼントも早速使ってくれてるんだね」
「だってあったかくていい感じだから」
「俺とおんなじ」
「えへへ~」
同じ言葉の応酬で彼女はバレたかと舌を出す。
そう、俺と彼女は偶然にもプレゼントが被ってしまった。とはいえマフラーは定番アイテム。かぶるのも仕方ない。救いだったのは柄は違うことだろう。
「いい天気だね」
「そう?星さえ見えない曇りだけど」
「だからなの!ほら、雪とか降りそうだと思わない?」
晴れの欠片もない空。
一体どこがいいのかと思えば返ってくる答えに「あぁ」と同意の言葉を上げる。
今日は確かに寒い。確かに振り始めてもおかしくないくらいだ。
「かもしれないね」
「うん……だといいよね」
二人して空を見上げる。
何も降る気配のない空。闇を見上げ、白くなれと願いながら。
「……ねぇ前坂君」
「うん?」
闇に飲まれそうな静寂が場を占め始めた頃、ふと隣の小北さんから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
しかし視線は空にやったまま。彼女は真っ直ぐ天を見上げながら言葉を紡いでいく。
「前坂君はさ、あの3人と仲いいよね」
「3人ってエレナたち?」
「うん。どうやって仲良くなったのかなって、気になって」
問いかける視線はこちらに向けられることはない。けれどその目は間違いなく真剣を覚えているように思えた。
どうやって……か……
「聞きたいの?」
「うん。前坂君に何があったのか、何を思ったのか聞きたい」
「そっか……少し、長くなるかもしれないけど………」
彼女にならば話しても問題ないだろう。
俺は闇を見上げながら当時のことを思い出す。あれはたしか――――
「ん?」
たしか――――。
そう当時のことを思い出そうとして、ふと思考が中断された。
中断させた犯人は言うまでもなく小北さん。彼女は俺の眼の前で手のひらを掲げ、これみよがしに「んっ!」と声を上げている。
「えっと、これは?」
「だって、長くなるかもしれないんでしょ?だから新しい防寒具!私の温かな手を握ってて!!」
「それだと小北さんが冷たい思いするんじゃ?」
「大丈夫!私っていつでもあったかいから!ナニは風邪引かないっていうし!」
そう胸を張って笑いかける彼女だったが目は本気。この差し出される手を取らないと決して許さないという様子だった。
「じゃあ、失礼して」
「うん!それでそれで!なにがあったの?」
温かな手が冷たい俺の手を包み込む。
まるで冬のコタツに入ったかのような温かさ。そんな心地よさにほんの少しだけ意識が飛びかけたが、待ちわびる彼女の声で意識を取り戻す。
「あ、あぁ。そうだね。あの日は確か、6月の台風が来てた日のことなんだけど――――」
気を取り直して俺は語り始める。
随分と遠くに来てしまったと感じながらあの半年前の、もう何年も昔に思えるような密度の濃い日々を。
宴もたけなわ。
リビングの隅で大人二人が互いに愚痴を言い合いながらお酒とおつまみを口にしている姿を眺めていると、突然そんな声が聞こえてきた。
それは今回のパーティーメインイベントの合図。振り返って見上げればサンタに扮した"ストロベリーリキッド"の面々が大小さまざまな箱を持っているのが目に入る。
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しかし彼女の言うことも一理ある。居心地がいいからってあんまりダラダラしていたらあっという間に夜が更けてしまう。俺も持ってきたバッグから包装された箱を一つ取り出して見せる。
「全員分じゃなくていいって、言われた通り一つだけ用意したけど、コレでいいの?」
「うん。慎也クンが全員分用意したら負担とんでもないでしょ?」
「まぁ……たしかに」
ごもっともだ。
一介の学生にはプレゼント1人分でもそこそこな負担。それが何人もとなると負担も何倍となる。
「ということで話し合った結果、誰が当たっても恨みっこなしの一発勝負にしたのよ」
「一発勝負?ゲームの勝敗で決めたりするの?」
「そうね、人生ゲームの子沢山ランキングで決着つけたいところだけど、それだと時間かかり過ぎちゃうじゃない」
何故わざわざ子沢山ランキング……と問いかけそうになったところをすんでのところで口を噤む。
その言葉が出た瞬間チラリとエレナが視線を向けた先……それはアイさん。聞いたらきっとアイさんの猛攻が始まるという意味だろう。
「ってことで慎也クンにはコレを作って欲しいんだ」
「コレ?ただの紙だけど……なんか線が書かれてるね」
「そ。あみだくじ。慎也クンが作ってくれるならイカサマされても文句ないしね」
手渡されたのは数本の直線が平行に書かれただけのただの紙。
あみだくじ……ペンとともに渡されたということは線を引けという意味だろう。
「……了解。イカサマせず、ちゃんと公正に引いてみせるから」
一瞬紗也と自分を繋げるよう仕掛けようとも思ったが、3人の輝く目を見て手を止める。
俺は彼女たちに一つウインクし、受け取ったペンを回転させながら机に向かっていった。
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「ふぅ…………」
暗い夜道を1人、街頭を頼りに歩いていく。
辺りは虫の合唱さえ聞こえない静かな公園。雲に隠れて見えない星の下、ポケットに手を突っ込みながら寒さに耐え暗い夜空を眺めていた。
「……さむっ」
この寒さに小さく文句を言うも、返ってくる声などありはしない。
クリスマスの夜更け、公園のベンチで1人座っているのは俺くらいなものだろう。
あれから――――
プレゼント交換によってパーティーも佳境に入ったさなか、俺達家族はあのマンションで一泊することとなった。
それもこれも全ては母さんのせい。我が家を司る母さんはほぼ思いつきで「今日は泊まる」と言い出し、そんな鶴の一声で更に沸き立つ女性陣。
俺は遅れてやってきた父さんを母さんの生贄に捧げ、1人火照った熱を冷ますため近くの公園に足を運んでいた。
「まさかこんなことになるとはなぁ」
ポツリと呟いた言葉は闇に溶けて消えていく。
こんなこと……それは様々な意味を持つ。今日泊まることに加え、これまであった6月から全てのことを。
1年前の俺に今のことを話したらどうなるだろうか。きっとありえないと一蹴して勉強に励んでいることだろう。
しかし間違いなくそれは起こったこと。数ヶ月経っても未だにフワフワとしている感覚を覚えながら天を見上げる。
「―――なにが"こんなこと"なの?」
ふと。
闇からそんな問いかけが聞こえてきた。
それはこことは違う別の世界からの……違う。単に暗くて見えない場所からの声だ。
言葉の後に聞こえてくるのはザッザッと何者かの足音。声の方向をしばらく見てみれば、ほんの数秒後に街頭に照らされた声の主が姿を現す。
「……小北さんか」
「びっくりしたよぉ。気づいたらいなくなってたんだもん。どうしたの?」
「ちょっと熱くて夜風を浴びにね」
「だね~。私もおんなじ。プレゼント交換してからみんなゲームに白熱しちゃってるんだもん」
そう自然に隣に腰を下ろすのはクラスメイトの小北さん。
彼女はおどけた声で肩を並べつつその大きな瞳をこちらに向ける。
「あ、私からのプレゼント、早速つけてくれてるんだ」
「せっかくくれたものだしね。暖かくていい感じ」
「うん、嬉しい」
そう口元をマフラーで隠しながらはにかむ子北さん。
あのプレゼント交換。厳正なるあみだくじの結果、俺のプレゼントが渡ったのは小北さんだった。
そして偶然にも、受け取った相手も同じく……
「……俺のプレゼントも早速使ってくれてるんだね」
「だってあったかくていい感じだから」
「俺とおんなじ」
「えへへ~」
同じ言葉の応酬で彼女はバレたかと舌を出す。
そう、俺と彼女は偶然にもプレゼントが被ってしまった。とはいえマフラーは定番アイテム。かぶるのも仕方ない。救いだったのは柄は違うことだろう。
「いい天気だね」
「そう?星さえ見えない曇りだけど」
「だからなの!ほら、雪とか降りそうだと思わない?」
晴れの欠片もない空。
一体どこがいいのかと思えば返ってくる答えに「あぁ」と同意の言葉を上げる。
今日は確かに寒い。確かに振り始めてもおかしくないくらいだ。
「かもしれないね」
「うん……だといいよね」
二人して空を見上げる。
何も降る気配のない空。闇を見上げ、白くなれと願いながら。
「……ねぇ前坂君」
「うん?」
闇に飲まれそうな静寂が場を占め始めた頃、ふと隣の小北さんから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
しかし視線は空にやったまま。彼女は真っ直ぐ天を見上げながら言葉を紡いでいく。
「前坂君はさ、あの3人と仲いいよね」
「3人ってエレナたち?」
「うん。どうやって仲良くなったのかなって、気になって」
問いかける視線はこちらに向けられることはない。けれどその目は間違いなく真剣を覚えているように思えた。
どうやって……か……
「聞きたいの?」
「うん。前坂君に何があったのか、何を思ったのか聞きたい」
「そっか……少し、長くなるかもしれないけど………」
彼女にならば話しても問題ないだろう。
俺は闇を見上げながら当時のことを思い出す。あれはたしか――――
「ん?」
たしか――――。
そう当時のことを思い出そうとして、ふと思考が中断された。
中断させた犯人は言うまでもなく小北さん。彼女は俺の眼の前で手のひらを掲げ、これみよがしに「んっ!」と声を上げている。
「えっと、これは?」
「だって、長くなるかもしれないんでしょ?だから新しい防寒具!私の温かな手を握ってて!!」
「それだと小北さんが冷たい思いするんじゃ?」
「大丈夫!私っていつでもあったかいから!ナニは風邪引かないっていうし!」
そう胸を張って笑いかける彼女だったが目は本気。この差し出される手を取らないと決して許さないという様子だった。
「じゃあ、失礼して」
「うん!それでそれで!なにがあったの?」
温かな手が冷たい俺の手を包み込む。
まるで冬のコタツに入ったかのような温かさ。そんな心地よさにほんの少しだけ意識が飛びかけたが、待ちわびる彼女の声で意識を取り戻す。
「あ、あぁ。そうだね。あの日は確か、6月の台風が来てた日のことなんだけど――――」
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