不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

文字の大きさ
144 / 167
第6章

144.ふるさとの入り口

しおりを挟む
「やぁ…………と、着いたわねぇ~~!」

 「疲れた~!」と、一足先に外の空気を浴びたエレナがうんと伸びをする。
 続けてリオ、アイさんと外に出て、最後に俺も立ち上がって固まっている腰をほぐすように腰を伸ばした。

 背後にはバタンと自動で扉が閉まり、どこかへ走り去っていくタクシー。
 俺は名も知らぬ運転手さんに心の中でお礼を言いながら彼女たちと同じ方向へと顔を向けた。

「おぉ……これは……!」

 見上げると同時に眼前に広がる光景に、思わず感嘆の声を上げる。

 俺達の視線の先には山、山、山。
 片側一車線の、幹線道路と思しき一本の道を中心に家々が立ち並び、四方は全て山に囲まれていた。
 きっと谷に作られた家々なのだろう。右に視線を動かせば山に沿うように流れる大きな川が。
 それ以外は建物、田畑、建物、田畑。割合的には6対4程度で若干建物が多いくらいの景色が広がっていた。

「ここに来るのも久しぶりねぇ。 どう、慎也。疲れてない?」

 懐かしむように大きく息を吸ったエレナはこれまでの疲れが吹っ飛んだように晴れ渡った顔をしている。
 俺は凝り固まった腰を叩きながら彼女に問題ないと首を振る。

「何とかね。 ちょっとだけ腰が硬いけど」
「なぁに?もうおじいちゃんみたいになっちゃった?しょうがないわねぇ。後でマッサージしたげるからもうちょっと我慢なさい」

 普段の数割増しで声の高い彼女はテンションが上っているのか、その川のほとりまで小走りで向かっていき手で水を跳ねさせる。


 今日は1月の1日、元旦。
 俺はクリスマスパーティーでエレナに誘われたように、3人の実家へ赴くこととなった。
 始発直後にいつもの人のタクシーで迎えに来てくれた一行と合流し、最寄りの駅から3時間、バスで2時間、タクシーで30分という長旅を終え、ようやく目的地にたどり着いた。

 田舎田舎と呼ばれていた彼女らの実家。
 正直、その言葉の通りあぜ道と田んぼしか無い地域かと思っていたが全然発展していた。
 確かにあぜ道は存在するがそれは田と田の間だけ。片側一車線だがしっかりと一本の幹線道路が敷かれており、それを中心に家々がチラホラと立ち並んでいる。
 小道に入ったところにも田んぼや家が幾つか。
 更に視線を上に見上げれば、川を挟んだ向こう側……高台には役所らしき目を惹く建物と、普通の学校が隣り合っていた。
 スマホの電波も届く。暮らす上での不便はあまりなさそうだ。

「エレナ!なんで冬なのに水遊びしてるの!風邪引くよ!」
「そうだよ~。はやくいこ~。お腹すいた~」

 俺のそばに立つアイさんとリオがエレナを呼ぶ。
 時刻はもう1時間もすれば正午となろうかと言うところ。

 呼ばれたエレナも川の水遊びもそこそこに、すぐにこちらへと駆け寄ってきた。

「やっぱり冬の川は冷たいわねぇ。 アイー、タオル貸して~」
「はいはい。冷たさと緊張の糸が切れてまた風邪引くなんてやめてよね?」
「大丈夫よ。今回は慎也も居るんだしそんなヘマはしないわ」

 『また』『今回は』ということは以前は風邪引いたことがあったのだろうか。
 夏に看病したからかその光景がありありと目の裏に浮かぶ。きっと休暇は療養して過ごしたのだろう。
 そんなことを考えていると、ふと服を引っ張られる感覚に気がついた。

「ねね、慎也クン。 どう?私たちの田舎は」
「うん、山に囲まれていいところだね。正直もっと田んぼが多いって考えてたから逆の意味でびっくりしたかな」
「さすがにそこまでは……。でも、気に入ってくれると嬉しいなぁ」
「もちろん。ちなみにここまでタクシーで来たけど、普段の交通ってどうなってるの?」
「ん?それはねぇ――――」

 リオが解説をしようかと言うところで手を叩く音が二度、辺りを響かせる。
 アイさんだ。彼女は自らの手を叩いて自信に注目を集めさせる。

「そういうのは後にしましょっ!まずはエレナの家に行って……この服なんとかしないと」
「あぁ~……そうだったわねぇ。すっかり慣れて忘れてたわ」

 アイさんが服を持ち上げると同時にエレナが同意するように肩をすくめる。
 今回家に帰るということで、エレナとアイさんは由緒正しき…………かどうかは不明だが、いつかの不審者コーデに身を包んでいた。
 サングラスこそしていないものの二人共ロングコートに身を包み、麦わら帽子を深々と被っている。
 以前は暑い夏にコートという組み合わせでやけに注目を浴びたが、今回は麦わら帽子が不審者の原因となってしまっている。

 更に言えば、何故かリオも私服でありながら麦わら帽子を被っている。
 リオはブーツにデニムパンツ、そこに膝まで長いタートルニットワンピとシックだけど可愛らしい格好だ。……帽子のアンバランスさえ除けば。

 もしかして、三人とも同じ帽子という制服的な扱いだと思われたのか、彼女たちの正体に気づく者は道中一人もいなかった。不審には思われたが。
 そうしてタクシーの人に怪訝な顔されながらもたどり着いた彼女たちの故郷。俺たちは不審者エレナを先頭に幹線道路を歩き始める。

「ねぇエレナ」
「なぁに?」
「なんで町?村?……の入り口にタクシー止めたの?家の前でもよかったんじゃ?」
「単に小道に入って説明が面倒なのと、なにより慎也に入り口から見てもらいたかったのよ。ちなみに名称上は村じゃなくて町ね」

 ……そっか。
 俺は再度顔を上げて町並みを眺める。
 世の中は正月だからか道行く人どころか車さえも見当たらない。けれど、それでも小鳥は活気づき山は青々と茂っていた。
 何より彼女らのテンションが心なしかみんな高くなっている気がする。

 たしかに、家へ直行していたらこの緑生い茂る景色と空気を堪能できなかっただろう。
 俺はその小さな心遣いが、冬の寒い風を追い返すように暖かく灯す。

「それと~、いざ婿入りで帰ってくることになっても大丈夫なよう、町の空気に慣れてもらうんだよねぇ~」
「あっ!ちょっ! リオ!それは言わないでって言ったじゃない!!」

 まるでついでというようなテンションで付け足してくる爆弾発言にエレナは慌ててその口を塞ぐ。

「そうだっけ?でもまぁ今更じゃん」
「今さらだけどぉ……なんかこう……正面切って言うのは恥ずかしいじゃない!」

 エレナの静止をヒラリと避けるリオは飄々とした様子だ。
 対してエレナは寒さなのか恥ずかしさなのか、頬がほんの少し紅潮している。
 たしかに想いを知った今となれば今更かもしれないが、それでも口に出されると嬉し恥ずかしな部分もある。

「慎也さん慎也さん!」
「アイさん?」

 そんな二人の言い合いを眺めていると不意に腕に抱きついてくるアイさん。
 彼女は麦わら帽子を外し、腕に頬を擦り寄せながら気持ちよさそうに目を細める。

「慎也さん!私が着いていますので親の反対とかは心配しなくていいですからね! いざとなったら……"どうにでも"しますから」
「っ…………」

 フッと顔を伏せ、髪の隙間から見えた目は何やら怪しい眼光を放っていた。
 どうって……何をするつもり? いざというのもわからないが、一つ低い声と合わせて身震いをしてしまう。

「エ……エレナ! 家ってあとどれくらい!?」
「リオは恥ずかしさに無頓着だからこの前も――――って、あら、しまったわ。もう着いちゃったじゃない」

 何やらアイさんに暗い気配を感じた俺は慌てて緩和させるためエレナを呼ぶ。
 彼女も言い合いに夢中で現在地に気づいていなかったようだ。顔を上げると同時にここがそうだと足を止める。

「ここ……?」
「そっ。 では改めて……慎也、私たちの実家へようこそ。いっぱいおもてなししてあげるわね」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

処理中です...