不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい

春野 安芸

文字の大きさ
152 / 167
第6章

152.半年後の分岐

しおりを挟む
「この二日間、お世話になりました」

 川原での告白を終えた朝。
 あれからアイさんの家で一泊した俺たちは帰り支度をし、三人の母親のお見送りを受けていた。

「いえいえ~。あんまりお構いせずにごめんねぇ?」
「そんなこと……!おしるこ、美味しかったです」

 昨日のエレナ母が出してくれたおしるこ。宴会の行われた夜に、それだけで夕食と言い張れるくらいの量を振る舞ってくれた。
 ほとんど完飲したからきっと正月太りが大変なことになるだろう。学校始まる前に泳ぎにいかなければならない。

「秋が楽しみねぇ。初孫……男の子かしら、女の子かしら?」
「だから!そういうのはまだ早いですってば!!」
「え~。つまんないのぉ」

 リオ母は俺の否定に口を尖らせる。
 昨晩、俺たち四人は初めて一晩同じ部屋で過ごした。
 もちろんリオの母親が言うようなことは一切なく、ただ健全な、寝床を一緒にするだけのこと。

 右を見ても左を見ても美少女たちが無防備に寝息を立てていたことには心臓が高鳴ったが、長旅に加えて色々とありすぎたお陰で、気づけばあっという間に俺の意識も闇へ溶けていた。
 だから一緒に寝るといっても何もなし。一瞬危ない場面があったがなんとか何事もなく切り抜けられた。

「またいつでも遊びに来ていいからね? もう私たちの身内でもあるのだから」
「……ありがとうございます」

 アイさん母が俺の手をギュッと握りしめる。
 その瞳は熱を持っており、本当に俺を受け入れてくれているのだと実感する。
 昨夜アイさんに悟られたように、俺は今の意思を突き通していいのだと、そう許してくれている気がさせる視線だった。

 感謝するように握られた手を力一杯握り返すと、彼女は驚いたのか目を丸くする。

「えっ……慎也、さん?」
「俺も、この二日で大事なものを見つけることができました。 だから、本当にありがとうございます」

 彼女だけじゃないが俺はこの三組の親子には感謝してもし足りない。
 だって俺自身を認めることができたのだから。

「えっ……いえ……そんな……。そんな情熱的な目で見られたら……」
「?」

 感謝の念を込めながら手を握っていると、少し慌てたような姿を見せるアイさんの母親。
 どうしたのかと聞こうともしたがそれよりもも早く彼女の口が動き出す。

「いえ……私には夫が……いないけど、アイが……娘がいるから……えっと……慎也さん、私ってまだキレイ……ですか?」
「?  はい、もちろん。アイさんと親子とは思えないくらい綺麗で若々しいですけど」
「――――!!」

 だってトップアイドルのアイさんを産んだお母さんだ。綺麗に決まっている。
 アイさんは少し美人が入っているが可愛いのベクトルが強い。一方彼女はウチの地元を歩けば誰もが振り返るほどの美貌を持っている。
 もちろんもう二人の母親も美人だ。彼女らを美人と呼ばないのならば一体誰を呼ぶのかというほどに。

「慎也……さん」
「はい?」

 何やら俯いていた彼女が顔を上げると、うっすら瞳に涙を浮かべた顔がそこにあった。
 熱を持っているのは変わらない。だが、さっきと比べて何か込められている意思が違うような……。

「えっと、その……。 私は年増ですし……若い、アイがいるけど……それでもいいのなら――――」

 強く握られる手に、今にも泣きそうな顔。
 その縋るような顔が目の前に迫り、そっと瞳が閉じられる。
 まさにそれはキスをせがむような顔つきで、いつの間にか離れていた彼女の手が、俺の頭に添えられて力がこもり――――

「なにやってるのぉ!!お母さん~!!」

 吸い込まれるように俺の顔が彼女の顔へと近づいていった寸前。目の前に手が伸びてきて、顔が覆われるように目の前が真っ暗になった。

 アイさんだ。彼女は母親の行動にいち早く気がついて、俺との接触を防ぐようにブロックする。

「ア……アイ!なんでここに……!」
「最初からいたよぉ! なに娘の旦那様奪おうとするのぉ!?」
「だって……慎也さん可愛いし、ハーレム作るならコッソリ入れないかなぁって」
「ないよぉ! 慎也さんもお母さんのこと突き放しちゃっていいんですからね!!」

 まるでかばうように俺のことを抱きしめるアイさんは、肩で息をしながら鼻息を荒くする。
 一方敵のように睨みつけられた彼女は肩をすくめながらおとなしく数歩後ろに下がった。

「まぁいいわ。これから息子になっていくらでも時間はできるもの。 ゆっくり……ゆっくり、ね?」
「ダメだよぉ!だって……負けるもん……。慎也さんはお母さんにほだされたりはしない…………ですよね?」

 それはさっきの母親そっくりだった。
 目に涙を浮かべ、すがりつくような瞳。
 それを目の辺りにした俺は庇護欲が掻き立てられた俺は、逆に抱きしめ返すように胸元に収めてその頭を撫でる。

「もちろん。アイさんのことが大好きだから……ね?」
「慎也さん……!」
「あらぁ……」

 胸の内で身体を預けるアイさんと、ニヤニヤと隣で笑みを浮かべる母親。
 あ、これってもしかして……

「もしかして……からかってました?」
「あら、わかったぁ? いやぁ、娘がそんなにメロメロだもの。からかいたくなっちゃうじゃない」
「…………」

 イタズラのバレた子供のように無邪気な笑みを浮かべる彼女に、思わず半目になってしまう。
 ここまで茶目っ気のある人だったんだとは。昨日は酔っ払ってて性格が掴めなかった。

「あ、でもぉ」

 チラリとこちらに視線を向けた彼女は、今度は俺の唇に軽く人差し指を当ててくる。
 そのまま彼女はその指を使って投げキッスをしながらウインクを見せつけて……。

「ホントにアイが飽きたのなら、私はいつでも大歓迎よぉ!」
「もうっ!お母さん!」
「あらやだ、聞こえてたのね」
「もぉ~~!!」

 そりゃあ胸元にいたら嫌でも聞こえるでしょうに。
 でも、こう喜怒哀楽を表に出すアイさんは新鮮で、可愛かった。
 きっと二人しか居ない家族だからこそなのだろう。俺も、そこまで彼女の心を引き出せるようにならなければ。

「な~にやってんのよ。そろそろ行くわよ」

 そんな二人を眺めていると近づいてくるのは二人の人物。エレナとリオだ。彼女たちももう荷造りと挨拶は済んだようで、帰る準備はバッチリだ。

「エレナ!聞いてよぉ! お母さんったら慎也さんのこと狙ってるんだよ!!」
「思いっきりからかわれてるだけじゃない。怖いならずっとその手を握ってなさい。ま、私は絶対に離さないけど」
「そうだけどぉ……うぅ……慎也さんはモテるから……」

 力いっぱい俺の手を握りしめるアイさんはうつむく。そんな彼女の頭にそっと手を置いたのはリオだった。
 リオはアイさんと視線を合わせ、ゆっくりと微笑んで……。

「大丈夫。その時は慎也クンを今度こそ監禁しよ?協力するから」
「リオぉ……うん。わかった。ありがと……」
「ん。 じゃあ帰ろっか」

 目に浮かんだ涙を拭って二人して笑い合う。
 いい話のはずなんだけど……何故か身の危険と寒気が止まらない。風邪でも引いてしまったかもしれない。

「それじゃ、短かったけどありがと。 また来るわね」
「元気でね。みんな。 今度来る時は孫もつれてくるのよ?」
「もちろんよ。今年中には写真を送ってみせるわ」

 まってエレナ!!今年中ってどういう事がわかってるよね!?
 そんなの……帰りに自室用の鍵を買わないといけなくなるじゃないか!!

「慎也も! スマホつつく前に行くわよ!!」
「あ、うん! それじゃあ、皆さんありがとうございました!!」

 スマホの買い物リストを更新する手を止め、俺は一足先に動き始めた彼女たちを追いかける。
 そんな俺達の姿が見えなくなるまで、彼女たち三人の母親は、ずっと見守ってくれていた――――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

処理中です...