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第6章
160.ファイナルライブ
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人が――――
たくさんの人が一つの空間に集まっている。
右を見ても左を見ても、はたまた後ろを振り返っても多くの人が、そこに居た。
百人二百人なんて数じゃない。千でもなく万に到達するほどの数が集まっていた。
人の層は文字通り老若男女問わない。傾向的には若い人が多いだろうが、家族やカップル、友達同士などパッと見る限り多様な関係性だと予測させる人がそれぞれ談笑しあっていた。
全員の目的はただ一つ。そして目前に迫った”それ”をこの目で見ようと、誰もが笑顔を浮かべていた。
見て取れる限り緊張や期待の顔はあれど怒りや悲しみといった感情は見受けられない。
俺はそんな様々な顔を眺めつつ狭い通路を通っていく。
「おにいちゃ~ん!こっちこっち~!!」
ふとざわめきの中からそんな声が聞こえた。危うく聞き逃すほどの人の多さ、しかしその者の声だけは決して聞き逃すことがない。
聞こえてくる声に顔を向けると、先にたどり着いていた紗也が笑顔でこちらに手を振っていた。
今日の紗也はいつも以上にオシャレさんだ。
エレナを真似るように長髪を二つ留め、両肩から前に流した髪型。
一張羅らしい普段は履かないプリーツスカートで生足を大胆に露出し、小豆色のニットベストに白のニットカーディガンといった組み合わせ。
活発さを一番に感じさせる紗也はテンションの高さを体現するかのごとく飛び跳ねていて、そんな姿に少し微笑みながら小走りで向かっていく。
「見てみてお兄ちゃん!!ほら!すっごく近いよ!!」
「おぉ……これならモニターでなくても直接見れそうだ」
紗也が示した先、唯一人の姿のない前方へと目を向ける。
目の前には胸元までの高さがある簡単なフェンスがあり、その向こうには一段だけ高い場所――――ステージが広がっていた。
冬も終わりに近づいて、あと1ヶ月ちょっとで新しい年度が始まる2月のとある日。
俺はストロベリーリキッドの”最後”の晴れ舞台、ライブを鑑賞するためにドームへとやってきていた。
最後――――そう呼ぶには理由がある。
彼女たち”ストロベリーリキッド”は今月をもって解散することが既に決められ、発表されている。
表向きの理由は『学業に専念するため』。本当の理由は『全ての夢を叶えきったため』。
もともとリオの誘いで始まったアイドル。その目標は”トップアイドルになる”こと。『既にその夢は叶えられた。あとは人気があるうちに大きな花火を打ち上げる』とは彼女の談。
そんなこんなで突然決まった最後のライブ。
人気絶頂で辞めるとなれば倍率もすごいものだったとネットニュースに乗っていた。現に相当な倍率を勝ち抜いてきただけはあるのか、周りの観客も随分と熱が籠もっている。過去のライブで買ったであろうシャツやタオルを身に包み、ペンライトだって何本も準備する者もいるほど。
そんなファンの方々を横目にもう一度ステージを見上げる。
最も見やすい、まさに理想と言っていいのではないかと思うほどのベストポジション。
神鳥さんから貰ったチケットはまさしくど真ん中だった。いくつも区画に分けられている中の、ステージど真ん中の席。
一列五席。ウチは紗也と母さんで三人、そしてもう二人は美代さん親子が座るらしい。
話によると美代さんの親戚であるのぞみちゃんも何処かに居るだとか。
「こんな席用意できるなんて、さすがお兄ちゃんだね~」
「完全にコネで複雑な気持ちだけどね……」
「ホント、お兄ちゃんは女たらしなんだから……はぁ、どこで道間違えちゃったんだろ……」
ホント、紗也の言う通りどこなんだろうね。
あの台風の日?それとも結成のきっかけになったという小学生の時?
いずれにせよ、よっぽどのことがない限りどうあがいてもこの未来が来ていた気がする。小学生の頃なんて俺の知らないとこで動いてたからどうしようもないし。
「だよねぇ。先輩の息子さんがウチの大事なアイドルを持ってっちゃって、管理する身としては悔しいよぉ」
「あ、マネージャーさん。 お久しぶりです」
「久しぶり~紗也ちゃん。 元気してた?」
「はいっ! あ、チケットありがとうございます!」
チケットに記載されていた椅子に腰掛けて紗也とボーッと会話をしていると、ふと隣からかけられるのは久しぶりに聞いた声。
神鳥さんだ。彼女は美代さん達一行が座る席の一つにいつの間にか座っていたようで会話に割り込みながら軽く手を挙げる。
「気にしないで。風邪もせず来てくれて本当に嬉しいよ。ところで肝心の先輩は――――」
「ウチの主人は向こうでお留守番ですけどね、恵那さん」
フッと微笑んで紗也の頭を撫で、誰かを探すように辺りを見渡す神鳥さんに母さんが釘を刺す。
その言葉を受けて一瞬だけ怯んだ彼女は「いやいや~」とあっけらかんとてをはためかせる。
「もちろん存じてますよぉ。わかってるからこそ三人分しか用意してないじゃないですか~」
「……ま、わかってるならいいけどね。それでどうしたの?あの子達の準備は?」
「準備はばんぜんですので。今は慎也君たちが来れたかどうかの確認と……紗也ちゃん、お呼びがかかってるよ」
「私に? 誰から?」
なんのことか一切見当がついていないようで首をかしげる紗也。
「そりゃもちろんあの三人からだよ。控室に来てくれってさ」
「いいの!?」
まさか呼んでいるのは本日の主役の三人だった。ライブ直前に会えるなんて思っても見なかったようで、まさかの提案に目を輝かせる紗也。
「もちろん。 ……あ、慎也君はダメだよ?」
「えっ!?」
「絶対来させるなって言われててね。慎也君はここで私と留守番。 紗也ちゃんと先輩は向こうの……あのスーツの女の人が案内してくれるから」
俺も当日まで見るなと言われてた衣装が気になっていて、ついていこうと腰を上げかけると同時に釘を刺された。
そう言って指を差したのは普段の制服とは少し毛色の違う、ビジネススーツを来た運転手さんが立っていた。彼女は俺達の視線に気がついたようでこちらに手を振っている。
「わぁ……! それじゃお兄ちゃん!行ってくるね!」
「うん、ゆっくり話してきて。母さんもあとで……母さん?」
紗也が高いテンションで運転手さんに駆けていくも母さんは動こうとせず俺たち二人を見比べている。
そしてピッと人差し指を神鳥さんへと勢いよく差して……
「恵那さん、慎也に鞍替えは許さないわよ」
「あはは……。大丈夫ですよぉ。いくら先輩と似てるとはいえ普通に業務のお話ですから、安心して行ってきてください」
「……信じるわよ」
少しだけ後ろ髪を引かれる様子を残しながら紗也の後を追いかける母さん。
これ以上増やすと俺が彼女たちに殺されるだろうから安心して。
そうして紗也たちが運転手さんに連れられて扉をくぐると、隣の神鳥さんの息を吐く音が聞こえた。
「――――さて、やっとゆっくり二人で話せるね、慎也君」
「二人っていいますが、美代さんたちもそろそろ来ると思うんですけど……」
「ん? あぁ、いいのいいの!美代ちゃんたち家族も先に見つけて控室に行ってるから!」
随分待っても来ないと思ったが、控室に行ってるからだったのか。
さっきまで紗也が座っていた椅子に腰を下ろした彼女は『ちゃんと見れそうだね』と呟きつつまっすぐ正面を捉えている。
「それで神鳥さん、話ってなんでしょう?」
「うん。伝えたいことがあってね……。……慎也君。今までありがとね」
「えっ? あぁ、マネージャー業ですか?いえ、なんだか仕事らしい仕事をした覚えもないですし全然……」
彼女の第一声はお礼の言葉だった。
お礼なんて全然。まったく役に立った覚えなんてない。
結局最後まで俺はあの三人についていくだけだった。
名目どうりただの応援で、仕事した自覚はない。
「ううん、すっごく助かったよ。 実は三人とも結構ムラっけがあって制御するの難しかったのは知ってる?」
「いえ……」
「実はメンタルもモチベーションも不安定で色々苦労しててさ。それが慎也君が来て一気に安定して、感謝してるんだ。まぁ一方で、夏のアイが事件を起こした時はもう酷いものだったけどね」
険悪……俺がアイさんの部屋で捕まったときだろうか。
後日、俺もいきなり神鳥さんに連れ出された時は驚いた。もしかしたらあの時はマイルドに言ったものの、本当にひどかったのかもしれない。
「役に立ったのなら、嬉しいです。それと俺からも聞きたいんですけどいいですか?」
「なんだい?」
「神鳥さんがウチの父さんと出掛けた日、結局どうなったんですか?」
俺にとってはまずそこが一番気になっていた。
母さんが許したのも驚いたけど、アレ以降誰もその話をせず、なおかつ普段どおり何も変わらないのが一番驚いたものだ。
俺から両親に聞くのはなんとなく憚られ、神鳥さんに聞こうにも忙しく、結局こんな日まで引き伸ばしてしまった。
「…………あぁ、あの日ね――――」
彼女は思い出すように目を細めつつ目の前のモニターを見上げる。
正面には『Strawberry Liquid Final Live!!!』と大きく書かれた文字。
その思考はどこまで深く潜ったのか、ははっと息を吐いてから俺を優しく見つめる。
「ヒミツ。これは私と前坂先輩だけの大事な思い出だから」
「……そうですか」
「でも、君たち兄妹が心配するようなことはないよ。安心して」
彼女はクシャリと俺の頭を撫でてからその場から立ち上がる。
「確かに私は前坂先輩が大好きだけど、君たち兄妹も大好きだからね。これまで通り友人としてフラットに付き合っていこう、そんな話をしただけだよ」
「神鳥さん…………」
「ま、前坂先輩が私に鞍替えするってなったら話は変わるけどね!」
「ちょっと」
最後の最後でオチをつけるか。
立ち上がったその表情は晴れやかなものだった。きっと二人の時間は、彼女にとってもいいことだったのだろう。
「あの人もキミたち家族のことをちゃんと愛してたし大丈夫だよ。 それじゃあ私はこれくらいで。ライブ、楽しんで」
「……ありがとうございました」
「そういうのは打ち上げのときでいいよ~! じゃっ!!」
そのままプラプラと手を振って裏手へと去っていく神鳥さん。
俺はそんな後ろ姿に、頭を下げて見送った――――。
たくさんの人が一つの空間に集まっている。
右を見ても左を見ても、はたまた後ろを振り返っても多くの人が、そこに居た。
百人二百人なんて数じゃない。千でもなく万に到達するほどの数が集まっていた。
人の層は文字通り老若男女問わない。傾向的には若い人が多いだろうが、家族やカップル、友達同士などパッと見る限り多様な関係性だと予測させる人がそれぞれ談笑しあっていた。
全員の目的はただ一つ。そして目前に迫った”それ”をこの目で見ようと、誰もが笑顔を浮かべていた。
見て取れる限り緊張や期待の顔はあれど怒りや悲しみといった感情は見受けられない。
俺はそんな様々な顔を眺めつつ狭い通路を通っていく。
「おにいちゃ~ん!こっちこっち~!!」
ふとざわめきの中からそんな声が聞こえた。危うく聞き逃すほどの人の多さ、しかしその者の声だけは決して聞き逃すことがない。
聞こえてくる声に顔を向けると、先にたどり着いていた紗也が笑顔でこちらに手を振っていた。
今日の紗也はいつも以上にオシャレさんだ。
エレナを真似るように長髪を二つ留め、両肩から前に流した髪型。
一張羅らしい普段は履かないプリーツスカートで生足を大胆に露出し、小豆色のニットベストに白のニットカーディガンといった組み合わせ。
活発さを一番に感じさせる紗也はテンションの高さを体現するかのごとく飛び跳ねていて、そんな姿に少し微笑みながら小走りで向かっていく。
「見てみてお兄ちゃん!!ほら!すっごく近いよ!!」
「おぉ……これならモニターでなくても直接見れそうだ」
紗也が示した先、唯一人の姿のない前方へと目を向ける。
目の前には胸元までの高さがある簡単なフェンスがあり、その向こうには一段だけ高い場所――――ステージが広がっていた。
冬も終わりに近づいて、あと1ヶ月ちょっとで新しい年度が始まる2月のとある日。
俺はストロベリーリキッドの”最後”の晴れ舞台、ライブを鑑賞するためにドームへとやってきていた。
最後――――そう呼ぶには理由がある。
彼女たち”ストロベリーリキッド”は今月をもって解散することが既に決められ、発表されている。
表向きの理由は『学業に専念するため』。本当の理由は『全ての夢を叶えきったため』。
もともとリオの誘いで始まったアイドル。その目標は”トップアイドルになる”こと。『既にその夢は叶えられた。あとは人気があるうちに大きな花火を打ち上げる』とは彼女の談。
そんなこんなで突然決まった最後のライブ。
人気絶頂で辞めるとなれば倍率もすごいものだったとネットニュースに乗っていた。現に相当な倍率を勝ち抜いてきただけはあるのか、周りの観客も随分と熱が籠もっている。過去のライブで買ったであろうシャツやタオルを身に包み、ペンライトだって何本も準備する者もいるほど。
そんなファンの方々を横目にもう一度ステージを見上げる。
最も見やすい、まさに理想と言っていいのではないかと思うほどのベストポジション。
神鳥さんから貰ったチケットはまさしくど真ん中だった。いくつも区画に分けられている中の、ステージど真ん中の席。
一列五席。ウチは紗也と母さんで三人、そしてもう二人は美代さん親子が座るらしい。
話によると美代さんの親戚であるのぞみちゃんも何処かに居るだとか。
「こんな席用意できるなんて、さすがお兄ちゃんだね~」
「完全にコネで複雑な気持ちだけどね……」
「ホント、お兄ちゃんは女たらしなんだから……はぁ、どこで道間違えちゃったんだろ……」
ホント、紗也の言う通りどこなんだろうね。
あの台風の日?それとも結成のきっかけになったという小学生の時?
いずれにせよ、よっぽどのことがない限りどうあがいてもこの未来が来ていた気がする。小学生の頃なんて俺の知らないとこで動いてたからどうしようもないし。
「だよねぇ。先輩の息子さんがウチの大事なアイドルを持ってっちゃって、管理する身としては悔しいよぉ」
「あ、マネージャーさん。 お久しぶりです」
「久しぶり~紗也ちゃん。 元気してた?」
「はいっ! あ、チケットありがとうございます!」
チケットに記載されていた椅子に腰掛けて紗也とボーッと会話をしていると、ふと隣からかけられるのは久しぶりに聞いた声。
神鳥さんだ。彼女は美代さん達一行が座る席の一つにいつの間にか座っていたようで会話に割り込みながら軽く手を挙げる。
「気にしないで。風邪もせず来てくれて本当に嬉しいよ。ところで肝心の先輩は――――」
「ウチの主人は向こうでお留守番ですけどね、恵那さん」
フッと微笑んで紗也の頭を撫で、誰かを探すように辺りを見渡す神鳥さんに母さんが釘を刺す。
その言葉を受けて一瞬だけ怯んだ彼女は「いやいや~」とあっけらかんとてをはためかせる。
「もちろん存じてますよぉ。わかってるからこそ三人分しか用意してないじゃないですか~」
「……ま、わかってるならいいけどね。それでどうしたの?あの子達の準備は?」
「準備はばんぜんですので。今は慎也君たちが来れたかどうかの確認と……紗也ちゃん、お呼びがかかってるよ」
「私に? 誰から?」
なんのことか一切見当がついていないようで首をかしげる紗也。
「そりゃもちろんあの三人からだよ。控室に来てくれってさ」
「いいの!?」
まさか呼んでいるのは本日の主役の三人だった。ライブ直前に会えるなんて思っても見なかったようで、まさかの提案に目を輝かせる紗也。
「もちろん。 ……あ、慎也君はダメだよ?」
「えっ!?」
「絶対来させるなって言われててね。慎也君はここで私と留守番。 紗也ちゃんと先輩は向こうの……あのスーツの女の人が案内してくれるから」
俺も当日まで見るなと言われてた衣装が気になっていて、ついていこうと腰を上げかけると同時に釘を刺された。
そう言って指を差したのは普段の制服とは少し毛色の違う、ビジネススーツを来た運転手さんが立っていた。彼女は俺達の視線に気がついたようでこちらに手を振っている。
「わぁ……! それじゃお兄ちゃん!行ってくるね!」
「うん、ゆっくり話してきて。母さんもあとで……母さん?」
紗也が高いテンションで運転手さんに駆けていくも母さんは動こうとせず俺たち二人を見比べている。
そしてピッと人差し指を神鳥さんへと勢いよく差して……
「恵那さん、慎也に鞍替えは許さないわよ」
「あはは……。大丈夫ですよぉ。いくら先輩と似てるとはいえ普通に業務のお話ですから、安心して行ってきてください」
「……信じるわよ」
少しだけ後ろ髪を引かれる様子を残しながら紗也の後を追いかける母さん。
これ以上増やすと俺が彼女たちに殺されるだろうから安心して。
そうして紗也たちが運転手さんに連れられて扉をくぐると、隣の神鳥さんの息を吐く音が聞こえた。
「――――さて、やっとゆっくり二人で話せるね、慎也君」
「二人っていいますが、美代さんたちもそろそろ来ると思うんですけど……」
「ん? あぁ、いいのいいの!美代ちゃんたち家族も先に見つけて控室に行ってるから!」
随分待っても来ないと思ったが、控室に行ってるからだったのか。
さっきまで紗也が座っていた椅子に腰を下ろした彼女は『ちゃんと見れそうだね』と呟きつつまっすぐ正面を捉えている。
「それで神鳥さん、話ってなんでしょう?」
「うん。伝えたいことがあってね……。……慎也君。今までありがとね」
「えっ? あぁ、マネージャー業ですか?いえ、なんだか仕事らしい仕事をした覚えもないですし全然……」
彼女の第一声はお礼の言葉だった。
お礼なんて全然。まったく役に立った覚えなんてない。
結局最後まで俺はあの三人についていくだけだった。
名目どうりただの応援で、仕事した自覚はない。
「ううん、すっごく助かったよ。 実は三人とも結構ムラっけがあって制御するの難しかったのは知ってる?」
「いえ……」
「実はメンタルもモチベーションも不安定で色々苦労しててさ。それが慎也君が来て一気に安定して、感謝してるんだ。まぁ一方で、夏のアイが事件を起こした時はもう酷いものだったけどね」
険悪……俺がアイさんの部屋で捕まったときだろうか。
後日、俺もいきなり神鳥さんに連れ出された時は驚いた。もしかしたらあの時はマイルドに言ったものの、本当にひどかったのかもしれない。
「役に立ったのなら、嬉しいです。それと俺からも聞きたいんですけどいいですか?」
「なんだい?」
「神鳥さんがウチの父さんと出掛けた日、結局どうなったんですか?」
俺にとってはまずそこが一番気になっていた。
母さんが許したのも驚いたけど、アレ以降誰もその話をせず、なおかつ普段どおり何も変わらないのが一番驚いたものだ。
俺から両親に聞くのはなんとなく憚られ、神鳥さんに聞こうにも忙しく、結局こんな日まで引き伸ばしてしまった。
「…………あぁ、あの日ね――――」
彼女は思い出すように目を細めつつ目の前のモニターを見上げる。
正面には『Strawberry Liquid Final Live!!!』と大きく書かれた文字。
その思考はどこまで深く潜ったのか、ははっと息を吐いてから俺を優しく見つめる。
「ヒミツ。これは私と前坂先輩だけの大事な思い出だから」
「……そうですか」
「でも、君たち兄妹が心配するようなことはないよ。安心して」
彼女はクシャリと俺の頭を撫でてからその場から立ち上がる。
「確かに私は前坂先輩が大好きだけど、君たち兄妹も大好きだからね。これまで通り友人としてフラットに付き合っていこう、そんな話をしただけだよ」
「神鳥さん…………」
「ま、前坂先輩が私に鞍替えするってなったら話は変わるけどね!」
「ちょっと」
最後の最後でオチをつけるか。
立ち上がったその表情は晴れやかなものだった。きっと二人の時間は、彼女にとってもいいことだったのだろう。
「あの人もキミたち家族のことをちゃんと愛してたし大丈夫だよ。 それじゃあ私はこれくらいで。ライブ、楽しんで」
「……ありがとうございました」
「そういうのは打ち上げのときでいいよ~! じゃっ!!」
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俺はそんな後ろ姿に、頭を下げて見送った――――。
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