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第6章
164.何度目かの新学期
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何度目かの長休みを終え、また何度目かの新学期が訪れた。
何度経験しても長休みを終えた一回目の学校というのはひどく面倒な気分になるものはこの世の常。
こうやってでゴロゴロしていたら母さんに叩き起こされるか紗也にダイブされて腹部に重大なダメージを負い、危篤状態になるのも今や昔。
母さんも紗也も、今やこの家に誰も居ない。三度訪れた一人暮らしの日常。一人でいることにはすっかり慣れたが、こういう時だとサボってしまおうかなんて邪念がどうしても勝ちそうになる。
そんな気づけば5分どころか1時間でさえも一瞬のうちに過ぎ去ってしまいそうな朝の怠さをなんとか気合で押さえつけ、ベッドから出る。
まだ寒さの残る部屋の中を少し身体を震わしながら、顔を洗うために洗面所へ向かった。
――――あれから、ストロベリーリキッドのライブから一週間の時が経った。
ライブを終えてしばらくはテレビもネットも彼女らのことで持ちきりだったが、三日も過ぎる頃には世間の話題もすっかり消え去ってどこぞの有名人が起こした事故とやらに塗りつぶされてしまっていた。
ネットで検索してもヒットするのは終わった直後の記事ばかり。その後の情報なんて一切出てこず今や別のアイドルの話題が出てくるばかり。まさに盛者必衰、高速で話題が過ぎ去る世の中。そんな界隈を見て、「あぁ、本当に解散してしまったんだな」と心の何処かでピュゥッと隙間風が吹くような気がした。
俺はこの一週間、彼女らに会うことすらできていない。
メッセージを送ると3分以内には返ってくるから心配していないが、今まで2日に1回は誰かしらと会っていた日常だったがゆえに、なんとなく顔が見られないと不安な部分もある。
三人と神鳥さんによれば解散後の後処理に追われているらしい。あいさつ回りだとか諸々の事務処理で忙しい日々を送っているようだ。
そろそろ余裕ができるとも聞くが、今までのハチャメチャだった日常から一転、静寂な日常に逆戻りし、永遠に春休みが続いてほしいと願う傍らで日が過ぎるのを待ちわびるという、なんとも矛盾した日々を送っていた。
……エレナと出会った当初は1週間空くなんてザラだったのに、こうも心寂しくなるなんて俺も変わってしまったんだなと苦笑する。
今日は新しく学校が始まる日である始業式に加え、入学式の日。
我が学校では午前中は始業式、そして午後に入学式という日程となっている。
入学といっても6~8割くらいは中学からエスカレートして目新しいものなど無いに等しいわけで、去年参列した俺も記憶が残っていないほどの行事だった。
幸いにも入学式に在校生の出席は許可されていない。在学生にとって午前中に帰ることが出来るなんてことない一日。
あいにく仲のいい後輩なんているわけもなく、入学式が終わるまで待つなんて殊勝なことはしない。さっさと帰って1人の時間を楽しむ予定だ。
そんなこんなで早起きしてまでやることといえば体育館で眠気に耐えてからちょっと担任の話を聞いて帰るだけ。
もはや書面だけでいいような気がフツフツと湧いてくるが、サボりたい気持ちを抑えて俺は玄関の扉を開け放った――――。
―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
案の定というかなんというか。
結局何事もなく始業式からホームルームまで、本日全てのプログラムを消化し終えた。
瞬き一回で始業式が終わってしまった気もするが、バレてないし何事もなかったと言っていいだろう。
ウチはクラス替えがない、顔ぶれすら変わりようのない三年間だから目新しさの欠片もない。
変わる可能性といえば留年くらいだが、確認できる限りではそんな様子もなし。美代さんは俺よりも成績良いからなんの心配もない。
さて、午後からは何をしよう。
エレナたちの襲来も無いなら美代さんを誘って喫茶店の開拓でもしようか。ここのところ美味しい珈琲店が見つからなくて難儀してるところだけど。
「美代さーん」
少し遠くで帰り支度をしている美代さんに声をかけると、彼女は周りの友人に小さく声をかけてからチョコチョコと小走りでこちらに近づいてくる。
「なになに!?今日のデートのお誘い!?」
心でも読んでいたのだろうか。
尻尾があれば勢いよく振っているほどの機嫌がいい彼女は、わかっていたかのように聞き返してくる。
美代さんとはライブが終わってからの一週間、ほぼ毎日一緒に居た。
やることといえば軽くショッピングをしたり、俺の希望で珈琲店巡りをしたり。
彼女自身は「独占できるからどこでも嬉しい」と言ってくれ、それが学校が面倒ということにも拍車をかけていた。
学校行くくらいなら美代さんとプラプラ散策したい。叶うことならあの三人とも一緒にいたい。そんなことをずっと考える一週間だった。
「お昼も兼ねてまた珈琲飲みに行こうと思ってるんだけど、どうかな?」
「いいよいいよ! 慎也君が行くとこについていきたい!!」
バッグを両手で持ちピョンピョンと飛び跳ねて喜んでくれる。
俺と彼女の関係は、あの日クラス全員に知られてからは常と言っていい程一緒に居た。
さすがに行事や授業中は自重するものの、休み時間やお昼は欠かさずと言っていいほど彼女が駆け寄ってきてくれる。
小さな身体のどこにそんな元気が収められているのか、俺はそんな彼女に感謝の意を込めて頭をそっと撫でる。
「えへへ~。なんだか今日の慎也君、いつもより優しい~」
「いつもより?」
「うん~。 普段なら学校の人前じゃこうして撫でてくれないもん~」
……そうだっけ?
あんまり自覚はないけど、多分身の危険を感じるからだと思う。
今はそれ以上に癒やしを求めているだけで、現にこうしている間にもクラス中から殺気まじりの視線が刺さってくる。
美代さんモテるからなぁ……随分と告白されてたからなぁ…………あぁ背筋が冷たい。
俺がそんな突き刺さる視線をよそに頭を撫で続けていると、ふと廊下の方からざわめきが大きくなるのを感じた。
「…………?」
「慎也君どうし…………って、何の騒ぎだろうね?」
「さぁ…………」
位置的には隣のクラスからだ。
なにか事件でも起こったのだろうか。それにしては黄色い声が大きいような……
俺と美代さんもざわめきにつられて教室の扉に目をやってからすぐのことだった。
ゆっくりと廊下から現れるその人影に、俺も美代さんも同時に目を丸くする。
「しっつれいしま~す…………およ?いたいた~!お~い、慎也ク~ン!」
「――――!!」
驚きすぎて声が出なかった。
廊下から人影が姿を表し、躊躇すること無く我が教室に入ってくるのは、最近までほぼ毎日見て来た顔。
そしてこの二ヶ月ずっと世間をざわめかせ、最後には有終の美を飾ったストロベリーリキッドのリーダー、リオその人だった。
彼女はここの制服に身を包みながら、遠巻きに黄色い声を上げるクラスメイトに軽く挨拶し、なんてこと無く俺の前に立つ。
「おりょ? どうしたの?もしかして慎也クンじゃなくって石像?隣に美代ちゃんもいるし随分と精巧だねぇ」
「――――っ! い、いや! ちゃんと俺だから!!」
「なぁんだ。また見えないのかと思ったよ。 ちゃんと見えてるじゃん。 私のこと」
「見えてるっていうか……なんで隠れないの!?」
ようやくフリーズしていた思考を取り戻し、第一に聞くのは彼女の存在感だった。
彼女ならこれまでに何度も教室に来ていた。それ自体は問題は…………問題はあるが問題ない。
重要なのは隠れずにここに来たこと。
普段から影が薄いと自ら言っている彼女ならばこれまでよろしく誰にも気づかれないでここに来ることなど造作も無いだろう。
それなのに今回は隠れる気すらないほど堂々と現れた。そのお陰で教室の外の廊下には生徒が溢れている。
「え~。だって隠れる必要なくなったし」
「必要が無い……?」
「うむうむ。これを見たまえ!!」
そう言って誇らしげに胸ポケットから取り出したのは一枚のカード。
「カード……?」
「うむ! よく中身を見るぞよ!!」
来校証でも手に入れたのだろうか。それならば騒ぎは問題だが堂々とくる理由はわからなくもない。
そうじゃなかったらブラックカードでも使ってこの学校ごと買い取ったなんて予想もしたが、さすがに公立校を買うなんていくらアイドルでも無理があると一蹴する。
俺と美代さんはともにカードを受け取りその中身を確認する。
「こ……これ…………」
「リオちゃん……本物なの……?」
「偽物だったらちゃんと隠れるよ~。どや!」
手渡されたものを目にした瞬間、美代さんが小さく声を上げ、続いて俺も言葉を失ってしまった。
受け取って二人して見たそれはこの学校の学生証だった。
貼り付けられている写真は証明写真にも関わらず綺麗に映っているリオ本人の姿。
俺の持っている学生証と同じ……紛れもない本物だった。彼女は自慢するように自らの胸を張る。
「私も慎也クンの後を追って後輩になったよ?」
「い……いいい……いつから!?」
なぜ!?いつのまに!?
そんな思いが頭の中を占め、震える声で問いかける。
「そりゃあ、考え出したのは数年ぶりに会った夏の日?慎也クンの学校いきたいなぁって。 それで決意したのはは辞めるって言った日。あれから直ぐに願書取り寄せたりして頑張ったんだよ~」
まさか、まさか彼女がレッスンの傍らそんなことをしていたとは。
未だ驚きを隠せずにいると、彼女は一歩踏み出してきて俺の鼻に人差し指を触れてウインクする。
「それじゃ、これから……よろしくおねがいしますね?せ~んぱい!……ん~……ちょっと違うか」
そう言って決め台詞を決めたのも束の間。何かが納得いかなかった彼女はすぐに手を引っ込めて考え出す。
これ以上驚くことなんて無いよね……?俺、もうキャパオーバーなんだけど…………
「んっ、そうだそうだ。これにしよ」
ようやくなにかを決めたらしい彼女は、今度はもう一歩踏み出して俺の横に立つ。
美代さんが隣に立つのとは反対側の、左側。隣に立ってはいるものの美代さんとは手を繋いだりしていない。学校では自重しているから。
しかしリオはそんな線を軽々と越えてしまった。
横に立った彼女は俺の左手を掴み、その手を抱きしめながら手の甲へとキスを落とす。
「これからもずっと一緒だねっ! ダーリン!!」
何度経験しても長休みを終えた一回目の学校というのはひどく面倒な気分になるものはこの世の常。
こうやってでゴロゴロしていたら母さんに叩き起こされるか紗也にダイブされて腹部に重大なダメージを負い、危篤状態になるのも今や昔。
母さんも紗也も、今やこの家に誰も居ない。三度訪れた一人暮らしの日常。一人でいることにはすっかり慣れたが、こういう時だとサボってしまおうかなんて邪念がどうしても勝ちそうになる。
そんな気づけば5分どころか1時間でさえも一瞬のうちに過ぎ去ってしまいそうな朝の怠さをなんとか気合で押さえつけ、ベッドから出る。
まだ寒さの残る部屋の中を少し身体を震わしながら、顔を洗うために洗面所へ向かった。
――――あれから、ストロベリーリキッドのライブから一週間の時が経った。
ライブを終えてしばらくはテレビもネットも彼女らのことで持ちきりだったが、三日も過ぎる頃には世間の話題もすっかり消え去ってどこぞの有名人が起こした事故とやらに塗りつぶされてしまっていた。
ネットで検索してもヒットするのは終わった直後の記事ばかり。その後の情報なんて一切出てこず今や別のアイドルの話題が出てくるばかり。まさに盛者必衰、高速で話題が過ぎ去る世の中。そんな界隈を見て、「あぁ、本当に解散してしまったんだな」と心の何処かでピュゥッと隙間風が吹くような気がした。
俺はこの一週間、彼女らに会うことすらできていない。
メッセージを送ると3分以内には返ってくるから心配していないが、今まで2日に1回は誰かしらと会っていた日常だったがゆえに、なんとなく顔が見られないと不安な部分もある。
三人と神鳥さんによれば解散後の後処理に追われているらしい。あいさつ回りだとか諸々の事務処理で忙しい日々を送っているようだ。
そろそろ余裕ができるとも聞くが、今までのハチャメチャだった日常から一転、静寂な日常に逆戻りし、永遠に春休みが続いてほしいと願う傍らで日が過ぎるのを待ちわびるという、なんとも矛盾した日々を送っていた。
……エレナと出会った当初は1週間空くなんてザラだったのに、こうも心寂しくなるなんて俺も変わってしまったんだなと苦笑する。
今日は新しく学校が始まる日である始業式に加え、入学式の日。
我が学校では午前中は始業式、そして午後に入学式という日程となっている。
入学といっても6~8割くらいは中学からエスカレートして目新しいものなど無いに等しいわけで、去年参列した俺も記憶が残っていないほどの行事だった。
幸いにも入学式に在校生の出席は許可されていない。在学生にとって午前中に帰ることが出来るなんてことない一日。
あいにく仲のいい後輩なんているわけもなく、入学式が終わるまで待つなんて殊勝なことはしない。さっさと帰って1人の時間を楽しむ予定だ。
そんなこんなで早起きしてまでやることといえば体育館で眠気に耐えてからちょっと担任の話を聞いて帰るだけ。
もはや書面だけでいいような気がフツフツと湧いてくるが、サボりたい気持ちを抑えて俺は玄関の扉を開け放った――――。
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案の定というかなんというか。
結局何事もなく始業式からホームルームまで、本日全てのプログラムを消化し終えた。
瞬き一回で始業式が終わってしまった気もするが、バレてないし何事もなかったと言っていいだろう。
ウチはクラス替えがない、顔ぶれすら変わりようのない三年間だから目新しさの欠片もない。
変わる可能性といえば留年くらいだが、確認できる限りではそんな様子もなし。美代さんは俺よりも成績良いからなんの心配もない。
さて、午後からは何をしよう。
エレナたちの襲来も無いなら美代さんを誘って喫茶店の開拓でもしようか。ここのところ美味しい珈琲店が見つからなくて難儀してるところだけど。
「美代さーん」
少し遠くで帰り支度をしている美代さんに声をかけると、彼女は周りの友人に小さく声をかけてからチョコチョコと小走りでこちらに近づいてくる。
「なになに!?今日のデートのお誘い!?」
心でも読んでいたのだろうか。
尻尾があれば勢いよく振っているほどの機嫌がいい彼女は、わかっていたかのように聞き返してくる。
美代さんとはライブが終わってからの一週間、ほぼ毎日一緒に居た。
やることといえば軽くショッピングをしたり、俺の希望で珈琲店巡りをしたり。
彼女自身は「独占できるからどこでも嬉しい」と言ってくれ、それが学校が面倒ということにも拍車をかけていた。
学校行くくらいなら美代さんとプラプラ散策したい。叶うことならあの三人とも一緒にいたい。そんなことをずっと考える一週間だった。
「お昼も兼ねてまた珈琲飲みに行こうと思ってるんだけど、どうかな?」
「いいよいいよ! 慎也君が行くとこについていきたい!!」
バッグを両手で持ちピョンピョンと飛び跳ねて喜んでくれる。
俺と彼女の関係は、あの日クラス全員に知られてからは常と言っていい程一緒に居た。
さすがに行事や授業中は自重するものの、休み時間やお昼は欠かさずと言っていいほど彼女が駆け寄ってきてくれる。
小さな身体のどこにそんな元気が収められているのか、俺はそんな彼女に感謝の意を込めて頭をそっと撫でる。
「えへへ~。なんだか今日の慎也君、いつもより優しい~」
「いつもより?」
「うん~。 普段なら学校の人前じゃこうして撫でてくれないもん~」
……そうだっけ?
あんまり自覚はないけど、多分身の危険を感じるからだと思う。
今はそれ以上に癒やしを求めているだけで、現にこうしている間にもクラス中から殺気まじりの視線が刺さってくる。
美代さんモテるからなぁ……随分と告白されてたからなぁ…………あぁ背筋が冷たい。
俺がそんな突き刺さる視線をよそに頭を撫で続けていると、ふと廊下の方からざわめきが大きくなるのを感じた。
「…………?」
「慎也君どうし…………って、何の騒ぎだろうね?」
「さぁ…………」
位置的には隣のクラスからだ。
なにか事件でも起こったのだろうか。それにしては黄色い声が大きいような……
俺と美代さんもざわめきにつられて教室の扉に目をやってからすぐのことだった。
ゆっくりと廊下から現れるその人影に、俺も美代さんも同時に目を丸くする。
「しっつれいしま~す…………およ?いたいた~!お~い、慎也ク~ン!」
「――――!!」
驚きすぎて声が出なかった。
廊下から人影が姿を表し、躊躇すること無く我が教室に入ってくるのは、最近までほぼ毎日見て来た顔。
そしてこの二ヶ月ずっと世間をざわめかせ、最後には有終の美を飾ったストロベリーリキッドのリーダー、リオその人だった。
彼女はここの制服に身を包みながら、遠巻きに黄色い声を上げるクラスメイトに軽く挨拶し、なんてこと無く俺の前に立つ。
「おりょ? どうしたの?もしかして慎也クンじゃなくって石像?隣に美代ちゃんもいるし随分と精巧だねぇ」
「――――っ! い、いや! ちゃんと俺だから!!」
「なぁんだ。また見えないのかと思ったよ。 ちゃんと見えてるじゃん。 私のこと」
「見えてるっていうか……なんで隠れないの!?」
ようやくフリーズしていた思考を取り戻し、第一に聞くのは彼女の存在感だった。
彼女ならこれまでに何度も教室に来ていた。それ自体は問題は…………問題はあるが問題ない。
重要なのは隠れずにここに来たこと。
普段から影が薄いと自ら言っている彼女ならばこれまでよろしく誰にも気づかれないでここに来ることなど造作も無いだろう。
それなのに今回は隠れる気すらないほど堂々と現れた。そのお陰で教室の外の廊下には生徒が溢れている。
「え~。だって隠れる必要なくなったし」
「必要が無い……?」
「うむうむ。これを見たまえ!!」
そう言って誇らしげに胸ポケットから取り出したのは一枚のカード。
「カード……?」
「うむ! よく中身を見るぞよ!!」
来校証でも手に入れたのだろうか。それならば騒ぎは問題だが堂々とくる理由はわからなくもない。
そうじゃなかったらブラックカードでも使ってこの学校ごと買い取ったなんて予想もしたが、さすがに公立校を買うなんていくらアイドルでも無理があると一蹴する。
俺と美代さんはともにカードを受け取りその中身を確認する。
「こ……これ…………」
「リオちゃん……本物なの……?」
「偽物だったらちゃんと隠れるよ~。どや!」
手渡されたものを目にした瞬間、美代さんが小さく声を上げ、続いて俺も言葉を失ってしまった。
受け取って二人して見たそれはこの学校の学生証だった。
貼り付けられている写真は証明写真にも関わらず綺麗に映っているリオ本人の姿。
俺の持っている学生証と同じ……紛れもない本物だった。彼女は自慢するように自らの胸を張る。
「私も慎也クンの後を追って後輩になったよ?」
「い……いいい……いつから!?」
なぜ!?いつのまに!?
そんな思いが頭の中を占め、震える声で問いかける。
「そりゃあ、考え出したのは数年ぶりに会った夏の日?慎也クンの学校いきたいなぁって。 それで決意したのはは辞めるって言った日。あれから直ぐに願書取り寄せたりして頑張ったんだよ~」
まさか、まさか彼女がレッスンの傍らそんなことをしていたとは。
未だ驚きを隠せずにいると、彼女は一歩踏み出してきて俺の鼻に人差し指を触れてウインクする。
「それじゃ、これから……よろしくおねがいしますね?せ~んぱい!……ん~……ちょっと違うか」
そう言って決め台詞を決めたのも束の間。何かが納得いかなかった彼女はすぐに手を引っ込めて考え出す。
これ以上驚くことなんて無いよね……?俺、もうキャパオーバーなんだけど…………
「んっ、そうだそうだ。これにしよ」
ようやくなにかを決めたらしい彼女は、今度はもう一歩踏み出して俺の横に立つ。
美代さんが隣に立つのとは反対側の、左側。隣に立ってはいるものの美代さんとは手を繋いだりしていない。学校では自重しているから。
しかしリオはそんな線を軽々と越えてしまった。
横に立った彼女は俺の左手を掴み、その手を抱きしめながら手の甲へとキスを落とす。
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