前世で抑圧されてきた俺がドラ息子に転生したので、やりたい放題の生活をしていたらハーレムができました

春野 安芸

文字の大きさ
59 / 105

059.愚鈍の

しおりを挟む
「わぁ……!中も随分綺麗ですね!」
「うん。正直侮ってた」

 眼前に広がる光景に思わず二人揃って舌を巻く。
 マティの先導に従って足を踏み入れると、学生寮とは思えぬ豪華な景色が広がっていた。
 5メートルはゆうに越える遥か高い天井。靴を履き替えてはいるフローリング。正面には壁いっぱいにひろがる大きな窓から多くの光を取り込んでおり、その先では中庭と思しき芝生で多くの子供達が遊んでいる。
 手前には数名でお茶をするのに適した複数の机と椅子。更に側面に目を向けると壁に沿って設置された靴箱は天井まで届いていた。

 まるでどこか大学のような空間。
 そのお洒落さに圧倒されていると先に入ったマティが靴箱の前で呼んでいることに気づく。

「マティ、靴ってどうするの?天井いっぱいまで靴がおかれてるけど、もしかしてハシゴで昇ったり?」
「そんなわけないじゃない。見てなさい……」

 そう言って取り出したのは一枚の木の札だった。
 見た目からしてどう見ても割符。脱いだ靴と数字の書かれたそれを靴箱手前にポツンと置かれたテーブルに置いてみせると、おもむろに彼女の靴が浮き上がる。
 同時に壁からも一組の靴が浮き上がり、がまるで意思を持つかのように交換する形で音もなくテーブルに着地していく。

「こうやって靴は出し入れできるのよ」
「凄い……」

 まるで立体駐車場のようだった。
 ポイッと床に放おって履いてみせるのはさっきまでのスニーカーではなくスリッパ。これも魔道具の力なのだろう。
 しかし困った。俺達にはトリガーとなる割符なんて持っていない。

「お札は受付でもらえるわ。ほら、中央にいるでしょう?貰って来てらっしゃい」
「ありがとマティ。シエル、行こ?」

 俺の疑問を解消するかのように示したのはエントランスの最奥だった。
 壁一面に張られた窓。その手前の中央に仮説で置かれたテーブルには職員と思しき人物が対応しており、生徒たちが今か今かと列を作って待っている。
 いくつか脱いだままの靴が放られていることから、お札をもらうまでは脱ぎっぱなしにするしかないのだろう。俺達もその場で靴を脱ぎ受付の列に加わっていく。

「受付まで5人……これならあまり待つことはなさそうですね!」
「そうだね。催促してくれたマティには感謝だ」

 どうやら名簿を見て渡すもの渡して終わり、という単純なものではなく諸々と説明を受けている様子だ。
 今は5人で待つことはさほど苦ではないが、これが時間が経って10,20となったらかなりの時間を費やすことになるだろう。一人頭2~3分で終わっているみたいだ。

 待ちぼうけになった数分で、ふとエントランスから周りをぐるっと見渡していく。
 正面には子どもたちが遊んでいるのがみえる大きな窓。後ろはさっき入ってきた入口。
 そして左右には廊下が伸びていた。突き当たりで曲がっているため全容はわからないが、家具の配置がそれぞれ同一……左右対称となっていることから各生徒の部屋へと繋がっていると推測する。
 エントランスの奥の隅。廊下の手前には左右どちらも階段が設置されており、シンメトリーを意識して作られたのだと理解する。

「ごしゅっ……スタンさん、前空きましたよ」

 少し周りに意識を向けすぎてしまったみたいだ。
 気づけば列の先頭、今受付に入った人が終われば俺達の番となっていた。シエルの呼びかけに正面を向けば大半が受付を済ませたみたいで俺達との間に距離が出来ていた。
 振り返れば同じように並んだ10人ほどの生徒たちが列を形成しているのが見える。

「ホントだ。ありがとねシエル」
「いえ、私も楽しみですので」

 シエルもこころなしか声色が浮足立っていた。
 新たな環境での新たな生活。不安もあるだろうが楽しさが勝っているようでホッとする。
 もう間もなく受付だ。俺も軽くなった足で距離を詰めようと浮かしてみせると、不意に視界の端から一つの影が割り込んできて思わずその場でとどまってしまった。

「きゃあっ!」
「シエル!?」
「―――あら、ごめんなさいね」

 俺より一瞬だけ早く足を出したシエル。
 彼女は突然の影と接触し、思わずその場でよろめいてしまった。
 思いの外勢いが強かったのか転けそうになる彼女を反射的に支えながら顔を上げると、一人の女生徒が目に入る。

 詰めようとした数歩分の距離。そこに割り込んできたのは同い年くらいの少女だった。
 長い紫の髪を揺らした制服姿の女の子。背丈的に同じくらいの年の彼女は俺達を一瞥するだけに留め背を向ける。

「シエル、大丈夫?」
「は、はい。少しぶつかっただけですので……」

 軽く接触したシエルだったが怪我とかはなかったみたいでホッとする。
 しかしもう少し早かったら正面衝突してもおかしくなかった。俺は未だに背を向ける少女をキッと睨みつける。

「なぁ、アンタ」
「……なにかしら?」
「ウチのシエルとぶつかったみたいだけど何か言うことは?そもそも横入りするなよ」
「…………はぁ?」

 許せなかった。俺の大事な従者にぶつかってなお目を見て謝罪しないことが。
 あえて強い言葉で非難したにもかかわらず、眼の前の少女は理解が得られないように怪訝な表情を浮かべる。

「なんであたしがそんなもの気にして…………あら?あら?……あらあら?」
「…………なんだよ?」

 不服そうな顔で眉をひそめていた女生徒だったが、俺と目を合わせるやいなや何か確かめるように声を上げ四方八方からこちらを見定め始めた。
 当然彼女なんか覚えはない。俺は見知らぬ女生徒の目線に戸惑ってしまう。数度の確認。それで確信を得たであろう彼女はニヤリと『しめた』というような表情を浮かべる。

「あんた誰かと思ったらスタンじゃない!あの"愚鈍のスタン"!」
「……愚鈍、だって?」

 不意に。
 聞き馴染みのない言葉が彼女の口から飛び出した。
 その目は真っ直ぐこちらに向けられており、怪訝な顔を向けると忌々しそうに舌を鳴らす。

「そういえばあんたも同じ年だったわね……。そもそも!なんであんたに謝らなきゃならないのよ!近衛兵隊長の娘であるこの私が!"愚鈍のスタン”なんかに!」
「…………」

 ジッと心を動かさず少女を見る。
 蔑み。憤り。不理解。そんな感情が彼女から読み取れた。
 さっきの言葉から察するに家柄で優劣をつけるタイプなのだろう。

 そして突然出てきた”愚鈍のスタン”という言葉。
 チラリと後ろを見ると、誰も彼も俺と目が合うやいなやサッと逸らされる。どうやら彼女の言葉はある程度の真実味を帯びているみたいだ。
 由来はわからない。予測としては”以前のスタン”がやらかしてつけられた名前だろうと予想をつける。
 少なくとも嘲笑ということは理解できた。しかしだからといって「はいそうですか」と黙っていることもできない。俺は冷静に彼女と相対する。

「親の職業は関係ないだろ。個人個人で人を見なよ」
「ハンッ!そういうのは武勲の一つでも上げてから言ってもらえる?あたしはこの夏、迷子の子供を助けて感謝状を貰ったわ。あんたは?ないわよね。少なくとも怠け者で我儘なあんたには一生かけても無理でしょうけど!!」

 ハンと鼻で笑い捨てる彼女に『自分も子供だろう』というツッコミをなんとか抑えた。
 きっと何を言っても聞いてもらえないだろう。だからといって力ずくだとこちらの立場が悪くなるだけだ。
 列に割り込まれたことはもはやどうでもいい。しかしシエルに危害を及ぼしたことは許されない。ならばこの縛りの多い状況、どう”説得”しようかと頭を悩ませる。

「ご主人さま……」

 ふとシエルの呼びかけにつられて彼女と目を合わせる。
 不安げな表情。それは言い争いを止めてほしいという彼女の願いも込められているような気がした。
 しかしここで引き下がってはいられない。今後の学校生活のため、シエルが虐められないためにも。

「アンタは――――」
「スタン様、ここはわたくしにお任せください」
「――――えっ……‥」

 なにか一つでも言い返してやろう――――。
 そう思って口を開いた言葉は突如聞こえてきた声に途切れることとなった。

 不意に聞こえてきた鈴の鳴るような声。。
 直後に目の端に映るのは揺れる金色。金の髪を揺らした彼女は俺達の前に立ち、そっと紫髪の少女の後ろから語りかける。

「では、私に列を譲ってはいただけませんか?」
「はぁ?なんでこの近衛兵隊長の娘である私が譲らなきゃならないのよ。あんたたちみたいな愚鈍のお仲間は後ろに引っ込んでなさいよね」
「あら、私でも無理なのでしょうか?」
「だからぁ!無理だって言ってるでしょ!そもそもあんた一体何様―――――」

 ずっと背を向けて喋っていた少女が、ついに辛抱切らしたように振り返った。
 振り返った瞬間言葉が途切れるその口。そして目に入るのはここの制服に身を包んでなお優雅さを忘れることのない金色の髪を持つ少女。

「――――何者かと問われれば……そうですね、『王女様』でしょうか?いつもお父君が城でお世話になっております。私、エクレール・ミア・ガルフィオンと申します」

 そうロイヤリティ溢れる笑顔を向けるはこの国のトップ。王女様であるエクレールであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...