前世で抑圧されてきた俺がドラ息子に転生したので、やりたい放題の生活をしていたらハーレムができました

春野 安芸

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075.帰ってきた騒がしさ

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 目が覚めた。
 暗闇から光ある世界へ瞼を開けていく。ぼんやりとした視界が段々と輪郭を持ち始め、一番に目に飛び込んだのは見覚えのある天井だった。

「ここは……」

 身体を起こして周囲を見渡せば、広くはないものの整理整頓された空間。机の上にはレポートを中心とした数枚の紙が置かれており、室内中心を基準にして二等分するように左右対称となった家具が目に入る。更に部屋の隅には見慣れた鞄が置かれている。間違いない、ここは俺の部屋、学校の寮の一室だ。

 窓の外に目をやると夕焼けが空を真っ赤に染めている。どうやらかなり眠り込んでいたらしい。
 それほど緊張や疲れ切っていたのか。いずれにせよこんな時間に起きたということは夜眠れなくなるのはかくていのようだ。

「……夢じゃ、無いよね」

 ふと自分の掌を見ると、普段と変わらぬプニプニお手々。
 目覚める前の記憶。それは鮮明に記憶に残っていた。朝から実験として行った森での出来事、魔物と向き合い『止まれ』と叫んだあの瞬間。全てが鮮明に蘇る。その直後力が抜けるように気を失ったことも。
 あの瞬間レイコさんが支えてくれたことも分かっている。きっと彼女がここまで運んでくれたのだろう。
 落ちる寸前、彼女は『力の制御ができなかった』と言っていた。もしかしたら自分の身に宿る何かを使いすぎて気を失ったということだろうか。

「帰って、これた……!」

 とりあえず考えるべきことは山ほどあるが、生きて帰ってこられた。
 突然飛ばされた平原。命の危機に襲われもしたが、それでもなんとかここまでたどり着いた。
 その事実を実感しボフン!とベッドに倒れ込む。温かなベッド。安心する部屋。ベッドに横になりながらうんと気持ちよく身体を伸ばすと、不意にカチャリと部屋の扉が控えめながらに開かれた。

「……失礼いたします」

 入ってきたのはお城で消える瞬間最後に目にした少女、エクレールだった。
 そんな彼女の表情は俺が普段見るものとは大きく違い、暗く、酷く落ち込んでいた。
 顔に影が落ち、美しい金色の髪は今は輝きを失っている。目は虚ろのまま伏せられて室内というより足元を見ている。

「いらっしゃいエクレール」
「はい。失礼いたしま……へっ――――」

 エクレールの足が一瞬だけ止まった。その瞳は驚きに見開かれ、次の瞬間には揺れるように瞬きを繰り返した。まるで夢と現を行き来するかのように。彼女の視線が俺の顔から胸元へ、そして再び瞳へと行き来する。

「スタン……様?」

 か細い声が震え、言葉が消える。直後、彼女の瞳がみるみる内に潤み始め、ポタリと頬を伝う雫が床へと落ちた。彼女の身体が小さく震えたかと思うと――――

「――――スタン様っ!!」
「うぉっと!」

 大きな声とともに彼女は俺に向かって飛び込んできた。
 思い切り地面を蹴り上げ飛び込んだ彼女を受け止めると、彼女は確かめるように頬へ手を触れてくる。
 冷たい掌。暖めるように手を重ね合わせると彼女の声に嗚咽が混ざる。

「ぅっ……!よかった……本当に良かったです!!」

 抑えきれない涙をこぼしながら声を震わせる。その様子に俺はただ驚き、そして申し訳無さからそっと小さな頭を撫でていく。

「ごめんエクレール。ボクの小旅行に心配かけちゃったみたいだね」
「っ……!もう、本当に……本当ですよっ……!」

 ぎゅっと力強く抱きしめる彼女に痛いとも言えず、どれだけ心配かけたのかを痛感した。
 俺の胸の内で泣き続けるエクレール。そんな彼女を撫で続けていると、ふと扉の方からバサリと何かが落ちる音が聞こえてきた。

「ご主人さま……」
「やぁ、シエル。おはよう」
「っ……!ご主人さま!起きられたのですねっ!!」

 続いて飛び込んできたのはシエルだった。
 手に抱えていた紙の束を落とした彼女はそれを気にする間もなくベッドの脇に駆け寄ってきて膝を着き、ギュッと手を包み込む。
 シエルもエクレールも、随分と心配かけてしまったみたいだ。

「ちょっと二人とも、隣まで声が響いてるんだけど…………あらスタン、起きたのね」
「マティ。おはよう」
「おはよう。全く二人とも、泣いてばかりで……」

 涙をこぼす二人の頭を撫でながらあやしていると、続いて現れたのはマティだった。
 彼女は小さく手を掲げて返事をしながらベッドの横にある勉強机の椅子に座って足を組む。

「仕方ないじゃないですか……ずっと目覚めないかと思ったら、私……」
「大げさだよエクレール。別に日中寝てたくらいで」
「……ねぇスタン、あんたどれくらい眠ってたか知ってる?」
「…………?」

 何やら意味深な問いかけをするマティ。
 その言葉に首を傾げながら窓を見ると夕焼けに照らされている。

「えと、10時間くらい?」
「そうね、ある意味正解だわ。正確には2日と10時間だけれど」
「にっ……!?」

 バッと勢いよくベッド脇の棚を見ればこの日中だけで貰ったとは思えないお見舞いの品が並べられていた。
 エクレールを見れば確かに、瞳の下には隈が出来ていた。いつもは整って優雅さを忘れない彼女が今はボロボロで疲れを隠していない。そしてシエルも同様だ。普段の完璧な佇まいは影を潜めている。

「ごめん、心配かけたね」
「いえっ、ご主人さまが目覚めていただけたのなら……それで……」

 シエルの控えめな応えに胸が締め付けられるような思いがする。
 随分と心配かけた。スッと二人に手を回して優しく抱きしめる。

「ところでマティは心配してくれなかったのかな?」
「私?えぇ。全く心配なんてしなかったわ」

 マティは腕を組んでそっぽを向きながら言い放った。その横顔は相変わらず堂々としているように見えるが、小さく握られた拳が微かに震えているのが目に入った。
 そして彼女はすかさず「だって……」と言葉を続けてみせる。

「……だって、あんたはアタシを誘拐犯から助けてくれたのよ。何があってもあんたなら平気だって信じてたもの」

 彼女の声は普段通りの強さを装っているが、語尾に微かに混じった掠れ声が、彼女の本音を物語っていた。
 そう呟いたあと、ほんの一瞬だけ彼女の視線が俺を捉えた。しかしすぐに逸らされる。一瞬見えたその瞳には告げられた言葉とは裏腹に隠しきれない安堵が浮かんでいるように思えた。

「ぁっ……。そっか……うん……」

 クリティカルヒットだった。
 直球で投げられる『信じてた』との言葉。そこには嘘偽りの一つもなく、純粋な言葉にこっちが赤くなってくる。

「……ウソです」
「エクレール?」
「スタン様、マティナール様はウソをついておられます。だってこの数日間、学校ではずっとスタン様の机を見てましたよ」
「っ……!ちょっとエクレール!あんたなんでそれをバラしちゃうのよっ!!」

 マティの攻勢にドキドキしていると、今度はエクレールから声が上がった。
 カウンターをさらにカウンターするように暴露される学校での出来事。バラされたマティは顔真っ赤にして勢いよく立ち上がる。

「だって事実じゃないですか。お昼休みもずっと『スタンは……』って」
「いいのよそんなこと!余計なこと言わないでっ!」

 珍しく焦った様子でエクレールに手を伸ばすマティ。しかし彼女はそんな攻撃すらヒラリと交わして俺を盾にするように隠れる。

「ふふっ、マティナール様も案外誤魔化すのは下手なようですね」
「あんたねぇ……部屋に帰ったら覚えてなさいよ!」

 俺を挟んでの言い争い。
 病み上がりで脳に響くも逆にそれが心地よく、自然と笑みが溢れるのを感じた。


 ふと目を閉じると、あの広大な平原の風景が頭をよぎる。
 かき分ける草々。背後から容赦なく襲ってくる魔物。全身に感じた孤独と死の恐怖。
 一方で相反するようにこの部屋に包まれる優しい空気。温かな布団の感触に耳に届く賑やかな声。それら全てが生きている実感を俺に与えてくれた。

 帰ってきたんだな、俺――――。

 みんなが居る空間。明るく騒がしい、心から自分を案じてくれる友人たち。
 この場所に帰ってこられた実感が湧いて、気づけば言葉が漏れ出ていた。

「大事に思ってくれてありがとう、みんな」

 騒がしい空間に小さな言葉はかき消されて消えていく。
 俺の小さな小さな感謝は、夕焼けに染まる空とともに暖かい空気に溶け込んでいった。
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