前世で抑圧されてきた俺がドラ息子に転生したので、やりたい放題の生活をしていたらハーレムができました

春野 安芸

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076.テキストと本題

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「ねぇスタン、あんたここ数日、ずいぶん大変だったみたいね」

 それは俺が長い眠りから覚めた翌日の昼休み。食堂から教室へ戻ってきた時のことだった。
 2,3日眠っていた反動、立って歩くことが困難だったのもなんとか一晩で解決した翌日。
 今日も今日とて日常は回っていく。学校でのカリキュラムをこなしながらこれからのルーティーンとして日常に慣れようとしていると、食事を終えて戻ってきた俺に話しかけてきたのはセーラだった。
 彼女は3人まとめてお手洗いに行った面々に代わって俺の隣、シエルの席へと腰を下ろす。

「色々とね。昨日は二人が大変だったけど」
「王女様と従者ちゃんね……あたしも見てたけど酷いものだったわよ。この区画だけまるでお通夜。先生でさえ手を焼いていたわ」
「そんなに……?」
「えぇ。たかが風邪で大変よね。だからこそ今日が平和すぎて逆に恐ろしいわ」
「風邪…………」

 ふと気づいた。風邪……俺はそんなもので休んではいない。

 だが一方で納得もできる。
 きっとあの場に居た3人がどうにかしたのだ。失踪したと公表していればそれこそ大変なことになっていただろう。下手すれば王家の信用問題にもなりかねない。
 俺としても飛ばされた件について事実の究明こそ求めるものの責めるつもりはまったくない。あのエクレールの焦燥具合を見ればそんな気もすっかり失せてしまった。

「どうしたの?やっぱりまだ調子悪い?」

 ジッと先日のことについて思いを巡らせていると、不意にセーラが顔を覗き込んでいることに気づいた。

「あぁいや、大丈夫だよ。それよりセーラは数日見ない内に随分変わったね。なんだかずっと友だちに囲まれてない?」

 彼女から視線を感じていた午前中。一言くらい俺からも挨拶に行こうと思っていたが、彼女は休憩時間ずっと友だちと会話していて割り込むことが出来なかった。
 セーラを中心とした友達の輪。その雰囲気は和気あいあいとしていて、先日口にしていた「対等な友だちなんていなかった」という言葉が脳裏をよぎる。
 俺がそのことを問いかけると彼女はほんの少しだけ複雑そうな表情をする。

「えぇ。初日のテストであんたに負けてからね。なんだか吹っ切れたの」
「吹っ切れたって?」
「テストで首席とか、感謝状とか、そういう何でも一番にって考えないようにしたの。そしたら他のみんながあたしに優しくなったような気がして、気づいたらみんなに囲まれていたわ」
「…………そっか」
「変よね。頑張るのをやめただけっていうのに」

 そう言って言葉を吐く彼女は笑顔だった。
 きっと肩肘張るのをやめ、ようやく自然体になれたのだろう。彼女の父は随分偉い人だと聞いた。それに対するプレッシャーがあったのかもしれない。幼いながらにそれを感じ取り、彼女もなんでも一番にと考えるようになったと。
 ずっと肩肘張り続けていた彼女に対等な友だちなんてできるはずがない。だけど今、彼女の笑顔は肩の荷が降りたようで、先日見たぎこちなさとは違い自然で心地よい笑顔だった。

「そっちのほうがいいと思うよ。みんなから見ても話しやすくなったんだと思う」
「そうかしら?頑張らないほうがいいってなんか複雑ね」
「人生はそういうものだよ」
「人生って……まるで大人みたいなこと言うじゃない」

 呆れるように笑う彼女に俺も笑みをこぼして肩を竦める。
 とりあえず言いたいことは言い終えたのだろう。「それじゃあ」と言って席を立ったセーラだったが最後になにか言い残したことがあったのか背を向けた途端「あっ」と声を上げて振り返る。

「そういえば次の時間気をつけてよね」
「次の時間?なにかあったっけ?」
「あんたは前の授業受けてないから知らないと思うけど次は移動教室よ。テキストも忘れずにね。先生結構厳しい人だから」
「そっか。ありがと、気をつけるよ」

 「ならいいわ」と言葉を言い残して友だちの輪に戻っていくセーラ。

 正直学校の授業としては退屈だ。
 まだ入学して数日ではあるがさすがに難関高校程度の知識を持っているとどうしても知識の乖離が見受けられる。
 歴史などがあれば話は代わるがまだ基本的な常識の授業だからそこも遠い。当然、この数日の遅れは既に取り返している。
 ……とはいえ授業をサボったり不真面目に受けるわけにもいかない。俺は素直に言うことを聞いて次の授業に使うテキストを引っ張り出そうとする。

「……あれ?……あれれ?」
「どうされました?スタンさん」

 俺が机を覗き込むと頭上から降り掛かってくるシエルの声。
 どうやらお手洗いから戻ってきたようだ。ハンカチを手にしながら不思議そうな顔をしている。

「いや……ちょっと次の授業に使うテキストを忘れてきたみたい」
「えっ!?すみません私が側にいながら気づかず!」
「ううん、ボクが忘れただけだから。時間もまだまだ余裕があるしちょっと寮に取りに行ってくるよ」

 チラリと時計を見ればまだ20分は余裕がある。
 寮は学校のすぐ隣、余裕で間に合うだろう。

「でしたら私もっ……!」
「取って戻るだけだしシエルはゆっくりしてて。それじゃあ行ってきます」

 そう言って席を立とうとする彼女を抑えつつ俺は一人教室を出ていく。
 シエルが待っている上セーラに聞いた厳しいという言葉。俺はそのことを思い出しながら自然と進む足を早めて行くのであった。



 ******



「あったあった」

 駆け足でたどり着いた寮の一室。
 左右対称に配置された二人部屋の片側。俺が普段使う机の上に、目的のものが置かれていた。
 次の授業に使う"作法"のテキスト。内容はその名の通りあらゆる作法の基礎について書かれたもの。
 以前の……日本の授業ではなかったものだ。こういうものもしっかり時間を取ってやるのは貴族ならではというべきか。

 ともかく、教室で見つからなかった時は焦ったがやはり自室にあったらしい。
 俺はテキストを拾い上げて裏に書かれた自分の名前を確認しつつ、問題ないことを確認したところで不意に窓も開けていないのに一陣の風が俺の隙間をくぐり抜けた。

「ご無沙汰しておりますスタン様」
「――――そういうことでしたか」

 テキストだけが机に置かれている――――その異様さに気づいた瞬間、背後で扉が静かに閉まる音が響いた。
 反射的に振り返った俺の目に飛び込んできたのは、見覚えのある黒のスーツだった。

「体調は回復し、意識も明瞭なようですね。安心しました」
「……レイコさん」

 まるで待ち構えていたかのように。
 テキストを手にした俺の背後に立っていたのはレイコさんだった。
 彼女はいつもどおりの黒のスーツ、そして鉄面皮を身にまといこちらに軽く一礼してみせる。

「取りに来て頂いて助かりました。学校では私も迂闊に顔を出せませんので」
「……やっぱりコレはレイコさんの仕業だったんですね」

 やはりというか。俺としては予想の範疇だった。
 明らかに不自然に置かれてあるテキスト。忍者(自称)である彼女ならコレだけを引き抜いてしまうのは朝飯前だろう。
 見つからなかった時点で『もしかしたら』という思いはあった。だから1人でやってきたが当たりらしい。

「あれからお身体に異常はありませんか?」
「おかげさまで。レイコさんがこの部屋まで運んでくれたんですよね?」
「えぇ。あの時の容態から数日目覚めないことは分かっていたので。ならば城の医務室よりご友人方のお側がいいだろうと」

 それもそうだ。
 俺は二日と少し起きなかったと聞いている。それだけの期間城にいるよりはシエルたちの側で眠っていたほうが彼女たちも安心できるだろう。

「容態から……ってことはなんで倒れたか分かってるんですね」
「もちろんお答えします。その前に、一つ謝罪を。――――我が国王陛下並びに私共々、スタン様を危険に晒し、ご友人方に心配おかけしたことに深くお詫び申し上げます」
「いえ……無事済んだことですし……」

 深く深く頭を下げて謝罪するレイコさん。
 しかし俺はあまり責める気にもなれなかった。脳裏に浮かぶはエクレールの表情、そして小屋で見たレイコさんの顔。二人の顔を思い出せば責める気にもなれなかった。

「それが今日呼んだ目的です?別に後日でも全然構わなかったのですが」
「いえ、確かに目的の一つではありますが本題は別に。エクレール様に深入りされて喋られる前に釘を刺しておかなければならないことがあるのです」
「釘を……?」

 何やら穏やかではない発言だ。
 エクレールの耳には入れてほしくはない何か。俺に何を要求するつもりなのかと耳を傾ける。

「スタン様は先日魔道具によって転移させられ、あの平原へと飛ばされました」
「えぇ。おかげさまで助かりました」
「私は手紙を受取り迎えに来ただけですので……。そこでスタン様は女の子に助けられたかと思います」
「……えぇ、そうですね」

 思い出される黒髪の女の子。
 自分の背丈ほどもある剣を振り回し、俺の命を救ってくれた子。
 名前を知ることは叶わなかったが、恩返しのためにもいつか絶対再会しようと心に決めている。

 そんな俺の思いを知ってか知らずか。彼女は懐から一つのカプセルを取り出した。

「……それは?」
「これは魔道具……をもとに作られた薬です。飲んだ相手を一時的ではありますが心神喪失状態にするものでして、主に敵兵の自白や記憶の改竄に用いられます」
「はぁ……」

 唐突に取り出したカプセル。それが一体何だというのだ。
 意図が全く読み取れずに生返事をする俺に、彼女は淡々と、そして冷徹な声で言い放った。

「本題はその件になります。スタン様はこの薬を飲んで、あの女の子に関する全ての記憶を無くしていただきたいのです」
「――――はっ?」

 ――――何を言っているんだ。この人は。
 彼女の口から飛び出したのは耳を疑う言葉。
 俺は思いもよらぬその言葉に、頭の中が真っ白になってしまうのであった。
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