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169話、菓子パン市場とロールケーキ
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クロエが目指す魔術遺産までは、数日がかりの道程となる。なので食料補給の為に通りがかりの町や村に寄るというのがクロエの当初からの計画だった。
私達としてもその計画に異論はなく、ローレンス渓谷を出てしばらく歩いた所にある小さな村へと足を延ばした。
そこは小さな村ながらも、独自の品種であるブランド小麦を栽培していてちょっとした有名どころだ。
この村のブランド小麦を使ったパンは爽やかな小麦の甘みを強く感じられるらしく、特に菓子パンに重宝するというのだ。
そのせいかこの村では菓子パンの製造も力を入れていて、それを求めて外部の人間もよくやってくる。そこでこの村は効率よく菓子パンを売るための市場を村の中央通りに作り出した。
今やそこは菓子パン市場と呼ばれ、ブランド小麦に並ぶこの村名物となっている。
私達が村に来た時はちょうどお昼時で、菓子パン市場は今まさに盛況を迎えていた。小さな村とは思えないほどの人が往来し、道の左右に居並ぶ菓子パンの陳列台を眺めている。
さすがにこの規模の市場なので、村で製造した菓子パン以外にも付近の町から出店してきたお店の物もある。やはり話題性というのは重要らしく、この市場で売ると売れ行きが良いらしい。もちろん他の町で作られた菓子パンも当然ブランド小麦使用だ。
私達もその菓子パン市場をぶらぶら歩きながら、お昼の菓子パンを見繕っていく。
「そういえばクロエって甘い物好きだっけ」
「そう。この菓子パン市場には一度来てみたかった」
クールな感じのくせしてクロエは甘い物好き。魔術遺産の現地調査の時はいつも乾パンとか簡単な物でごはんを済ませているらしいが、普段はお昼は菓子パン派らしい。
私はどちらかというと、お昼に食べるなら総菜系の調理パン派。でも菓子パンも好きだからお昼ごはん代わりでも問題ない。甘い物はエネルギーになるしね。
しかしこんなにたくさんの菓子パンが売ってると、目移りして何を買おうか迷ってしまう。
「あ、メロンパンある」
「メロンパン……前食べたわよ?」
思わず手に取りそうになった時、ライラに言われて手が止まる。
確かに……メロンパンは以前お菓子の町ベルストで食べた。メロンパンは何度食べてもおいしいけど、せっかく菓子パン市場に来たんだからいつもとは違う菓子パンを食べた方がお得なんじゃないか、と思ってしまう。
そう考えるとますます迷いの極地に立つことになる。
何買おう……もうあれもこれも食べたい。
菓子パンってこうしてみると種類がいっぱいあるんだよ。コッペパンにジャムとかクリームが入ったタイプや、丸いパンの中にアンコが詰まったあんパン。サクサク生地のデニッシュに、ふわふわで甘い蒸しパン。菓子パンというには代わり種だけど、ドーナツやカステラまであるのだ。
「あ~どうしよ。ベアトリスは決めた? やっぱりラズベリージャムパン?」
「そうね……いえ、でもラズベリージャムパンは考えてみれば飽きるほど食べてるし、せっかくだから別のも食べてみたいわ」
私と同じ迷いの袋小路に入ってるじゃん。
「ライラは?」
「うーん、いっぱいあってよく分からないし、リリアが決めたのでいいわよ」
そう言われても……私は今迷いに迷いまくって何買えばいいか分からなくなってるんだよ。
……そうだ。クロエだ。菓子パンが好きなクロエの意見を聞いてみよう。
「クロエは何買うつもりなの?」
「私はこれ……」
クロエは迷うことなく陳列台から一つの菓子パンを手に取った。
透明な包装紙に包まれたそれは……。
「ロールケーキ?」
白の大きいロールケーキにしか見えない。
「正確にはルーラート。ロールケーキの原型になった菓子パン。スポンジケーキにバタークリームを塗って巻き上げた物で、味の種類も色々出ている。これはバニラ味」
「……本当だ」
ルーラートと呼ばれるロールケーキにしか見えない菓子パンは、バニラ味の他にモカ味があった。どうやら生地に塗り込まれているほか、中のクリームにもモカ風味付けがされてるらしい。
「おいしそうね、私もこれにするわ。モカ味」
ベアトリスも初めて見たのか、ルーラートを即決で手にする。
「えっえっ、じゃあ私もこれ。オーソドックスにバニラ味」
焦った私もルーラートに決めた。なんか雑に決めた感じだけど、ロールケーキな見た目のルーラートを見てから口の中がもうその味でいっぱいになってる。
首尾よくルーラートを購入した後は、村の外に出てしばらく歩き、適当なところで食べることにした。
甘いケーキ系の菓子パンなので、紅茶も淹れる事にする。やや濃いめに煮出し、渋めにしてみた。
それぞれに紅茶も行き渡り、早速ルーラートとやらを食べてみる。ライラは私とベアトリスのを少し上げたので、両方の味が楽しめてお得だ。
「ん……思ったよりロールケーキだ」
バニラ味のルーラートは、想像以上にロールケーキ。ふんわりとしたスポンジケーキに、濃厚なバタークリーム。バニラエッセンスの爽やかな香りも堪らない。
しかし甘い。物凄く甘い。思わず渋めの紅茶を飲んでしまう。口内が苦みでさっぱりし、そのせいで今度は甘い物が欲しくなる。なのでまたルーラートをぱくっと一口。
「いいわねこのルーラート。まんまロールケーキだけど、モカ味はちょっとビター感もあっておいしいわ。……これ、ラズベリー風にできないかしら?」
またラズベリーアレンジできないか考えてるよベアトリスは……。でも中のクリームをラズベリージャムにしたら普通にラズベリーロールケーキでおいしいんじゃないかな。
それにしてもこの濃厚な甘み。結構大きな菓子パンだから、一個全部食べるのも大変そうだ。
「……ごちそうさま」
そんなことを思っていたら、隣に座っていたクロエはペロっと食べ終えていた。
「え? もう食べたの? はやっ」
「……甘い物はすぐ食べられるから」
クロエはけろっとしながら言い、紅茶をこくっと一口飲む。
そして自分の鞄を開け、そこから袋詰めのドーナツを取りだした。
「……さっきの菓子パン市場で買ったやつ。リリアも食べる?」
「いや……これだけでお腹いっぱい、っていうか甘い物で胸いっぱいだからいいや。クロエよく食べられるね」
「甘い物は別腹……」
いや、さっきから甘い物だけ食べてるから。ルーラートもドーナツも同じ腹に入ってるからそれ。
甘い物好きとは知っていたが、こんなにバクバク食べられるほどなんだ。幼馴染の意外な一面を目の当たりにした私だった。
私達としてもその計画に異論はなく、ローレンス渓谷を出てしばらく歩いた所にある小さな村へと足を延ばした。
そこは小さな村ながらも、独自の品種であるブランド小麦を栽培していてちょっとした有名どころだ。
この村のブランド小麦を使ったパンは爽やかな小麦の甘みを強く感じられるらしく、特に菓子パンに重宝するというのだ。
そのせいかこの村では菓子パンの製造も力を入れていて、それを求めて外部の人間もよくやってくる。そこでこの村は効率よく菓子パンを売るための市場を村の中央通りに作り出した。
今やそこは菓子パン市場と呼ばれ、ブランド小麦に並ぶこの村名物となっている。
私達が村に来た時はちょうどお昼時で、菓子パン市場は今まさに盛況を迎えていた。小さな村とは思えないほどの人が往来し、道の左右に居並ぶ菓子パンの陳列台を眺めている。
さすがにこの規模の市場なので、村で製造した菓子パン以外にも付近の町から出店してきたお店の物もある。やはり話題性というのは重要らしく、この市場で売ると売れ行きが良いらしい。もちろん他の町で作られた菓子パンも当然ブランド小麦使用だ。
私達もその菓子パン市場をぶらぶら歩きながら、お昼の菓子パンを見繕っていく。
「そういえばクロエって甘い物好きだっけ」
「そう。この菓子パン市場には一度来てみたかった」
クールな感じのくせしてクロエは甘い物好き。魔術遺産の現地調査の時はいつも乾パンとか簡単な物でごはんを済ませているらしいが、普段はお昼は菓子パン派らしい。
私はどちらかというと、お昼に食べるなら総菜系の調理パン派。でも菓子パンも好きだからお昼ごはん代わりでも問題ない。甘い物はエネルギーになるしね。
しかしこんなにたくさんの菓子パンが売ってると、目移りして何を買おうか迷ってしまう。
「あ、メロンパンある」
「メロンパン……前食べたわよ?」
思わず手に取りそうになった時、ライラに言われて手が止まる。
確かに……メロンパンは以前お菓子の町ベルストで食べた。メロンパンは何度食べてもおいしいけど、せっかく菓子パン市場に来たんだからいつもとは違う菓子パンを食べた方がお得なんじゃないか、と思ってしまう。
そう考えるとますます迷いの極地に立つことになる。
何買おう……もうあれもこれも食べたい。
菓子パンってこうしてみると種類がいっぱいあるんだよ。コッペパンにジャムとかクリームが入ったタイプや、丸いパンの中にアンコが詰まったあんパン。サクサク生地のデニッシュに、ふわふわで甘い蒸しパン。菓子パンというには代わり種だけど、ドーナツやカステラまであるのだ。
「あ~どうしよ。ベアトリスは決めた? やっぱりラズベリージャムパン?」
「そうね……いえ、でもラズベリージャムパンは考えてみれば飽きるほど食べてるし、せっかくだから別のも食べてみたいわ」
私と同じ迷いの袋小路に入ってるじゃん。
「ライラは?」
「うーん、いっぱいあってよく分からないし、リリアが決めたのでいいわよ」
そう言われても……私は今迷いに迷いまくって何買えばいいか分からなくなってるんだよ。
……そうだ。クロエだ。菓子パンが好きなクロエの意見を聞いてみよう。
「クロエは何買うつもりなの?」
「私はこれ……」
クロエは迷うことなく陳列台から一つの菓子パンを手に取った。
透明な包装紙に包まれたそれは……。
「ロールケーキ?」
白の大きいロールケーキにしか見えない。
「正確にはルーラート。ロールケーキの原型になった菓子パン。スポンジケーキにバタークリームを塗って巻き上げた物で、味の種類も色々出ている。これはバニラ味」
「……本当だ」
ルーラートと呼ばれるロールケーキにしか見えない菓子パンは、バニラ味の他にモカ味があった。どうやら生地に塗り込まれているほか、中のクリームにもモカ風味付けがされてるらしい。
「おいしそうね、私もこれにするわ。モカ味」
ベアトリスも初めて見たのか、ルーラートを即決で手にする。
「えっえっ、じゃあ私もこれ。オーソドックスにバニラ味」
焦った私もルーラートに決めた。なんか雑に決めた感じだけど、ロールケーキな見た目のルーラートを見てから口の中がもうその味でいっぱいになってる。
首尾よくルーラートを購入した後は、村の外に出てしばらく歩き、適当なところで食べることにした。
甘いケーキ系の菓子パンなので、紅茶も淹れる事にする。やや濃いめに煮出し、渋めにしてみた。
それぞれに紅茶も行き渡り、早速ルーラートとやらを食べてみる。ライラは私とベアトリスのを少し上げたので、両方の味が楽しめてお得だ。
「ん……思ったよりロールケーキだ」
バニラ味のルーラートは、想像以上にロールケーキ。ふんわりとしたスポンジケーキに、濃厚なバタークリーム。バニラエッセンスの爽やかな香りも堪らない。
しかし甘い。物凄く甘い。思わず渋めの紅茶を飲んでしまう。口内が苦みでさっぱりし、そのせいで今度は甘い物が欲しくなる。なのでまたルーラートをぱくっと一口。
「いいわねこのルーラート。まんまロールケーキだけど、モカ味はちょっとビター感もあっておいしいわ。……これ、ラズベリー風にできないかしら?」
またラズベリーアレンジできないか考えてるよベアトリスは……。でも中のクリームをラズベリージャムにしたら普通にラズベリーロールケーキでおいしいんじゃないかな。
それにしてもこの濃厚な甘み。結構大きな菓子パンだから、一個全部食べるのも大変そうだ。
「……ごちそうさま」
そんなことを思っていたら、隣に座っていたクロエはペロっと食べ終えていた。
「え? もう食べたの? はやっ」
「……甘い物はすぐ食べられるから」
クロエはけろっとしながら言い、紅茶をこくっと一口飲む。
そして自分の鞄を開け、そこから袋詰めのドーナツを取りだした。
「……さっきの菓子パン市場で買ったやつ。リリアも食べる?」
「いや……これだけでお腹いっぱい、っていうか甘い物で胸いっぱいだからいいや。クロエよく食べられるね」
「甘い物は別腹……」
いや、さっきから甘い物だけ食べてるから。ルーラートもドーナツも同じ腹に入ってるからそれ。
甘い物好きとは知っていたが、こんなにバクバク食べられるほどなんだ。幼馴染の意外な一面を目の当たりにした私だった。
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