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184話、トマト園とコシャリ
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砂漠の町カルカダは、意外にも野菜の栽培が盛んらしい。
朝食べたモロヘイヤのスープもそうだが、砂漠だからといって食材に乏しいということはなく、緑黄色野菜が豊富に使われた色鮮やかな料理が目立つのだ。
特にトマトは様々な料理に使われていてその分消費量が多いので、この町では立派なトマト園で大量生産されている。
砂漠なのにどうやって野菜を作っているのか。そんな疑問を抱いた私だったが、実際その光景を見たら納得しかない。
川があれば緑も目立つもので、川から水を引いてきて畑を作りだしていたのだ。
一面黄色が目立つ砂漠の中で生まれた緑の楽園は、普段見るそれとは味わいが違う。
なんというか、大地の力強さを感じ取れるというか。そこで実る様々な野菜もきっと芳醇な旨みを備えているのだろう。
そんな野菜畑の一角にあるトマト園では、30分トマトの食べ放題ができるサービスがある。
朝食がスープだけで微妙にお腹が空いていたのもあって、せっかくだからと私達はそれに参加してみた。
「おおー、トマトだ」
「砂漠に実るトマトってのも不思議な感じね」
トマトなんて見慣れているし食べなれている。でも砂漠の中で実っているという事実が物珍しさを生み出していた。
トマトと一口に言っても色々な種類があるが、この食べ放題サービスでは、甘みが強いフルーツトマトを食べることができる。
早速茎からむしった取れたてのフルーツトマトにかぶりついてみる。
「おっ、甘い」
名前にフルーツと付くだけあって、その甘みは普通のトマトとは比べ物にならない。
通常のトマトは生だとやっぱり若干の青臭さが目立つが、フルーツトマトはそれが少なくその分甘みが強くて食べやすい。
大きさも小ぶりで、ライラでも食べやすいサイズだ。
「はぐっはぐっ……」
ライラもこの甘さに夢中なのか、わりと大胆にかぶりついていた。
しかしライラ以上に夢中なのが……。
「んふっ、甘いわ~」
がぶっとトマトに噛り付き、至福の笑みを浮かべるベアトリス。モロヘイヤのスープを飲んで以来食欲が倍増しているのか、むしゃむしゃトマトをかっ喰らっている。
「ベアトリスってトマト好きなの?」
幸せそうに食べる彼女を見て、ふとそんな疑問を抱いた。
ベアトリスは私の問いかけに、こくんと頷く。
「ええ、生でも火を通しても加工されているのも大体好きよ」
「……やっぱり赤くて血っぽいから?」
なんだか吸血鬼は血の代わりにトマトジュースとかを飲んでいるイメージがある。
だけどベアトリスは首を左右に振った。
「いえ、単純においしいからよ。特にこのフルーツトマトは甘くてもう野菜じゃなくてデザートね」
言いながらむしゃむしゃ食べ続けるベアトリスを見ていると、私ももう一個食べたくなった。
しかし、小ぶりとはいえトマトはトマト。プチトマトとは違ってやはりそれなりに大きいので、そんなにたくさん食べられない。
結局、二個目を食べた所で満足してしまった。ライラは一個で十分みたいだし、ベアトリスも二個食べたところでぱたっと動きが止まった。
「さすがにトマトばっかり食べられないわ」
「……だよね」
おいしいのはおいしい。でもやっぱりトマトはトマト。イチゴみたいな果物と違って、そんなにたくさん食べられない。
トマトの食べ放題って採算取れるのかな、と思っていたが、なるほど、そもそもそんなに食べられないものなのだ。インパクトで人の目を呼び、ここのトマトのおいしさを知らしめ、結局そんなに食べられはしない。いい商売だ。
トマト園からすごすご撤退した私達は、そろそろお昼時なのに気づき、お店を探すことにした。
トマトを二個食べたとはいえ、しょせんはトマト。どうにも水分を取ったという気持ちにしかならない。
朝はスープだけだったし、そろそろちゃんとしたごはんが食べたいところだ。具体的にはパンやお米などの炭水化物が食べたい。
そんな私達にうってつけの料理が、偶然にもこの町の代表的な料理だった。
その名はコシャリ。お米、マカロニ、パスタ、レンズ豆を混ぜたものに、トマトソースがかかった一品だ。
もう炭水化物まみれ。この暑さに負けないために、エネルギー源となる炭水化物がたくさん入っているのかも。
適当なお店に入った私達は、朝からスープとトマトしか食べてないのもあって、この料理を迷いなく注文した。
「……これがコシャリか」
やってきた料理を前に、ごくっと喉を鳴らす。
結構量が多いとの情報だったので、三人で一個を頼んだのだが……それは正解だった。
大皿にこんもりと盛られたお米やマカロニにパスタといった炭水化物。その上にタマネギとトマトソースが乗っている。
ここへ更にピリ辛なソースや酢などの調味料をお好みでかけ、混ぜてから食べるようだ。
コシャリには様々なトッピングがあり、人それぞれ好きな調味料をかけるので、色んな味があるとまで言われている。
そんなコシャリを前にして、早速私達は頂きますをする。
「とりあえずノーマルのままで食べてみよっか」
ざっくりとかき混ぜ、トマトソースがいい塩梅で混ざり合ったのを確認して、皆でぱくっと食べてみる。
スパイスも使われているのかエキゾチックな香りがある。それよりも食感が面白い。パスタやマカロニの弾力に、豆のポリポリとした感覚。炒めたタマネギはシャキシャキしている。
「意外と甘い味なのね。もうちょっと辛さを足してみましょう」
ああっ! ベアトリスが勝手にピリ辛ソースを入れ出したっ!?
「ちょっと酸味があってもいいんじゃないかしら?」
ああっ! ライラが勝手に酢を入れ出したっ!?
いつの間にか変わっていく味にうろたえつつも食べてみると、辛みと酸っぱさが良い感じで食欲をわき上がらせてくれる。
やっぱり暑いから、酸味や辛味がある方が食欲がわいてきておいしく感じるのかな。
「うーん、もうちょっとトマト感が欲しいわ。トマトソースかけましょう」
「なら、タマネギをもっとかけた方が味がまとまるんじゃない?」
ああ……ベアトリスとライラがじゃんじゃん味を変えてくる。でも味が変わって面白いかも。飽きずに次々と口に運べる。
二人の味変攻撃に翻弄されつつ、私は一口ごとに味が変わる不思議な料理を食べ続けていた。
朝食べたモロヘイヤのスープもそうだが、砂漠だからといって食材に乏しいということはなく、緑黄色野菜が豊富に使われた色鮮やかな料理が目立つのだ。
特にトマトは様々な料理に使われていてその分消費量が多いので、この町では立派なトマト園で大量生産されている。
砂漠なのにどうやって野菜を作っているのか。そんな疑問を抱いた私だったが、実際その光景を見たら納得しかない。
川があれば緑も目立つもので、川から水を引いてきて畑を作りだしていたのだ。
一面黄色が目立つ砂漠の中で生まれた緑の楽園は、普段見るそれとは味わいが違う。
なんというか、大地の力強さを感じ取れるというか。そこで実る様々な野菜もきっと芳醇な旨みを備えているのだろう。
そんな野菜畑の一角にあるトマト園では、30分トマトの食べ放題ができるサービスがある。
朝食がスープだけで微妙にお腹が空いていたのもあって、せっかくだからと私達はそれに参加してみた。
「おおー、トマトだ」
「砂漠に実るトマトってのも不思議な感じね」
トマトなんて見慣れているし食べなれている。でも砂漠の中で実っているという事実が物珍しさを生み出していた。
トマトと一口に言っても色々な種類があるが、この食べ放題サービスでは、甘みが強いフルーツトマトを食べることができる。
早速茎からむしった取れたてのフルーツトマトにかぶりついてみる。
「おっ、甘い」
名前にフルーツと付くだけあって、その甘みは普通のトマトとは比べ物にならない。
通常のトマトは生だとやっぱり若干の青臭さが目立つが、フルーツトマトはそれが少なくその分甘みが強くて食べやすい。
大きさも小ぶりで、ライラでも食べやすいサイズだ。
「はぐっはぐっ……」
ライラもこの甘さに夢中なのか、わりと大胆にかぶりついていた。
しかしライラ以上に夢中なのが……。
「んふっ、甘いわ~」
がぶっとトマトに噛り付き、至福の笑みを浮かべるベアトリス。モロヘイヤのスープを飲んで以来食欲が倍増しているのか、むしゃむしゃトマトをかっ喰らっている。
「ベアトリスってトマト好きなの?」
幸せそうに食べる彼女を見て、ふとそんな疑問を抱いた。
ベアトリスは私の問いかけに、こくんと頷く。
「ええ、生でも火を通しても加工されているのも大体好きよ」
「……やっぱり赤くて血っぽいから?」
なんだか吸血鬼は血の代わりにトマトジュースとかを飲んでいるイメージがある。
だけどベアトリスは首を左右に振った。
「いえ、単純においしいからよ。特にこのフルーツトマトは甘くてもう野菜じゃなくてデザートね」
言いながらむしゃむしゃ食べ続けるベアトリスを見ていると、私ももう一個食べたくなった。
しかし、小ぶりとはいえトマトはトマト。プチトマトとは違ってやはりそれなりに大きいので、そんなにたくさん食べられない。
結局、二個目を食べた所で満足してしまった。ライラは一個で十分みたいだし、ベアトリスも二個食べたところでぱたっと動きが止まった。
「さすがにトマトばっかり食べられないわ」
「……だよね」
おいしいのはおいしい。でもやっぱりトマトはトマト。イチゴみたいな果物と違って、そんなにたくさん食べられない。
トマトの食べ放題って採算取れるのかな、と思っていたが、なるほど、そもそもそんなに食べられないものなのだ。インパクトで人の目を呼び、ここのトマトのおいしさを知らしめ、結局そんなに食べられはしない。いい商売だ。
トマト園からすごすご撤退した私達は、そろそろお昼時なのに気づき、お店を探すことにした。
トマトを二個食べたとはいえ、しょせんはトマト。どうにも水分を取ったという気持ちにしかならない。
朝はスープだけだったし、そろそろちゃんとしたごはんが食べたいところだ。具体的にはパンやお米などの炭水化物が食べたい。
そんな私達にうってつけの料理が、偶然にもこの町の代表的な料理だった。
その名はコシャリ。お米、マカロニ、パスタ、レンズ豆を混ぜたものに、トマトソースがかかった一品だ。
もう炭水化物まみれ。この暑さに負けないために、エネルギー源となる炭水化物がたくさん入っているのかも。
適当なお店に入った私達は、朝からスープとトマトしか食べてないのもあって、この料理を迷いなく注文した。
「……これがコシャリか」
やってきた料理を前に、ごくっと喉を鳴らす。
結構量が多いとの情報だったので、三人で一個を頼んだのだが……それは正解だった。
大皿にこんもりと盛られたお米やマカロニにパスタといった炭水化物。その上にタマネギとトマトソースが乗っている。
ここへ更にピリ辛なソースや酢などの調味料をお好みでかけ、混ぜてから食べるようだ。
コシャリには様々なトッピングがあり、人それぞれ好きな調味料をかけるので、色んな味があるとまで言われている。
そんなコシャリを前にして、早速私達は頂きますをする。
「とりあえずノーマルのままで食べてみよっか」
ざっくりとかき混ぜ、トマトソースがいい塩梅で混ざり合ったのを確認して、皆でぱくっと食べてみる。
スパイスも使われているのかエキゾチックな香りがある。それよりも食感が面白い。パスタやマカロニの弾力に、豆のポリポリとした感覚。炒めたタマネギはシャキシャキしている。
「意外と甘い味なのね。もうちょっと辛さを足してみましょう」
ああっ! ベアトリスが勝手にピリ辛ソースを入れ出したっ!?
「ちょっと酸味があってもいいんじゃないかしら?」
ああっ! ライラが勝手に酢を入れ出したっ!?
いつの間にか変わっていく味にうろたえつつも食べてみると、辛みと酸っぱさが良い感じで食欲をわき上がらせてくれる。
やっぱり暑いから、酸味や辛味がある方が食欲がわいてきておいしく感じるのかな。
「うーん、もうちょっとトマト感が欲しいわ。トマトソースかけましょう」
「なら、タマネギをもっとかけた方が味がまとまるんじゃない?」
ああ……ベアトリスとライラがじゃんじゃん味を変えてくる。でも味が変わって面白いかも。飽きずに次々と口に運べる。
二人の味変攻撃に翻弄されつつ、私は一口ごとに味が変わる不思議な料理を食べ続けていた。
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