『本の中の世界が現実に? 主婦、ちょっとだけ異世界じみた生活はじめました』

きっこ

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第23話 『布で包む、ささやかなおでかけ』

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日曜の昼前。
結月はリビングで、いくつかの布を手に取りながら、小さく首をかしげていた。

「陽菜のおやつ、水筒、ハンカチ……うーん、今日はリュックじゃなくて、手提げでもいいかな?」

「ママ、なにしてるのー?」

「ふふ。今日はちょっとだけ、お出かけしようかと思ってね。
近くの公園に、新しいお店ができたっておばあちゃんに聞いたの」

「いくいくーっ!」



用意したのは、薄手のコットン布で作った包み布。
和柄に少し北欧っぽい配色を合わせたオリジナルのデザインで、両端を結ぶと、小さな手提げバッグのようになる。

《雑貨製作場》で最近追加された「ふろしきバッグ用の布」と「取っ手用リング」を組み合わせたアイテムだった。

(広げるとただの布なのに、結び方で表情が変わる……これ、便利でかわいくて、私好みかも)

陽菜の分は、白地にピンクとミントグリーンの小花柄。
タグには、例の“ありがとうハンコ”を押して、紐にくるっと巻いておいた。

「ママ、これすっごくかわいい……!ほんとに布でできてるの?」

「うん、でもちゃんと丈夫にできてるよ。結んだら、あっという間にカバンになるの」

「まほうのふくろだぁ~!」



近くの公園に着くと、陽菜はさっそく木の下でシートを広げ、小さな布バッグからおやつを出した。

「これ、ひろげるのもたのしいね!なんか、ピクニックみたい!」

「気軽に包んで、広げて、また包む――
“使いながら楽しめる”って、ほんと大事かもね」

結月はそう言いながら、自分のバッグから小瓶に入れた手作りハーブウォーターを取り出す。
ミントとレモンのスライスを浮かべた透明な飲み物は、見た目にも爽やかで、周囲の空気まで涼しく感じるようだった。



帰り道。
道端で、たまたま顔見知りのご近所さん――陽菜がよく“まりこさん”と呼んでいるお姉さん――に出会った。

「こんにちは、今日はおでかけ?」

「うん! ふろしきバッグでピクニックしたの!」

陽菜が自慢げにくるくると布を解いてみせると、まりこさんは目を丸くした。

「それ……すごい!かわいいし、使いやすそう。どこで売ってるの?」

「……あの、実は……少しずつ、ネットに出していて。
よかったら、後でご紹介してもいいですか?」

「うれしいっ!わたし、そういう“さりげない可愛さ”に弱くて……!」



その日の夜。
《雑貨製作場》の“ラッピングアイテム”ページに、新しい表示が浮かんでいた。

『ふろしき布(包む+使う)』
『シーン別・包み方見本帳』
『ふろしきタグと留め具セット』

使いながら、贈りながら、日常に溶け込んでいく“布のやさしさ”。
結月はページをなぞりながら、ふとひとつひらめいた。

(次は――“思い出を包むふくろ”を、作ってみようか)
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