『本の中の世界が現実に? 主婦、ちょっとだけ異世界じみた生活はじめました』

きっこ

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第24話 『たからものをしまう袋』

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時は少し戻り日曜日の夕方。

陽菜が床に広げた画用紙に、たくさんの“にこにこ顔”が並んでいた。

「この絵、ピクニックのときのやつー!」

「わぁ……木の下でおやつ食べてるとこ? この水色のぐるぐるは……?」

「ママのハーブウォーター!さわやかだったから、ぐるぐるにしたの!」

「なるほど……すてきな発想だね」

結月は微笑みながら、描き上がった絵を見つめた。

陽菜が描く絵は、いつも明るくて、どこかやさしい。
そういう“日常のきらきら”を、何かにそっと包んでおけたら――

(……そうだ、“思い出をしまっておく袋”を作ろう)



《雑貨製作場》を開くと、「記録と保管」カテゴリの中に新しい棚が増えていた。

『Memory Pouch(思い出袋)』

棚には、何種類もの布地とファスナー、ボタン、内ポケット用のパーツが揃っていた。

見本には、写真用の透明ポケット、紙類を守る防水裏地、
そして“タグを入れる窓”のついたポーチが並んでいる。

(なるほど、これは“飾る”じゃなくて、“大切にしまう”ための袋なんだ)



結月が選んだのは、淡いグレーに野の花模様が散りばめられた生地。
中はうっすらラベンダー色。手に馴染む柔らかさが心地よい。

内ポケットをひとつ、透明カバーをひとつ、
そして陽菜の絵がちょうど入るA5サイズに仕上げる。

表の端には、ほんの小さなタグをつけた。

“Hina’s Happy Days”
(陽菜のしあわせな日々)



「ママ~、なに作ってるの?」

「これはね、陽菜の“たからもの”をしまう袋。
絵とか、手紙とか、あとは……いま、がんばってる音読のカードも入れてみようか?」

「……えっ、それ、しまっていいの?」

「うん。きっといつか、“こんなことがあったね”って笑えるから」

陽菜は、おっかなびっくりポーチを手に取り、
この前描いた“ママのハーブウォーター”の絵と、
国語の先生からもらった“がんばり賞”のシール台紙を入れてみた。

「ほんとに入る!しかも、おしゃれ!」



その夜。
結月は自分の分も、小さな“思い出ポーチ”をひとつだけ作った。

布は落ち着いた藍色。内側は、春を思わせる明るい生成り色。

ポーチの内ポケットには、陽菜の描いた最初の似顔絵と――
涼が昔くれた、手書きの小さなメモをそっとしまった。

「いつもありがとう。今日もお疲れさま。無理しすぎないようにね」

(……これも、私にとっての“思い出”なんだよね)



《雑貨製作場》には、新しい表示が追加されていた。

『日々をしまう袋』
『手紙・絵・記録の保管用デザイン』
『子どもの成長アルバム風ポーチ』

そして、もうひとつ。

“We collect smiles, not dust.”
(しまうのはホコリじゃなくて、笑顔です)

結月は小さくうなずいた。

(どんなに小さなものでも、大事に包めば、ちゃんと“たからもの”になる)
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