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第1話 竜皇子、初対面から番(つがい)を離す気ゼロです
しおりを挟む◆リディアーヌ視点
竜皇国シエラード——広大な蒼天を統べる竜人たちの国。
その中心にある王城へ向かう馬車の中で、私は胸の前で両手をぎゅっと組んでいた。
「リディ、そんなに緊張するな。今日紹介する皇子は、優しいやつだ」
隣に座る兄、レオナールが微笑む。
兄の前ではツンツンする必要がないので、私は正直な気持ちをそのまま漏らした。
「……兄さま。優しいとかじゃなくて、その……竜人の皇子ですよね? 初対面の相手に失礼があったらどうしようかと」
「お前が失礼? はは、大丈夫だ。むしろ俺の友人が、お前に失礼しそうでな……いや、すまん。忘れてくれ」
何か言いかけて慌てて口を閉じた兄。
妙な胸騒ぎがしたけれど、考える余裕もなく王城に到着した。
私は深呼吸して馬車を降り、噂の“悪役公爵令嬢そのまま”の姿勢で背筋を伸ばす。
そう、私は悪役令嬢。……外面だけは。
本当は前世からの癖で、無駄に気を配りすぎる性質のせいで、冷たく見えるだけなのに。
でも前世の記憶があることは、この世界では絶対に隠さないといけない。
余計なことを口走らないよう、気丈に見せる習慣がついてしまったのだ。
「……兄さま、手が震えてるかもしれません」
「安心しろ。俺がついてる」
そう言ってくれる兄の優しさに救われながら、私たちは謁見の間へ足を踏み入れた。
その瞬間だった。
——視線が、絡みつく。
鋭いでも冷たいでもない。
熱い。
焼き付けるような、獲物を見つけた肉食獣の視線。
赤い絨毯の先で、竜皇子アルヴェイン殿下がゆっくりと振り向いた。
蒼銀の髪が光に揺れ、金色の瞳が私を捉える。
その瞬間、彼の気配が爆発したように強まった。
(……え?)
鼓動が、大きく跳ねた。
何これ。怖いとかじゃなくて……なんだろう、この感じ。
殿下が、ゆっくり歩いてくる。
足音が響くたび、何かから逃げられないような感覚に包まれる。
近づき、近づき——
近づきすぎ!!
「……お会いできて、嬉しい」
息が触れそうなくらいの距離で、殿下は低く囁いた。
初対面なのに、近い。近すぎる。
「え、あ、の……殿下、その、距離が……」
「気にする必要はない。俺はお前をこうして見つめていたい」
「ひっ……!?」
まっすぐ、熱く、逃がす気ゼロの視線。
周囲の貴族がざわつくのが聞こえた。
(なんで? 初対面なのに、どうしてここまで……?)
兄を見ると、兄は兄で『ほら見ろ……だから言っただろ』みたいな顔で頭を抱えていた。
どういうこと!?
◆アルヴェイン視点
——番だ。
リディアーヌ・フロストレイン。
公爵家の令嬢。表向きは冷たい悪役令嬢と噂されている彼女を見た瞬間、竜人の本能が吠えた。
彼女だ。
俺の唯一無二。
魂が欲する、ただ一人。
そしてそれだけじゃない。
(……前世の記憶の匂いがする。間違いない、彼女も“向こうの世界”から来た)
なんて美しい運命だ。
どうして今まで出会えなかったのかと思うほど、胸が満ちていく。
いや、理性が飛びそうだ。
我慢できるわけがない。
歩くたびに、もっと近くに、もっと触れたくなる。
手を伸ばせば届く距離に来た瞬間、彼女がかすかに震えた。
可愛い。
「……お会いできて、嬉しい」
本当は“やっと会えた”と言いそうになった。
危ない。まだ言うには早い。
逃げられたら困る。
だが距離を取る気はない。
すでに俺の中では決まっている。
彼女は、俺の番。絶対に手放さない。
「殿下、その、距離が……」
戸惑っている。
頬がわずかに赤い。
視線は泳いで、でも拒絶の気配はない。
ああ、俺は一生この顔を見ていたい。
「気にする必要はない。俺は貴女をこうして見つめていたい」
ほんの少し理性が滑ったが、もう遅い。
周囲がざわつこうと、友であるレオナールが頭を抱えようと、関係ない。
ようやく巡り会えた番だ。
俺が溺愛しないでどうする。
(……前世の記憶のことも、そのうち聞いてやる。隠れているつもりだろうが、全部可愛い)
◆リディアーヌ視点
殿下の視線が熱すぎて、胸の奥がざわっと震える。
「殿下……その。こんなに近いと、噂になりますし……」
「噂されて困ることでも?」
「こ、困ります!!」
普通困るでしょ!?
初対面の相手に、呼吸が触れそうな距離で見つめられるなんて。
でも殿下は、少し笑って——その笑いがまた、反則級に綺麗で。
「困らなくなるまで傍にいよう。……慣れればいい」
「な、なれ……っ!」
慣れる前に心臓が死んでしまう。
私は後ずさろうとしたが、背中に兄の手が添えられた。
「リディ、落ち着け。アルヴェインは……悪気はない。……いや、ある意味あるのかもしれんが」
「兄さま!? どういう意味ですか!」
「番だと、言っている」
「え?」
私の耳がおかしいのだろうか。
番?
番って、あの番?
竜人にとって——唯一無二、一生に一度の相手。
「ちょっと待ってください! 初対面ですよね!? 番って、そう簡単に……!」
「簡単ではない。だからこそ、だ」
殿下が、静かに、でも絶対の確信を持った声で言う。
「お前を見た瞬間、分かった。……俺の魂が、お前を選んだ」
ずるい。
そんなの、ずるい。
胸がぎゅっとなって、息が詰まった。
逃げるように顔を背けると、殿下は私の頬に手を伸ばし——
触れる寸前で止めた。
「……いま触れたら、帰せなくなる。だから今日は我慢する」
耳元で低く囁かれ、背筋が跳ねた。
(な、なにそれ……っ!)
本当に暴走気味。
でも、なぜか嫌じゃない。
そんな自分にまた混乱する。
◆アルヴェイン視点
彼女の反応、全部可愛い。
逃げるように視線を逸らすのに、耳の先が赤く染まる。
番と宣言されて怒るのに、声が震える。
強がるくせに、本当は優しくて、繊細で。
……最高だ。
友のレオナールが眉を寄せて近づいてくる。
「アルヴェイン。妹を驚かせるな。……いや、驚かせてるじゃないか」
「驚くのは最初だけだ。そのうち慣れる」
「慣れの問題か?」
「問題ではない。彼女は俺の番だ」
堂々と言い切ると、レオナールは「はあ……」と深いため息をついた。
だが構わない。
リディアーヌは俺の番。
この運命を手放すつもりは一切ない。
「リディアーヌ。また会いに行く。……すぐにだ」
困ったように、でもほんの少しだけ頬を赤くして、彼女は答えた。
「……っ、勝手にすればいいじゃないですか……」
そんなツンツンした返事に、胸の奥が甘くなる。
(ああ。可愛い。たまらない)
俺は笑いながら心の中で誓った。
——絶対に逃がさない。彼女は俺の番だから。
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