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第2話 竜皇子、初回の訪問から距離ゼロです
しおりを挟む◆リディアーヌ視点
あの日、竜皇子アルヴェイン殿下に「番だ」と宣言された翌朝。
私は朝から落ち着かず、紅茶も3口しか飲めなかった。
(だ、だって……! 初対面で番宣言って……)
思い返すたび、心臓が変な音を立てる。
兄のレオナールは「まあ……覚悟しとけ」としか言わなかったし。
(覚悟って何……? 私はどうすれば……?)
悩んでいると、使用人の少女が慌ただしく部屋へ駆け込んできた。
「お嬢様、こ、これは……!」
彼女が差し出したのは、竜皇国王城の紋章入りの封書。
「殿下から……です」
「ひっ……!?」
すごい勢いで心臓が跳ねた。
震える手で封書を開くと、そこには短く、美しい筆跡で一言。
『今日、迎えに行く』
「……な、な、何を迎えるのよ!?」
デート?
違う、ちが……いや、どうなんだろう!?
パニックになった私の背後に、兄が顔を出した。
「来たか」
「兄さま知ってたんですか!?」
「まあな……あいつ昨日、別れ際に“すぐ行く”って言ってたから」
「止めてくださいよ!!」
「無理だ。あいつは一度決めたら聞かないタイプだ」
兄は半ば諦め顔で肩をすくめた。
と、その時だった。
屋敷中に澄んだ竜の声のような響きが伝わってきた。
「……え?」
兄と使用人が顔を見合わせる。
「リディ。来たぞ」
「来たって……まさか、もう?」
窓を開けて外を見た瞬間、私は凍りついた。
——蒼銀の髪が、朝日に輝いていた。
竜の翼を半透明に出したまま、アルヴェイン殿下がふわりと庭に降り立つ。
「……っ、な、な、なんで翼を出して……!」
「目立つからだろうな。全力で来てる証拠だ」
「兄さま!!」
止めない兄に文句を言う暇もなく、殿下がまっすぐこちらを見た。
その金の瞳が、明らかに“捕まえた”と告げている。
「リディアーヌ」
名前を呼ばれただけで、体が硬くなる。
「迎えに来た」
(……迎えって、そういう……っ!?)
殿下は一歩近づくたび、竜人特有の熱を纏った気配を強めていく。
胸の奥がざわざわして、逃げたいのに足が動かない。
「今日は貴女を連れて歩く」
「えっ、あっ……そんな、急に……っ」
「急ではない。昨日から決めていた」
(そういう意味じゃない!!)
私が一歩下がると、殿下も一歩詰めてくる。
距離、ゼロに等しい。
「……ぼ、冒険者のように近づかないでください……!」
「番に近づくのは当然だ」
「違っ……!」
兄の前だというのに、殿下は私の手に触れようとした。
その手が、私の指先にかすった瞬間——
「っっ!!」
胸の奥が跳ね、体温が一気に上がる。
(なにこれ……触れただけなのに……!)
殿下は息を吐き、目を細めた。
「……やはり。触れると駄目だな」
「だ、駄目って……!」
「理性がなくなりそうになる」
「……っ!?」
兄が小さく咳払いをした。
「アルヴェイン。ほどほどにしろ」
「しているつもりだ」
「つもりでそれか……」
兄が呆れたように肩を落とす横で、殿下は私に手を差し出した。
「行こう。存分に貴女と話したい」
その言い方が、また心臓に悪い。
「話す……だけ、ですよね?」
「もちろんだ。……今日はな」
「!?!?!?」
なにその“今日は”って!!
兄はそんな私に小声でささやいた。
「リディ、諦めろ。あれはお前に一直線だからな」
「兄さまぁぁ……!」
「大丈夫だ。殿下は、リディにだけ甘い」
兄の言葉に、殿下が嬉しそうにこちらを見た。
……聞こえていたらしい。
「では、行こう。今日は街を案内する。貴女が知らない場所を、全部見せたい」
殿下は私を抱え上げるように腕を伸ばした。
「ま、ま、待っ——」
ひょい、と。
「きゃあっ!?!?」
腕の中に収められ、殿下が満足そうに笑う。
「……軽い。抱きやすい」
「下ろしてっ!!」
「無理だ。落としたら困る」
「落としません!!」
「保証がない」
「殿下の腕が強すぎるんですよ!!」
周囲の騎士たちが視線をそらし、兄は顔を覆った。
「……番だと、本当にブレーキ効かなくなるんだな、竜人は」
「知ってたろう、レオナール」
「だから困るんだよ……!」
そんな兄の嘆きなど意に介さず、殿下はそのまま悠然と歩き出した。
◆アルヴェイン視点
腕の中のリディアーヌが、恥ずかしそうに暴れる。
(……可愛い。全部可愛い)
抱き上げた瞬間、また本能が鳴り始めた。
番の温度、香り、鼓動。どれも俺を落ち着かせて逃がさない。
昨日は触れるのを我慢した。
今日は……少しだけ触れた。
それだけで、胸の奥の何かが満たされる。
「離してください……っ。人が見てます……!」
「見せておけばいい。貴女は俺の番だと」
「そんな言い方……!」
耳の先まで真っ赤になっている。
その反応が、また俺を甘くさせる。
「貴女を傷つける者がいれば、誰であろうと許さない。だから、人目は問題ない」
「……っ、そういうことをサラッと言わないで……」
小さく震える声。
その震えが、拒絶ではなく戸惑いゆえだと分かるのが嬉しい。
城下へ出ると、街の人々が一斉に頭を下げる。
そして俺の腕の中のリディアーヌに気づき、目を丸くした。
当然だろう。
皇子が女性を抱いて街を歩くなど前代未聞だ。
だが——
「殿下、お姫様抱っこ!!!?」
「番だ」
「ばんっ……!? えっ、あの噂の悪——」
周囲の声が高まり、リディアーヌが縮こまってしまう。
可哀相だ。
だから、優しく囁いた。
「気にしなくていい。貴女は悪役などではない」
「……殿下」
「誰より優しく、誰より強い。……それを俺は知っている」
「っ……!」
リディアーヌの体が、すこしだけ俺に寄りかかった。
(……ああ。可愛い。たまらない)
今すぐ抱きしめたい衝動を抑え、俺は優しく微笑んだ。
「まだ話したいことがある。ついて来てくれ」
「……は、はい……」
素直に返事をする彼女が愛しすぎて、胸が熱くなる。
だからこそ、俺は心の中で静かに決めた。
——絶対に、貴女の前世のことも、全て俺だけに話させる。
そして、絶対に離さない。番だから。
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