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二章『新しい生活』
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しおりを挟む☆アイリエス☆
アシュリーを私達の家へと招き入れた翌日。
「あ、アリス?」
『んー……?』
アシュリーの私を呼ぶ声に、眠っていた意識が少し浮上して薄っすらと目を開ける。
森で暮らしていた所為か、私達よりも朝の早いアシュリーは私と一緒に入っていたベットを抜け出して何処かへと行っていた様だ。
恐らくお手洗いと言った所だろうか。
眠る直前は抱いて寝ていた事と、寝ている間もアシュリーの体温を感じて居た為に、一人でベットに横たわる今は少し肌寒い寂しさをふと感じた。
『んー……、まだ早いぞアシュリー。ほら、こっちに来てもうちょっと寝ろー……』
「あ、アリス!おはよう!」
『うーん……、アシュリー。おいでー……』
今現在も私を呼んでいるアシュリーの声が耳には届いているが、ワザと寝ぼけた振りをして釣ってみると、アシュリーは見事に此方へと近づいてきた。
しめしめと内心思いつつ、不用意に近づいてきた獲物を捕まえて此方へと引っ張る。
すると、びっくりした様な声を出しながら此方へと倒れ込んできたので、それを見事にキャッチする事に成功した。
「うぁっ!?」
『んっふっふ、捕まえたぞ。アシュリー……』
ギュッと抱きしめてアシュリー成分を補給していると、ふとアシュリーの体から漂う美味しそうな匂いが鼻孔を擽る。
食欲を刺激する良い匂いだ。
首元に鼻先を付けて匂いを嗅いでいると、擽ったそうに身を捩りながら声を漏らすアシュリーが可愛い。
まぁそんな事をするのも早々に切り上げて匂いの原因は何だろうとアシュリーの顔を見てみると、少し顔が赤い所を除けば変わった所は……。
いや、口元に何かが付いている。
ひょっとするとお腹が空いて冷蔵庫を漁っていたのかもしれない。
口元に何かついていると伝えたが、アシュリーはきょとんとしているだけでうまく伝わっていない様だ。
口に指をやってチョンチョンとジェスチャーをしているというのに少し察しが悪い様な気がするが、そこもまた微笑ましい。
沸々と湧き上がるイタズラ心を抑えきれず、私はアシュリーの唇近くに付いている食べ物をペロリと舐め取った後、軽く唇が振れるぐらいのキスをする。
手で取ればいいじゃないかと思う所もあるし、アシュリー以外なら勿論そうする。
だが、今私はアシュリーの事を抱きしめているので手が塞がっているのだ。物理的にも心情的にも手が離せない状態というやつだ。
それにアシュリーの小さく可愛い唇に付いているモノだ。ご馳走だろう?
いや、寝起きのテンションの所為だ。忘れてくれ。
目に見えて狼狽するアシュリーに少し笑みが零れるが、それを何とか押し殺して私もそろそろ起きるとしよう。
アシュリーを見ているとついつい構いたくなると言うか、弄りたくなるというか……、イタズラ心を刺激される。
これでは私もローレルやエルの事を強く言えないな。
いや、でも私はアシュリーの特別だから、キスぐらい……。と自分は棚に上げて置く事にしよう、うむ。
さて、アシュリーから腕を放してベットから起き上がり、服を着替えようとしたところで、慌てて部屋から出ていこうとしていたアシュリーが不意に立ち止まったので其方を見る。
「ご、ごはん!」
『ん?ご飯?あ、あぁ、朝ご飯にしような。ん?なんだか下の階からいい香りが……』
と、一言告げたのでお腹が空いたのかと思ったが、余程慌てたのかアシュリーが開いたまま出ていったドアからは不思議と良い匂いが漂ってくる。
ひょっとするとローレルが先に起きて朝ご飯を作ったから私を呼びに来たのかもしれない。
ならばささっと着替えて下に降りるとしよう。
エルは確実に起きて居ない事は解っているので、起こすのを忘れずに……。
さて、服を着替えた後、エルの部屋をノックして名前を呼ぶが、これだけで起きる訳がないのは解りきっているので、何時もの様に部屋へと乗り込み、布団に丸まっているのを無理矢理引き剥がして起こすという何時もの儀式をする。
『うー……、何時もながらひでぇ起こしかただ……、明日からはアシュリーに頼む。おはようのキス付きで……』
『……どうやらまだ寝惚けているようだな、エル』
『冗談ですっ!起きました!ったく……、って言うか何時もよりちょっと早いじゃんかぁ、もうちょっと寝かせてくれよぉ……』
『あー、いや、時間的にはそうなんだが、どうやらもう朝ご飯が出来ている様でな。ローレルが早起きしたんだと思うんだが……』
『ふぁ……、二人して何を暴れているんですか?いつもより早いですが……』
『ん?あれ?ローレル?』
『おい、アリス。朝ご飯とローレルがどうしたって……?』
『あら?何を二人して不思議そうな顔をしているのですか?』
『え、いや、それが……』
と、事の次第を説明した所で、三人で急いで服を着替えて下へと降りてみると、ソワソワと落ち着きない様子で私達を待つアシュリーの姿と、完成された朝ご飯がテーブルに並ぶ光景が目に写る。
まさか、アシュリーが作ったのか?
『おぉ……朝ご飯が出来てる……。しかもうまそうだぞ……』
『あらあら、ホントに出来ていますね。昨日私の料理をしている所を熱心に見て居ましたが、まさか朝ご飯を作る為に……?』
『いや、しかし、森の中で暮らしていた筈なのにどうして料理が……?』
なぜ料理が出来るのかと疑問は浮かぶが、スープ等は昨日ローレルが作る所を見ていたのでそれで覚えたと言えなくもない。他も簡易的な物なので出来ない事は無いだろうが、初めて作ったにしては完成度が高すぎる様な……。
『まぁ、冷めるのもあれだ……。取り合えず、食べるか?』
『あ、あぁ、そうだな……』
『えぇ、頂きましょう』
色々と気になる点はあるが、アシュリーが私達の為に作ったというのなら食べない訳にはいかないだろう。
それに、先程から食欲を刺激する良い匂いから察するに、味の方も問題無いと思うには十分だ。
卵のほうは私も味見したと言えなくもない。
それはそれとして、椅子に掛けられたエプロンから察するに料理中はアシュリーが付けていたのだろうが、アシュリーのエプロン姿、か……。
それを見る事が叶わなかった事に対して、残念な気持ちが押し寄せてくる。
まぁいづれ見る事も出来るだろうと今は自分を慰めて置こう。それに今日は買い物に行く予定だ。
買う予定の物に、アシュリー用のエプロンを追加して置こう。
閑話休題。
スープを温めなおして器に注ぎ、四人分配り終えた所でそれぞれ席につく。
『さて、では頂こうか』
『いただきまーす』
『頂きます』
三人がほぼ同時に、料理を口に入れる。
そして三人が同時にカッと目を見開いて全く同じ事を言った。さすが長く一緒に苦楽を共にしたパーティーだ。
『『『おいしいっ!!』』』
「!!?……ふへへ」
私達が食べる所をジッと見つめていたアシュリーが、三人が揃って同じ事を大声で言った為に、少しビクリとしていたが、その言葉の意味を理解した途端に、モジモジしながら満面の笑みを零した。
本当に心底嬉しそうな笑顔だ。可愛すぎる。
そして料理は本当に美味しい。
『おいしいぞ!アシュリー、ありがとうな』
『ほんと美味いな、これ。ありがとなアシュリー!』
『えぇ、おいしいですね。ありがとうございます、アシュリー』
「ふへ、ふへへへ」
三人に礼を言われてまた嬉しそうな笑みを零すアシュリーを眺めつつ、パクパクと料理を平らげていく私達であった。
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