TS少女総受けファンタジー~拾われたTS少女は流されやすい~

熊と猫

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三章『お留守番』

3-7

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 胸に生まれたモヤモヤを払うのだ。
 心頭滅却すれば掃除もまた楽し。なんか違う。

 まぁ心頭滅却なんてしなくても、三人の家を掃除するのは既に私の中では楽しい事の部類に入る。
 娯楽が少ない世界だしね。まぁだからといって掃除に楽しさを覚えるとは思わなかったが。

 それはさて置き、現在は朝の日課と化している家の玄関先の掃除を行っている所だ。
 ゴミを掃いてそれを取ったり、雑草があれば抜いたりするだけの簡単なお仕事だ。
 まぁ初めて掃除をした時に玄関付近の雑草は抜いてしまったので、今は家の前の石畳で舗装された街道まで手を伸ばしている所だ。
 しゃがみ込んで雑草をプチッと抜いて、塵取りにポイッとを繰り返す。
 その繰り返す動作のしゃがむという動作がどうにも気になる。
 何故って、スカートが短いから何だか不安なんですっ。しゃがむ度に気になってスカートを押えるもんだから何だか余計な動作が一つ増えて余計に気になるというか何と言うか……。

 因みに私の今日のトータルコーディネートはローレルに買ってもらった物で、メイド服によく似た感じの服だ。
 それもクラシックなタイプじゃなくて、以前の世界やゲームの中でも見かけたことのあるコスプレ用みたいなミニスカートのやつ。
 色は黒でエプロン部分は白のスタンダードなやつだ。
 何方かと言うとクラシックなタイプのほうが良かったなぁ。ロングスカートだし……。
 下着もローレルが選んだのだが、何故紐なんだ……。しかも白いレースの……。何と言うかスケスケだし、つけ方は解らないしで朝からてんぱったが、よく考えると普通の蝶々結びでも良かったのか。
 手に持って固まっていたからローレルに付けてもらったけど、それはそれで恥ずかしい。
 でも何だか簡単に解けそうだよねこれ。それが更に不安さを煽る。
 今の私は自分史上最低レベルの防御力の低さだろう。

 そしてまた、スカートを押えつつしゃがんで草をプチッと抜いた所で、少し離れた所から私を呼ぶ声が聞こえた。

『おーい!アシュリー!ただいまぁぁっ!』

 この声は知っている。
 エルだ!
 手に持った草をポイッと塵取りに投げ入れて、辺りをキョロキョロと見回すと、少し離れた位置から此方へと駆けてくるエルの姿が目に入った。
 此方へと手を振りながら駆けてくるので、私もブンブンと手を振りながらエルを迎える。

 そして私の目の前まで駆けて来たエルはしゃがんで徐に私の頭を撫でた。
 そして私の姿を頭の先から爪先までを眺めて何かを言っている。まぁひょっとしたら似合ってない可能性もあるよね。

『なんだなんだ。その服良く似合ってるなぁ!可愛すぎるぞっ!これは……、多分ローレルの趣味だな。アリスの趣味じゃなさそうだ……。しかし、朝から掃除か?いや草むしりか?どちらにせよ精が出るな。よしよし。寂しかったか?寂しかったろ?』
「ふへへ、エル、おかえりっ!」
『おおっ……、まさかアシュリーからおかえりなんて言われる日が来るとは……。新婚さんみたいだなっ!ただいま、アシュリー!』

 おかえりと言うと少し驚いた顔をしたエルだったが、直ぐに満面の笑みでただいまと言いながら更に私の頭を撫でてくれた。
 あ、そういえば、行ってらっしゃいのキスはしていないが、あの時はまだそれに思い至る程この異世界の文化に詳しくなかったのだ。
 今はもう既に知っている事だからね。行ってらっしゃいで出来なかったし、おかえりなさいではして置いた方がいいんじゃないだろうか。

 そう思い至った私は、頭を撫でられつつ目の前にしゃがんでいるエルの方へ少し近づいて、顔を近づける。
 少し首を傾げているエルだったが、恐らくこの挨拶を私が知っているという事を知らないのだろう。
 ふふふ、びっくりするぞ。エルが出掛けている間に私は日々この世界の事を教えてもらっていたのだよ。

 そして、私がそれをするのと、ローレルの声が聞こえたのはほぼ同時だった。

『何やら玄関先でエルの声が……。戻ったのですか?』
「ちゅっ……、エル、お、おかえりっ!」
『あっ!!』
『え……?』

 やはり初めての人に対して行うこれは、想像を絶する恥ずかしさがあるな。
 しかし、予想通りエルはびっくりしているようだ。ハトが豆鉄砲食らった様なとはこの事か。
 その予想以上の驚きっぷりに、エルはいつも私を弄ってくるので、少し気が晴れたのは内緒だ。

 そして何故か、ドアから出て来たローレルとエルがフリーズしているという良く解らない状況から数秒後。

 首を傾げた所で、エルが何やらその手を私の頭に乗せたままブツブツと何かを言っている。

『え?どういう状況だ?これは夢だったのか?夢だとするとどこから……?いや、夢でもいい!アシュリー!結婚か!?結婚だなっ!?式は準備があるから明日にしようなっ!!!!』
『何をとち狂っているのですか!!それは貴女だけにじゃないですからねっ!!!結婚なんて許しませんよ!アシュリーは私の嫁ですからっ!!』
『どさくさに紛れて何言ってんだ!!アシュリーを嫁にするのは私だ!アシュリーと結婚するー!結婚するんだー!』

 突然スイッチが入るとびっくりするでしょ!
 二人共凄い勢いで何か言ってるけどなんて言ってるのか解らない。でも時折私の名前が飛び出しているという事は私が何かしたのか!?
 あたふたとしていたのも束の間、アシュリーと連呼したエルの腕に私は捕まえられた。
 ギュゥッと力強い包容をされたかと思うと、私の頬にはお返しのただいまのキスが飛来した。
 やはりあの行動は間違っては無かったのだろう。それは安心だけど……。
 安心だけども……。

『あぁ!久しぶりのアシュリーの温もりだぁっ!ただいまアシュリー!ちゅっ!!暖かい……』

 モニュムニュッ……。

「んゃッ……」

 その下げた手で私のお尻を揉むのはどうかと思うんだ。

 ムニュッムニュッ……。

「やぁッ!!」

 ビクリと体が跳ねた。変な感じが体を走ったのだ。
 両手で鷲掴みにするのはやめてっ!!
 スカートが短い上にその中の防御力も低いからぁ!だめえええ!

『おいおい、ここはどんな天国だ……。仕事頑張って帰ってきて良かった……。そのご褒美なんだな、これは……。ありがとう!』

 何故かお礼を言われている。身を捩って逃れようとするがやけに力が入らないのと、エルの力が想像以上に強い!
 たすけてー。ローレル助けて―!

『何時までやっているのですか!いい加減に離れなさいっ!』
『あいてっ!!?』

 私の願いは聞き届けられたのか、ローレルが何かを言った後、ゴスッという音を立てたかと思うとようやくその魔の手から解放された。
 直ぐに近くまで来ていたローレルの後ろに隠れつつエルをジト目で睨んでおく。
 頭を押さえている所を見るに、ローレル様からの天誅が下ったのだろう。
 反省しなさいっ!

 しかし、多少の不満はあれど、そこまで怒っている訳では無い。
 どこかこのやり取りを楽しいと感じてしまっている自分が居る。
 どこまでも仲の良い友達同士のじゃれ合いの様な、そんな夢見た光景の中に居る様な錯覚を与えてくれるから。
 だからどれ程エルに弄られようと、私がエルの事を嫌う事は無いだろう。
 少し迷惑には思うが、本人からすれば悪びれも無いので本当にじゃれている様な感覚なのだろう。

 エルが帰って来た事によってまた賑やかになりそうだと、内心楽しい気分になる私であった。
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