31 / 35
三章『お留守番』
3-7
しおりを挟む胸に生まれたモヤモヤを払うのだ。
心頭滅却すれば掃除もまた楽し。なんか違う。
まぁ心頭滅却なんてしなくても、三人の家を掃除するのは既に私の中では楽しい事の部類に入る。
娯楽が少ない世界だしね。まぁだからといって掃除に楽しさを覚えるとは思わなかったが。
それはさて置き、現在は朝の日課と化している家の玄関先の掃除を行っている所だ。
ゴミを掃いてそれを取ったり、雑草があれば抜いたりするだけの簡単なお仕事だ。
まぁ初めて掃除をした時に玄関付近の雑草は抜いてしまったので、今は家の前の石畳で舗装された街道まで手を伸ばしている所だ。
しゃがみ込んで雑草をプチッと抜いて、塵取りにポイッとを繰り返す。
その繰り返す動作のしゃがむという動作がどうにも気になる。
何故って、スカートが短いから何だか不安なんですっ。しゃがむ度に気になってスカートを押えるもんだから何だか余計な動作が一つ増えて余計に気になるというか何と言うか……。
因みに私の今日のトータルコーディネートはローレルに買ってもらった物で、メイド服によく似た感じの服だ。
それもクラシックなタイプじゃなくて、以前の世界やゲームの中でも見かけたことのあるコスプレ用みたいなミニスカートのやつ。
色は黒でエプロン部分は白のスタンダードなやつだ。
何方かと言うとクラシックなタイプのほうが良かったなぁ。ロングスカートだし……。
下着もローレルが選んだのだが、何故紐なんだ……。しかも白いレースの……。何と言うかスケスケだし、つけ方は解らないしで朝からてんぱったが、よく考えると普通の蝶々結びでも良かったのか。
手に持って固まっていたからローレルに付けてもらったけど、それはそれで恥ずかしい。
でも何だか簡単に解けそうだよねこれ。それが更に不安さを煽る。
今の私は自分史上最低レベルの防御力の低さだろう。
そしてまた、スカートを押えつつしゃがんで草をプチッと抜いた所で、少し離れた所から私を呼ぶ声が聞こえた。
『おーい!アシュリー!ただいまぁぁっ!』
この声は知っている。
エルだ!
手に持った草をポイッと塵取りに投げ入れて、辺りをキョロキョロと見回すと、少し離れた位置から此方へと駆けてくるエルの姿が目に入った。
此方へと手を振りながら駆けてくるので、私もブンブンと手を振りながらエルを迎える。
そして私の目の前まで駆けて来たエルはしゃがんで徐に私の頭を撫でた。
そして私の姿を頭の先から爪先までを眺めて何かを言っている。まぁひょっとしたら似合ってない可能性もあるよね。
『なんだなんだ。その服良く似合ってるなぁ!可愛すぎるぞっ!これは……、多分ローレルの趣味だな。アリスの趣味じゃなさそうだ……。しかし、朝から掃除か?いや草むしりか?どちらにせよ精が出るな。よしよし。寂しかったか?寂しかったろ?』
「ふへへ、エル、おかえりっ!」
『おおっ……、まさかアシュリーからおかえりなんて言われる日が来るとは……。新婚さんみたいだなっ!ただいま、アシュリー!』
おかえりと言うと少し驚いた顔をしたエルだったが、直ぐに満面の笑みでただいまと言いながら更に私の頭を撫でてくれた。
あ、そういえば、行ってらっしゃいのキスはしていないが、あの時はまだそれに思い至る程この異世界の文化に詳しくなかったのだ。
今はもう既に知っている事だからね。行ってらっしゃいで出来なかったし、おかえりなさいではして置いた方がいいんじゃないだろうか。
そう思い至った私は、頭を撫でられつつ目の前にしゃがんでいるエルの方へ少し近づいて、顔を近づける。
少し首を傾げているエルだったが、恐らくこの挨拶を私が知っているという事を知らないのだろう。
ふふふ、びっくりするぞ。エルが出掛けている間に私は日々この世界の事を教えてもらっていたのだよ。
そして、私がそれをするのと、ローレルの声が聞こえたのはほぼ同時だった。
『何やら玄関先でエルの声が……。戻ったのですか?』
「ちゅっ……、エル、お、おかえりっ!」
『あっ!!』
『え……?』
やはり初めての人に対して行うこれは、想像を絶する恥ずかしさがあるな。
しかし、予想通りエルはびっくりしているようだ。ハトが豆鉄砲食らった様なとはこの事か。
その予想以上の驚きっぷりに、エルはいつも私を弄ってくるので、少し気が晴れたのは内緒だ。
そして何故か、ドアから出て来たローレルとエルがフリーズしているという良く解らない状況から数秒後。
首を傾げた所で、エルが何やらその手を私の頭に乗せたままブツブツと何かを言っている。
『え?どういう状況だ?これは夢だったのか?夢だとするとどこから……?いや、夢でもいい!アシュリー!結婚か!?結婚だなっ!?式は準備があるから明日にしようなっ!!!!』
『何をとち狂っているのですか!!それは貴女だけにじゃないですからねっ!!!結婚なんて許しませんよ!アシュリーは私の嫁ですからっ!!』
『どさくさに紛れて何言ってんだ!!アシュリーを嫁にするのは私だ!アシュリーと結婚するー!結婚するんだー!』
突然スイッチが入るとびっくりするでしょ!
二人共凄い勢いで何か言ってるけどなんて言ってるのか解らない。でも時折私の名前が飛び出しているという事は私が何かしたのか!?
あたふたとしていたのも束の間、アシュリーと連呼したエルの腕に私は捕まえられた。
ギュゥッと力強い包容をされたかと思うと、私の頬にはお返しのただいまのキスが飛来した。
やはりあの行動は間違っては無かったのだろう。それは安心だけど……。
安心だけども……。
『あぁ!久しぶりのアシュリーの温もりだぁっ!ただいまアシュリー!ちゅっ!!暖かい……』
モニュムニュッ……。
「んゃッ……」
その下げた手で私のお尻を揉むのはどうかと思うんだ。
ムニュッムニュッ……。
「やぁッ!!」
ビクリと体が跳ねた。変な感じが体を走ったのだ。
両手で鷲掴みにするのはやめてっ!!
スカートが短い上にその中の防御力も低いからぁ!だめえええ!
『おいおい、ここはどんな天国だ……。仕事頑張って帰ってきて良かった……。そのご褒美なんだな、これは……。ありがとう!』
何故かお礼を言われている。身を捩って逃れようとするがやけに力が入らないのと、エルの力が想像以上に強い!
たすけてー。ローレル助けて―!
『何時までやっているのですか!いい加減に離れなさいっ!』
『あいてっ!!?』
私の願いは聞き届けられたのか、ローレルが何かを言った後、ゴスッという音を立てたかと思うとようやくその魔の手から解放された。
直ぐに近くまで来ていたローレルの後ろに隠れつつエルをジト目で睨んでおく。
頭を押さえている所を見るに、ローレル様からの天誅が下ったのだろう。
反省しなさいっ!
しかし、多少の不満はあれど、そこまで怒っている訳では無い。
どこかこのやり取りを楽しいと感じてしまっている自分が居る。
どこまでも仲の良い友達同士のじゃれ合いの様な、そんな夢見た光景の中に居る様な錯覚を与えてくれるから。
だからどれ程エルに弄られようと、私がエルの事を嫌う事は無いだろう。
少し迷惑には思うが、本人からすれば悪びれも無いので本当にじゃれている様な感覚なのだろう。
エルが帰って来た事によってまた賑やかになりそうだと、内心楽しい気分になる私であった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる