魔女の店通りの歩き方

川坂千潮

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空とほうき職人

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 魔女たちがほうきで空を飛んでいる。
 空には標識も信号もない。お互いにぶつからないよう、すれ違いざま、方向転換の際などに細心の注意を払っている。
 自転車や車、地上にだって便利な乗り物はたくさんあるが、魔女のたまごたちはいの一番にほうきを欲しがる。
 せっかく魔女に生まれたからには、ほうきで空を飛んでみたいのだ。

「今も昔も変わんねェ」

 魔女専用のほうき職人歴五十年の修司のもとには、毎年依頼が殺到する。
 ホームセンターで売られているようなほうきでも飛べなくはないが、やはり職人のほうきは人気だ。
 柄の握り心地、座り心地ともに市販とは別格で、体格に合わせて長さや太さ、穂の量も調整してくれる。ほうきの木の種類も選べるが、昔ながらの金雀児や馴染み深い竹がやはり人気だ。
 幼い魔女たちはほうきをアレンジしたがり、穂の編み方にこだわり、柄にぬいぐるみやチャームなどを付けたりする。
 黄色いほうきが欲しいと言った魔女もいた。修司は手ずからほうきを黄色く塗った。
 ちなみに魔女が成長するにつれて、あれもこれもとほうきを飾っていた雑貨は邪魔、重いとほとんど外してしまい、お気に入りのものだけが残る。

 大人の魔女でもこだわりが強いのがランプだ。灯りがないと夜に飛べず、さすがに月明かりだけでは心許なく、とはいえ懐中電灯では味気ない。
 最近は手頃でさまざまなデザインのランプが売っている。
 修司はあらゆる角度、深さでの切り込みを研究し、ランプを引っかける為に利便性の高いくぼみを削れるようになった。
 どんな注文であれ、ほうきと魔女に敬意を払い、腕をふるうのが修司の心意気だ。
 修司には弟子が五人いる。彼らもまた、ほうきと魔女に敬意を払い、ほうき職人として日々鍛錬している。
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