森と花の国の王子

あーす。

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略奪

遠ざかる故郷

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 レジィリアンスは走る馬車の窓から香る、甘い花の香りを嗅いだ。

…国中に漂う、優しい香り。
レジィリアンスはこの小さく、自然と共に暮らす人々の住む国を、誇りに思ってた。

男達は皆、素朴で心温かく、女達はかしましくも世話好きばかり。
エウロペと共に、農家の家を転々とした。
森の中の、猟師や木こりの家もあった。

皆、エウロペと親しく、優しく接してくれた。
追っ手が来ると、今居る家を出なくてはならない。
けれど新しい家は、粗末だけれどとても居心地良くて。
どの家のおかみさんの料理も、本当に美味しかった…。

窓から少し、顔を出す。
馬車の斜め後ろに、馬を駆るエウロペの姿が見えた。

際だって明るい、綺麗な緑色の瞳が、真っ直ぐ自分に注がれるのを見る。
その瞳はまるで励ますように思えて、レジィリアンスは少し、落ち着きを取り戻した。
が、隣に座す、エルデリオンを見やる事は、ためらわれた。

エルデリオンの気配を自分の中から極力消し、窓の外をずっと、眺め続ける。

煉瓦の道が続き、花々が咲き競う民家の間を抜ける。
家の軒下や庭で覗う人々が、不安そうにこの、ものものしい大軍を見つめている。

中央王国〔オーデ・フォール〕が領土に攻め入った話は、今では知らぬ者はいない。
だが国民の誰もが。
直、自国の王子が、中央王国〔オーデ・フォール〕王子の花嫁として、略奪された事を知るだろう。

レジィリアンスの心に、不安が広がる。
本当なら王子としてとっくに、手ほどきを受けてもおかしくない年齢。
けれど命を狙われる日々の中、そんな余裕はない。

恋すら、知らなかった。
憧れなら、幾度かあった。
行く先々の家々。
ある民家の少女は、レジィリアンスより年上。
明るい性格の、綺麗な栗色の長い髪をしていた。

彼女の気遣う温かさが好きだった。
いつか心温かく、優しく、美しい女性を妻にしよう…。
逃亡の日々の中、そんな漠然とした思いが、いつの間にか心に浮かび上がった。

若者となる日が来て、叔父の暗殺から逃れ、その時命があったなら…。

レジィリアンスはどんどん王城から遠ざかる、揺れる馬車の中で、花咲き乱れる森と花の王国〔シュテフザイン〕の景色を目に焼き付ける。

…やがて民家が途切れ、馬車は坂を上る。
木々がうっそうと、茂り始める。

…とうとう、森に入った。

この広大な、木々で埋め尽くされた小高い森が。
森と花の王国〔シュテフザイン〕と隣国、中央王国〔オーデ・フォール〕とを隔てていた。

さ程高くない山を抜けると、その先に大国中央王国〔オーデ・フォール〕の広大な土地が開けて来るはず。

レジィリアンスはその慣れぬ大国での生活に、不安を覚えずにはいられなかった。
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