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接近
レジィリアンスの寝室にて
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エルデリオンがノックした時、中から小声で
「…はい?」
と返事が聞こえた。
それで共同の居間に続く、レジィリアンス寝室の扉を開ける。
が、素っ裸のレジィリアンスが慌てて
「あっ!」
と叫び、大急ぎで布を体に巻き付けてるのを目にし、エルデリオンは素早く扉を少し閉じ、扉の影に姿を隠した。
頬を少し染めて俯き、囁く。
「…失礼しました」
レジィリアンスは真っ赤になって、慌てて巻き付けた布を脱ぎ捨てると、ガウンを羽織る。
そして僅かに開いた、扉の影にいるエルデリオンに告げた。
「あの…使用人の方かと思って…。
もう大丈夫です。
どうぞ、お入り下さい」
エルデリオンは俯き加減で扉を開け、濡れ髪で赤いガウンを着けた、レジィリアンスを見た。
金の髪は濡れて、頬に首筋に、まとわりついていた。
上気したピンクの頬と、小さく愛らしいピンクの唇。
大きな、宝石のように青く美しい瞳。
エルデリオンは努めて冷静に、訪問理由を囁いた。
「落とし物をお届けに」
握った手を少し前に差し出すと、レジィリアンスは寄って来るから、エルデリオンは手を開く。
レジィリアンスはほっとした様子で
「ああ、良かった!
借り物なのに、どうしようかと思ってました!」
そう言って宝石を受け取り、寝台の上に置かれた上着の、宝石が抜けた場所に置く。
「…縫い付けないと、ダメ…ですよね…」
エルデリオンはレジィリアンスの斜め後ろに立って、呟く。
「これはもう、貴方のものですから…。
けれどこんな、目立つ場所の宝石が抜けていたら…着れませんから、直させます」
レジィリアンスは振り向く。
「僕…の?
あの…難しいようでしたら…別の。
ちょっと綺麗な、ボタン程度で構いません」
エルデリオンは気を使うレジィリアンスに、微笑みかける。
「簡単に、直りますから。
お任せ下さい」
レジィリアンスは正直、裸を見られたのでは無いかと危惧したけれど。
エルデリオンの穏やかで紳士的な態度に、ほっとした。
エルデリオンは寝台の上の、上着を持ち上げかけ…咄嗟、レジィリアンスを片腕で抱き寄せる。
「…っ!」
レジィリアンスは目を見開いて驚き、突然エルデリオンの胸に抱き寄せられ、両手で胸を押して、俯く。
「あの…」
けれどエルデリオンはそれ以上動かず。
「…?」
レジィリアンスはてっきり、襲いかかられたのかと思ったのに…違ってる様子で、抱き寄せられたままエルデリオンを見上げた。
エルデリオンの視線は、暖炉の方に向けられてる。
「…なに…か、いました?」
尋ねると、エルデリオンは少しきついヘイゼルの瞳を、暖炉の床辺りに向け…。
レジィリアンスに視線を向けると
「ネズミが…見えた気がしたんですが…。
ネズミは、平気ですか?」
と尋ねた。
レジィリアンスは昔、暗殺者の手から逃げ込んだ古い納屋で、大きなネズミがいっぱいいて。
凄く怖かった事を思い出した。
まだうんと小さくて、ネズミが凄く、大きく見えた。
あの時はエウロペが、毛布に包んでくれて、一晩中、抱いていてくれた。
ネズミの動き回る音や、鳴き声に怯えると
「目を、閉じてなさい。
貴方に私が、近寄らせませんから」
と、頼もしい声で言ってくれた。
レジィリアンスは思わず、エルデリオンの胸に縋り付く。
「…あの…。
こんな豪華な場所でも…出るん…ですか…?」
エルデリオンは、怯えた様子のレジィリアンスを見つめ、囁く。
「ハーブの効果が、切れていたようです。
香油を撒きますから…よろしければ、こちらで…」
レジィリアンスを抱き寄せたまま、共同の居間の扉へと歩み寄り、扉を開けて導く。
レジィリアンスは居間へ入ると、ふかふかのソファに身を沈めた。
エルデリオンは寝室へ戻って、何かしてる様子だった。
間もなくミントの香りが、少し開いた扉から、レジィリアンスの座るソファまで漂ってきた。
大ネズミの出る、昔の納屋で…。
エウロペも、エリューンもテリュスからも、同じ匂いがしたっけ…。
エリューンもテリュスもまだ、少年で…。
テリュスは髭なんて、生やしてなかった。
エルデリオンは戻って来ると、笑顔で囁く。
「もう、大丈夫です」
横にエルデリオンが腰掛けると、レジィリアンスは思わず、エルデリオンの胸にすり寄ってしまった。
エルデリオンの、眉が切なげに寄る。
「…そんなに…怖かった?」
レジィリアンスは思わず、はっ!として、エルデリオンの胸に添えた両手を離す。
恥ずかしげに俯くと
「ネズミが怖いなんて…恥ずかしいですよね…」
と、小さな声で、囁いた。
「…はい?」
と返事が聞こえた。
それで共同の居間に続く、レジィリアンス寝室の扉を開ける。
が、素っ裸のレジィリアンスが慌てて
「あっ!」
と叫び、大急ぎで布を体に巻き付けてるのを目にし、エルデリオンは素早く扉を少し閉じ、扉の影に姿を隠した。
頬を少し染めて俯き、囁く。
「…失礼しました」
レジィリアンスは真っ赤になって、慌てて巻き付けた布を脱ぎ捨てると、ガウンを羽織る。
そして僅かに開いた、扉の影にいるエルデリオンに告げた。
「あの…使用人の方かと思って…。
もう大丈夫です。
どうぞ、お入り下さい」
エルデリオンは俯き加減で扉を開け、濡れ髪で赤いガウンを着けた、レジィリアンスを見た。
金の髪は濡れて、頬に首筋に、まとわりついていた。
上気したピンクの頬と、小さく愛らしいピンクの唇。
大きな、宝石のように青く美しい瞳。
エルデリオンは努めて冷静に、訪問理由を囁いた。
「落とし物をお届けに」
握った手を少し前に差し出すと、レジィリアンスは寄って来るから、エルデリオンは手を開く。
レジィリアンスはほっとした様子で
「ああ、良かった!
借り物なのに、どうしようかと思ってました!」
そう言って宝石を受け取り、寝台の上に置かれた上着の、宝石が抜けた場所に置く。
「…縫い付けないと、ダメ…ですよね…」
エルデリオンはレジィリアンスの斜め後ろに立って、呟く。
「これはもう、貴方のものですから…。
けれどこんな、目立つ場所の宝石が抜けていたら…着れませんから、直させます」
レジィリアンスは振り向く。
「僕…の?
あの…難しいようでしたら…別の。
ちょっと綺麗な、ボタン程度で構いません」
エルデリオンは気を使うレジィリアンスに、微笑みかける。
「簡単に、直りますから。
お任せ下さい」
レジィリアンスは正直、裸を見られたのでは無いかと危惧したけれど。
エルデリオンの穏やかで紳士的な態度に、ほっとした。
エルデリオンは寝台の上の、上着を持ち上げかけ…咄嗟、レジィリアンスを片腕で抱き寄せる。
「…っ!」
レジィリアンスは目を見開いて驚き、突然エルデリオンの胸に抱き寄せられ、両手で胸を押して、俯く。
「あの…」
けれどエルデリオンはそれ以上動かず。
「…?」
レジィリアンスはてっきり、襲いかかられたのかと思ったのに…違ってる様子で、抱き寄せられたままエルデリオンを見上げた。
エルデリオンの視線は、暖炉の方に向けられてる。
「…なに…か、いました?」
尋ねると、エルデリオンは少しきついヘイゼルの瞳を、暖炉の床辺りに向け…。
レジィリアンスに視線を向けると
「ネズミが…見えた気がしたんですが…。
ネズミは、平気ですか?」
と尋ねた。
レジィリアンスは昔、暗殺者の手から逃げ込んだ古い納屋で、大きなネズミがいっぱいいて。
凄く怖かった事を思い出した。
まだうんと小さくて、ネズミが凄く、大きく見えた。
あの時はエウロペが、毛布に包んでくれて、一晩中、抱いていてくれた。
ネズミの動き回る音や、鳴き声に怯えると
「目を、閉じてなさい。
貴方に私が、近寄らせませんから」
と、頼もしい声で言ってくれた。
レジィリアンスは思わず、エルデリオンの胸に縋り付く。
「…あの…。
こんな豪華な場所でも…出るん…ですか…?」
エルデリオンは、怯えた様子のレジィリアンスを見つめ、囁く。
「ハーブの効果が、切れていたようです。
香油を撒きますから…よろしければ、こちらで…」
レジィリアンスを抱き寄せたまま、共同の居間の扉へと歩み寄り、扉を開けて導く。
レジィリアンスは居間へ入ると、ふかふかのソファに身を沈めた。
エルデリオンは寝室へ戻って、何かしてる様子だった。
間もなくミントの香りが、少し開いた扉から、レジィリアンスの座るソファまで漂ってきた。
大ネズミの出る、昔の納屋で…。
エウロペも、エリューンもテリュスからも、同じ匂いがしたっけ…。
エリューンもテリュスもまだ、少年で…。
テリュスは髭なんて、生やしてなかった。
エルデリオンは戻って来ると、笑顔で囁く。
「もう、大丈夫です」
横にエルデリオンが腰掛けると、レジィリアンスは思わず、エルデリオンの胸にすり寄ってしまった。
エルデリオンの、眉が切なげに寄る。
「…そんなに…怖かった?」
レジィリアンスは思わず、はっ!として、エルデリオンの胸に添えた両手を離す。
恥ずかしげに俯くと
「ネズミが怖いなんて…恥ずかしいですよね…」
と、小さな声で、囁いた。
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